第2話
「すぴょー・・・。」
「すぴょー・・・。」
「すぴーっ・・・。」
三びきの健やかな寝息が辺りに響き渡る。
そんなマーニャたちを見つめる人間が4人。
このキャティーニャ村の山にあるというダンジョンにやってきた熟練冒険者4人組だ。
「・・・猫様だな。」
「ええ。猫様だわ。」
「ぐっすり眠っているな。」
「・・・寝顔が可愛いわね。」
冒険者たちは立ち止まり各々寝ているマーニャたちをじっくりと見つめた。
ダンジョンがある山の小道で気持ち良さそうにすぴょすぴょ眠る3匹の猫様たち。
猫様というのは、このレコンティーニ王国では神聖視されており、猫様は神に等しい生き物でもあるのだ。
故にこの国では猫様が崇拝されていたりもする。
猫様を見たら愛でる。
それが、この国の習慣でもある。
「・・・可愛いなぁ。」
「そうねぇ。可愛いわ。この右前足を枕にして眠っているところなんて、なんて可愛いんでしょう。」
「いやいやいや。黒い猫様が2匹で寄り添って眠っている姿もかわいいぞ。」
そう言って、冒険者の一人はクーニャとボーニャを指指した。
そこにはボーニャのお腹に頭を乗せて眠っているクーニャがいた。
ボーニャはちょっと苦しそうにも見えるが、クーニャをどかそうともせず、熟睡している。
ボーニャのお腹が息をするたびに上下し、その上下運動でクーニャの頭が上下する。
「・・・ぐっ。どっちも可愛い。」
冒険者の一人が両手で鼻を押さえた。
なにやら、出してはいけないものが出てきそうになったのだ。
「それにしてもなんだって、猫様たちがこんなところで寝ているんだ?」
「さあ?まさかダンジョンに向かってるわけでもあるまいし。」
「こんにゃに可愛い猫様たちですよ。きっと保護主がどこかにいるのではないでしょうか?」
「そうだよな。こんなに可愛いんだもんな。もう誰かに保護されているだろうな。羨ましいな。こんなに可愛い猫様を保護できる保護主は・・・。」
「ほんとうに・・・。羨ましいことだ。」
冒険者たちは、それぞれに羨ましいとマーニャたちを眺めていた。
その時間軽く1時間は経っていただろう。
「おっ!キジシロの猫様の耳がぴくぴくと動いたぞ。」
冒険者の一人がマーニャの耳がぴくぴくと動いたのに気づいて声をあげる。
「あら、目元もぴくぴくしているわね。」
「ほんとうだ。可愛いなぁ。」
「うん。可愛い可愛い。」
マーニャが眠りから目覚めようとしているのか、ぴくぴくと目元が動いた。
次第にマーニャの前足がみよぉーんと前に伸びた。
「うみゃ・・・。みゃ・・・。」
口からは可愛らしい鳴き声が聞こえる。
なにかしゃべっているようにも見える。
「くふふっ。可愛い。ほっぺをツンツンしたくなりますね。」
「ああ・・・。」
ペロリと小さな口から小さな舌がのぞく。
そうして、うっすらとマーニャの目が開いた。
「にゃっ!!」
マーニャは見られていたことにびっくりとしたのか、サッと立ち上がるとまだ寝ているクーニャとボーニャに駆け寄った。
「にゃぁ!にゃにゃにゃ。」
ぺしぺしとマーニャの長い虎柄の尻尾がクーニャとボーニャの顔やお腹に当たる。
どうやら尻尾で起こしているようだ。
マーニャの瞳は警戒するようにじっと冒険者たちを見つめていた。
「あっ・・・。猫様。」
距離を取り警戒している表情のマーニャを見て、冒険者たちの顔が悲しみに歪んだ。
可愛い猫様に警戒されることほど悲しいことはない。
「猫様。私たちはあやしいものではありません、こんなところでどうしたんですか?」
低姿勢でマーニャのご機嫌を伺う冒険者。マーニャはそれでも警戒を緩めなかった。
「・・・ん・・・んにゃ。」
「ふにゃぁあああん。」
そうこうしているうちに、クーニャとボーニャが目覚めたようだ。
みょーんと前足を伸ばしたり、後ろ足を伸ばしたりしている。
「みゃっ!!」
そんなのんびりとしているクーニャとボーニャにマーニャが渇をいれる。
「にゃぁ!!」
「にゃっ!!」
クーニャとボーニャも冒険者たちが近くにいるのがやっとわかったようだ。
警戒するように姿勢を正すクーニャとボーニャ。
それは、すぐに逃げ出せるような姿勢をしていた。
「ああ・・・。起こしてしまってすまない。でも、俺たちは猫様たちに危害を加えたりはしない。ただ・・・愛でていたいだけなんだ。」
「にゃ?」
冒険者が自らの欲望を告げると、マーニャが首を傾げた。それを真似るようにクーニャとボーニャが同じように首を傾げる。
「ぐっ・・・。猫様可愛い。」
「なんで、この子達こんなに可愛いのぉ!!」
「にゃああ~~ん?」
マーニャが目を大きく見開き冒険者たちを見つめる。
そのまあるい目に冒険者たちはノックアウトされた。
「可愛い。可愛いよ、猫様。かわいすぎる。」
「あぅあぅ。もうダメですぅ。可愛すぎます。つれていきたいです。」
「なあ、俺たちと一緒に行くか・・・?」
冒険者の一人がマーニャたちに手を差し出す。
あまりの可愛さに連れていきたくなったようである。
その冒険者をもう一人の冒険者が慌てて止める。
「だ、ダメだよ。リーダー。私たちはこれからダンジョンに向かうんだから。」
「そ、そうか・・・。」
ダンジョンという危険な場所に猫様たちを連れていけないと冒険者の一人はリーダー格の冒険者に詰め寄る。
だが、マーニャたちは≪ダンジョン≫という言葉に反応した。
そう、マーニャたちはダンジョンに向かっている途中なのだ。
ここで、冒険者に抱かれて移動すれば移動がとっても楽になる。
そう思い至ったのである。
ただ、残念ながらマーニャたちの思いが冒険者に伝わることもなく、冒険者たちはマーニャに背を向けて歩き始めてしまったのだった。
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