第三五八食 旭日真昼といつものコーヒー
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三月上旬の陽光がカーテンの隙間から部屋に
桜の季節に一歩ずつ近づいているといってもまだまだ冷え込む朝の空気の中、保温性の高いインナーウェアに身を包んだ少女は、この一年間――厳密には半年間――
コンロの上に乗っていた手鍋を火にかけ、冷蔵庫を
続いて肉の脂の旨味が残ったままのフライパンに
食パンの
同じサンドイッチをもう一つ作り、火にかけていた手鍋から昨晩のお味噌汁を器によそう。サンドイッチと一緒に食すなら洋風のスープが似合うかもしれないが、自炊生活にそのようなこだわりは無用というのがとある青年の教えだ。それにパンと味噌汁というのは一見ミスマッチに映るものの、実際にはとてもよく合うのだ。味噌ラーメンが美味しいのだから、同じ小麦粉と味噌の相性が悪いはずもない。
トースターから出てきたパン耳のお菓子をサンドイッチの皿回りに盛り付け、冷めないうちにいそいそと部屋のテーブルへ運ぶ。味噌汁の器から真っ白い湯気が立ち上る中、クッションの上で正座した真昼は手を合わせて小さく「いただきます」。
また、あっという間に二切れを胃に収めたあたりで中休み代わりにパン耳をつまんでみると、蜂蜜のじんわり優しい甘さが舌をリセットしてくれた。一部焦げてしまっている部分もあるが、むしろラスクに近い感覚で食べられるのでお得気分になれたくらいだ。
「はふぅ……おいしかったあ」
ものの五分ですべて食べ終え、
そう、今日から始まるのだ――運命を決める学年末考査が。
「……」
しかし真昼は、思っていたほど緊張していない自分自身に驚く。しっかり勉強した自覚があるからか、それとも単に開き直ってしまっているだけなのか。もしかしたら今回の一件で、程よい力の抜き方を覚えたおかげなのかもしれない。
「よし……いこう!」
コートを
「……ごんっ?」
妙な物音に、少女は首を
というわけで外を見てみてると、やはりそこには誰も立っていない。先ほどの音の正体はどうやら扉外側のドアノブに引っ掛けられた小さなビニール袋。その中身がドアを開けた拍子に打ち付けられた音だったようだ。
「なんだろ、これ……?」
不思議に思いながら袋を覗いてみると、中には
「あれ……
確かにそれは、恋人の部屋に置かれていた記憶のあるものだ。もしやと思い、折り畳まれた紙を開いてみると――
『真昼へ
これ飲んで試験頑張れ!
「……」
たったの三行、それだけが書かれた手紙をぽかんと見つめ、少女はとりあえず魔法瓶の
ふーふーと冷ましてから、熱々の中身をぐいっと
「ズルいですよ……こんなことされたら、ますます会いたくなっちゃうじゃないですか……」
二〇六号室の扉を見つめて、そんなことを呟く真昼。手を伸ばせば、声を上げれば届く距離にいるはずの彼の胸に今すぐ飛び込み、力いっぱい抱き締められたらどれほど幸せだろうか。
そんな全身を支配する欲望をどうにか抑え込み、真昼はそちらに背を向けて歩き出す。
「ありがとうございます、お兄さん――行ってきます!」
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