第三五六食 うたたねハイツとデリバリー④
★
「
「いつも通りおいしかったよー。ごちそうさまー」
「いや、こちらこそありがとう。ごめんな、変なこと頼んで」
夕暮れ前の午後五時過ぎ。
「それでどうだった? 真昼、ちょっとは元気になってたかな?」
「それはもう」
「朝までのまひるんはなんだったのってくらい元気になってたよー。なんか色々意地張ってたけど、やっぱりおにーさんのごはんが恋しかったんじゃないかなー」
「そっか、なら良かった」
心配事が一つ解消されたからか、
「……で、アレはなにやってんだ?」
「「あー……」」
自室の玄関前に立つ夕が
「だ・か・らッ!? いいからさっさと出てきなさいっつってんだってのッ!? すぐそこに彼氏がいるんだからッ!?」
「むっ、無理ムリむりッ!? 言ったでしょ、私はテストが終わるまでお兄さんとは会わないって!?」
「あんたまだそんな言ってんの!? 家森さんはあんたのこと心配してわざわざご飯まで用意してくれたのに、いつまでもどうでもいいことにこだわってんじゃないってのッ! いいからちゃんと会って目見てお礼言いなさいッ!?」
「だ、だって今私絶対可愛くない顔してるもんっ!? こんな状態でお兄さんの前に出られるわけないでしょ!? 服もすっごく適当だし、お
「そんなんいつものことでしょうがこのナチュラル美形があああああっ!?」
「んぎゃああああああっ!? 引っ張らないで引っ張らないでっ!? うで、腕がちぎれちゃうううううっ!?」
「……ナンダアレ」
「――……お、お兄さん、そこにいますか?」
「! お、おう。いるぞ」
やがて
「ごめんなさい、お兄さん。私……今はまだ、お兄さんと合わせる顔がありません」
「……そっか」
「はい。でも今日、久し振りにお兄さんのごはんが食べられてよかったです。すごく……すっごく、おいしかった」
「……そっか」
相変わらず
「お兄さん、あとほんのちょっとだけ待っててください。私、お兄さんとまた一緒にごはんが食べられるなら、なんだって頑張れると思うから」
「……ああ」
「でも、ちゃんと
「……はい!」
互いに相手の顔も見えぬまま、それでも力強く返事をする真昼。そんな二人のことを静かに見守る三人の友人たちは「ああ、もう大丈夫だ」と確信した。
ほんのわずかな言葉で少女の心を動かした青年。そこになんだか悔しさを覚えてしまうのは、友人ならではの嫉妬心のせいなのかもしれない――ひよりはそんなことを考えてフッと自嘲する。そして、そのせいで見逃してしまった。自分のすぐ近くに立っている亜紀がニィッと
「まひるーん! もしまひるんがおにーさんとの約束をちゃんと守れたら、全部終わった後におにーさんがチューしてくれるってー!」
「ッ!?」
「は、はあッ!? ち、ちょっと待て
「や、家森さん!?」
とんでもない
「……ごめん、みんな。私、さっさと今日の勉強終わらせてごはん食べて、早寝早起きしなきゃいけなくなったからもう部屋に入るね。今日はどうもありがとう。また学校で」
「アッ、ハイ」
二〇五号室の扉がパタンと閉じられ、後に残されたのは
「……アキ……あんたって本当、邪悪だと思うわ……」
ニヤニヤ笑いながら最も効率的な方法で真昼の心を動かしてみせた悪魔に、ひよりはぼそりと小さく呟くのであった。
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