第三三九食 夕と真昼と大切な居場所②
「お兄さんは私に構わず寝ちゃってくださいね? 私は眠たくなるまでお兄さんの寝顔を観察してますから!」
「いや寝づらいにもほどがあるわ。あ、あとそんなに抱きつくなって……」
「えー、いいじゃないですかあ……今日はみんなもいたから、あんまりお兄さんと二人きりになれませんでしたし、今くらいは甘えさせてください」
「うっ……」
「お兄さん」
「! な、なんだ?」
胸の中からこちらを見上げる真昼に目を向けると、少女は柔らかな、それでいて真剣そのものの
「私、この町に来て本当に良かったと思うんです」
「え……? どういう意味だ?」
「あはは、そのままの意味ですよ」
軽い笑い声を上げ、真昼が夕の左手の指に自らのそれを絡ませる。普段なら青年の分間心拍数が二〇も三〇も引き上げられそうな行為。しかし今日に限って夕はなぜか、手の中の小さな
「お父さんとお母さんにワガママを言って、
「……」
夕がほんの少しだけ手に込める力を強める。一瞬、想像してしまったのだ。腕の中にいる彼女が
「お兄さんだけじゃありません。ひよりちゃんとも
「……ああ、そうだな」
青年が静かに首肯する。日本の人口が一億だと仮定すれば、特定の一人と出逢える確率は一億分の一。一〇〇〇万分の一と言われる宝くじ一等の当選確率よりもずっと低いのだ。ましてや出逢った二人が互いに恋に落ちる確率など、もはや天文学的領域に片足を突っ込んでいる。
少しオーバーで、ロマンチストじみた考え方かもしれない。それでも真昼は、その桜色の唇を美しい笑みの形に変えた。
「今日、みんなと一緒にお出かけして、たくさんお
「……!」
「……急にそんなこと言い出さないでくれよ……不安になるだろ」
「? 不安……って、どんな不安ですか?」
「まるで最後の……別れの言葉みたいで、君が俺の隣から居なくなるんじゃないか、って」
「あはは、そんなことあるわけないですよ。これまでだって何度も言ってますよね? 私はこの先一生、お兄さんのことが好きだって」
そう言われても、夕が腕の力を弱めることはなかった。真昼の言葉を疑っているわけではない。ただ、この手を離したら彼女がどこか遠くへ行ってしまうような気がして。
そんな青年の直感的な
「お兄さんとお喋りしてたらなんだか眠たくなってきちゃいました……仕方ないから約束通り、私は自分のお部屋に――」
「……帰らなくていい」
「ふぇ?」
前言を撤回した夕に、真昼がぱちぱちと
「帰らなくていいから……今は俺の側に居てくれ」
「……ふふ、珍しい。いつもは私ばっかりなのに、今夜はお兄さんが甘えん坊さんなんですか?」
からかうように言いながらも、少女は嬉しそうに彼の胸に頬を寄せた。それに対して「うるさいよ」と
「おやすみなさい、お兄さん」
相変わらず湯たんぽのように温かい真昼が
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