第三三八食 夕と真昼と大切な居場所①
★
店の前で
「じゃあ、また明日な。
「あはは、分かってますよう。それじゃあお兄さん、おやすみなさい」
「ああ」
いつも夕方から夜にかけては夕の部屋に入り
「(久々に遠出して俺も楽しめたけど……でも流石に疲れたなあ……)」
自室へ入り、手早くシャワーと歯磨きを済ませた夕は、一〇時を過ぎる前には就寝準備を済ませてしまっていた。天井灯の光を真っ暗になるまで落とし、安物の三つ折マットレスの上にゴロンと寝転がる。そしてふかふかとは言い
「お兄さぁん……?」
「へ……? って、うぎゃああああああッ!? ぐへぁっ!?」
突如、ぼうっ、と暗闇の中に人の顔が浮かんで見えて、夕が驚きのあまり
「だだ、大丈夫ですかお兄さん!? すみません、驚かせちゃって!?」
「い、
「は、はい」
後頭部を
「なんでそんなこっそり入ってくるんだよ……それになんだよ、その悪意しかない携帯の使い方は」
「ご、ごめんなさい。部屋の明かりが消えてたので、もしお兄さんがもう寝てるなら起こすのは申し訳ないなと思って……」
「音もなく枕元に忍び寄られる方がよっぽど怖いわ。それで一体どうしたんだ? やっぱりお
「いえ、大丈夫です。自分の部屋で簡単なサンドイッチを作って食べてきましたから」
「(食べたんだ……)」
電灯を
しかし、それなら彼女はどうしてここに来たのだろうか? そんな疑問を口にするよりも早く、枕をぎゅうっと抱き締める真昼は控えめな声で言った。
「あ、あのお兄さん……今日は一緒に寝てもいいですか?」
「は、はあ? ど、どうしたんだよ急に?」
「その、今日はすっごくすっごく楽しかったから目が
「ええ……?」
要は遠足の前に眠れない子どもの逆バージョンということか。どうやら真昼は楽しい記憶が頭の中でぐるぐると繰り返し再生され、意識が覚醒してしまうタイプらしい。
「(別にまだ一〇時なんだし、寝付けないなら無理に寝ようとしなくてもいいとは思うけど……)」
とはいえついさっき「夜更かしするなよ」と注意した手前、そうも言いづらい。なによりここで「嫌だ、一人で寝ろ」と突っぱねるのは恋人としていかがなものだろうか。
「……仕方ない。ちょっと横で話くらいは付き合うよ。でも眠れそうだと思ったら、なるべく自分の部屋に戻るんだぞ?」
「本当ですか!? ありがとうございます! それじゃあ失礼して……」
「お、おう」
真昼が早速もぞもぞと布団の中に入り込んできて、夕は前回と同じように全身を緊張させる。一度経験したことながらも、
「えへへ、お兄さんと
にへにへと緩んだ
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