第三三四食 鍋メンたちと楽しい時間③
ヒトは、地球上で最も知能の高い生物であるとされている。知能が高いとはすなわち賢いということ。そして賢いとはすなわち、利に
たとえば、食。他の動物や植物を狩り・食らうに
この食の問題一つとってもそうだが、ヒトは自らの利益のためならどこまでも
そして利に聡く残酷なヒトという生き物は、逆に利を生まぬものに対しては恐ろしいほど無関心だ。
たとえば自宅付近に殺人鬼が歩いていれば誰だって警察に通報する。しかしそれは「もしかしたら自分の安全な生活も
無論これらは大袈裟な例だが……しかし少なくともその
「ぐすっ……うえぇん……お母さん、どこぉ……っ!」
広く騒がしいショッピングセンターの真ん中で、一人ぽつんと泣きじゃくる小さな少年。誰がどう見たって迷子だ。そんなことは、あの少年の様子を認識したすべての者が分かっている。
だというのに、周囲を歩く大人たちは皆見て見ぬフリだ。ある者はチラリと
「……チッ」
そんな悪意の無関心が
「……オイ、大丈夫か?」
「ふぇ……? って、ヒイッ!?」
ぶっきらぼうに投げ掛けられた声に一瞬泣き
「迷子か? 母親か父親は?」
「ぴっ――ぴぎゃあああああっ!? た、たすけてお母さあああああんっ!?」
「!? お、オイ、なんで余計に泣く!?」
より一層大きく泣き叫んだ少年に、ギョッとした周囲の人々が一斉に視線を向ける。小さな子どもを見下ろす金髪の人物、泣き声に混じって聞こえてきた「たすけて」の声。先ほどは見て見ぬフリをした大人たちのうち、正義感に駆られた何人かがガタッと椅子を蹴った音が響く。どうやら単なる迷子は無視出来ても、〝ヤバそうな女に絡まれている子ども〟を見過ごすことは
「――じゃねェンだよ! オイガキ、よく聞け! オレァただテメェが迷子だと思ったから声掛けただけだ!?」
「ぜったいウソだあああああっ!? うわあああああんっ!?」
「嘘じゃねェよ! あァクソッ……ギャーギャー泣き
「いや、そりゃ泣くでしょ。完全に悪役のセリフだもん」
「俺がその子でも泣く自信しかない」
まるで立て
「はいはい、千鶴ちゃんは下がって下がって。キミはあれだよね、自分の
「ンだとッ!?」
「まあああいう時にいち早く動けるのは美徳だと思うけどさ、でもさらに怯えさせちゃったら本末転倒だってば。ってことで夕、お手本見せてあげてね」
「偉そうに言っといて、やるのは俺なのかよ」
「いやあ、私上手に泣いてる子どもの相手する自信ないんだよね」
ヒラヒラ手を振って丸投げしてくる蒼生にため息を
「ボク、どうして泣いてたんだ?」
「え……お、お母さんとはぐれちゃって……」
千鶴が視界から消えたおかげか、少しだけ平静を取り戻した少年が鼻を
「そんなの、まったく泣くほどのことじゃないさ」
「そ、そうなの?」
「ああ。ちょっとお店の人のところに行って、『お母さんを呼び出してください』ってお願いすればすぐに見つかるよ。はは、男の子が大泣きしてるから何事かと思えば」
「! な、泣いてないもんっ!?」
わざと馬鹿にしたように笑ってみせた夕を見て幼い自尊心が刺激されたのだろう、少年が服の
「いい子だ。さあ、それじゃあ迷子センターまで一緒に行こうか」
少年の頭にぽんと手を乗せた夕は、そう言ってもう一度優しく笑った。
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