第三三三食 鍋メンたちと楽しい時間②


 今回の目的地は、この近郊では最大級のショッピングセンターだ。衣料品・化粧品・家電など様々な商材を扱う販売店がずらりと立ち並び、また有名・高級ブランドのアウトレット品やシーズンオフの季節商品を取り揃えた店舗も多数出店されている。

 メインのショッピングフロアは二、三階で、一階部分には比較的廉価れんかなアクセサリーやハンドメイド品の露店や、歩きながら飲み食いしたい若者をターゲットにえたワンハンドフードの屋台が。もちろん家族向けのフードコートのキャパシティも相当なものであり、中央の吹き抜け広場には催事さいじ用の半円舞台まで用意されていた――残念ながら、本日は子ども向けの小さなイベントがいくつか行われるだけのようだが。


 これだけ大きな商業施設には当然それに見合うだけの客が訪れるわけで、特に休日かつ大きなバーゲンセールが行われている今日は、学生の他にも大人のカップルや子連れの夫婦で大いににぎわっている。二時間ほどかけてやって来たゆうたち七人もその中に加わり、歩くというよりは〝人波に流される〟感覚であちこちの店を見て回った。そして――


「「も、もう無理……」」

「えー……もう、蒼生あおいさんも家森やもりさんもしっかりしてくださいよ」


 わずか数時間後、そこには早くも疲れ果ててベンチにもたれ掛かっている情けない大学生二人の姿があった。それを見て腰に両手を当てたのは、眼鏡少女の雪穂ゆきほである。


「もっと色々見て回らないともったいないじゃないですか。こんなところ、滅多に来られないんですからね?」

「い、いや、むしろ雪穂たちがなんでそんなにピンピンしてるのかが不思議なんだけど……ね、夕?」

「ああ、同感だ……バーゲンのためにこんな人混みと格闘するくらいなら、多少高くついてもネット通販で買った方が絶対得だろ、精神的に……」

「なにダメな現代人みたいなこと言ってんですか。ほら、蒼生さんも立ってくださいってば。次はあっちのお店に行きますよ!」

「ええっ!? ち、ちょっとくらい休ませてよ!? 私、運転手も頑張ったんだしさあ!?」

「ダメです。休むのは帰りの車までお預けです」

「それあと何時間後の話なのさ!? ゆ、夕からも何か言ってやってよ!」

「お兄さん、大丈夫ですか? 今日は朝も早かったですし、疲れちゃいましたよね……そうだ、そこのフードコートでなにか飲み物でも買ってきましょうか?」

「あ、ありがとう、真昼まひる……」

「ズルいよ! なんでキミだけ彼女に甘やかされてるのさ!? 夕なんて別に運転したわけでもなんでもないのに!?」


 場内パンフレットを団扇うちわ代わりにしてパタパタとあおいでくれる心優しい恋人を持った友人に嫉妬し、ギャーギャーと文句を付けるイケメン女子大生。そんなあまりにも見苦しい同級生たちの姿に千鶴ちづるが呆れたように息をいたところで、ちょうど彼らのいるベンチからほど近いフードコートのテーブルが一ついた。


「……もうお昼過ぎですし、一旦食事にしませんか? 家森さんも青葉あおばさんもお疲れみたいですし」

「だねー、私もそろそろおなかすいてきちゃったしー。雪穂もそんなせかせかしないでさー、ごはん食べてからのんびり回ろー?」

「むう……しょうがないなあ」


 ひより、亜紀あきのフォローのおかげで雪穂が折れ、ほっと安堵あんどするダウン組二名。それからテーブルが埋まってしまう前に素早く席を確保すると、元気のあり余っている高校生組が率先して立ち上がる。


「それじゃー私たちでごはん買ってくるから、おにーさんたちは荷物番よろしくねー」

「えっ、いいの?」

「悪いな、ありがとう」

「いえいえー。千鶴さんはお昼、なに食べたいー?」

「……なんでもいい。任せる」

「おっけー。じゃーなんか適当に買ってくるねー」

「私もなんでもいいや。雪穂、お願いね」

「はいはい」

「お兄さんはどうしますか?」

「んー……あっさり系で俺が好きそうなやつあったらそれで。なかったら適当に軽いものでいいや」

「分かりました! じゃあ行ってきますね」


 注文を聞き出し、四人揃って売店の方へ向かう女子高生たち。そして彼女たちの背中にヒラヒラと手を振って見送った後、残された大学生組はそれぞれの姿勢でくつろぎ始める。


「『俺が好きそうなやつ』って、アレで通じるのかい?」

「んー、まあ大体はな。真昼は俺の好きな味付け、大体分かってくれてるから」

伊達だてに半年以上一つ屋根の下で暮らしてないねえ、ひゅーひゅー!」

「中学生以下のあおりやめろ、ウザいし腹立つ。つーか千歳ちとせ、お前すごいな。あの子たちのペースに合わせてて疲れないのかよ?」

「別に。あれくらいで疲れるテメェらが軟弱なんじゃく過ぎンだよ」

「そうだよ夕。キミなんて助手席で座ってただけのクセに」

「クッ……長らくうちとどまっていたことがあだになったか……!」

「ただの運動不足を仰々しく表現するのやめなよ」


 三人がそんな無駄話をしていた、その時だった。


「ぐすっ……ひぐっ……! うわーんっ! お母さん、どこーっ!?」


 そんな子どもの泣き声が聞こえてきたので、夕が「ん?」と後ろを振り返る。するとフードコートの出入り口付近にある大きな柱の脇で、小学生くらいの男の子が目に手を当てて泣きじゃくっているのが目に入った。


「あれ……迷子か?」

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