第二七三食 家森夕と旭日真昼2ー①
★
「お兄さん、ただいまですっ!」
「うおっ、びっくりした!?」
ドドドドッ、ガチャッ、ドドドドッ、バーンッ!
「お、おかえり、真昼。
「あ、いえ、すぐそこからです! お兄さんの分もしっかり
「あ、ありがとう……」
少女から手渡された、『気合と根性!』という
遠い目をした夕が御守りを片手にそんなことを考えていると、定位置にちょこんと座った真昼が「そういえば」とこちらを見上げてくる。
「さっきそこで
「へ、変な言い回ししないでくれないか。あいつが一人で
「あはは、またまた~。いくらなんでも匂いだけで酔ったりしませんよ」
「(
口には出さぬまま、夕は
「……あれ、お兄さん。これ、まだ中身入ってますよ?」
「あ、ああ、うん。それはいいんだ」
「? もしかしてお兄さんが飲むんですか?」
「まあ、そんなとこ」
真昼から手渡されたのは、唯一蒼生が手をつけずに置いていったアルコール度数三パーセントの缶チューハイだ。これから真昼と大切な話をしなければならない夕に対し、「
「(こんな一本で
夕は特別酒に強いわけではないものの、チューハイ一本で酔っ払うほど弱くもない。それくらい、大学の飲み会で何度も飲み会で
「あ! それじゃあ私がお
「え……ち、チューハイをか?」
「はい、実はちょっと憧れだったんです! コップとってきますね!」
「あっ。お、おいっ?」
夕が答えるよりも先に、いそいそとキッチンへ消えていく真昼。ビールや日本酒ならまだしもチューハイの酌をするという可愛らしい発想に、青年は思わず苦笑してしまう。なんとなく
「お客さあん、今夜は好きなだけ飲んでってくださいねえん? 今日はお店の
「いやまだ昼だし、酒もこの一本しかないし……というかそのキャラはなんのドラマの影響だよ」
「クリスマス会の時にひよりちゃんのお母さんが
「まさかの昼ドラ!? 高校生のクリスマス会場でなんてもん流してんだ小椿母!」
「私はアルバイトがあったので途中までしか
「その感想だけでどんな話だったのか、大体想像ついたよ……」
そんな話をしている間に、真昼が夕のグラスにピンク色の液体を
「さあお兄さん、ぐいっと飲んじゃってください! でもお酒を一気に飲むと身体に悪いそうなので、ちょっとずつ飲んでくださいね!」
「(どっちだよ)」
両極端な注文をしてくる少女に心中でツッコみつつ、〝ぐいっと勢いよくグラスを傾けて
「(考えてみるとかなり久し振りだな、酒飲むの。だからって、やっぱり酔いはしないけど……)」
この程度では素面となにも変わらない。ほんの少し――そう、ほんの少しだけ、じんわりと身体が熱を
「(そういや、真昼になんて伝えるか考えてなかった……女の子にこんなこと言うの、初めてだもんなあ)」
心臓の
「(こういう時、なんて言うのが正解なんだろう……なんて言ったら、この子は一番喜ぶだろう)」
思考を巡らせてみるものの、頭に浮かぶ言葉は一つだけ。それ以上はなにも思い付かないし、思い付けない。
であれば――それでいいのかもしれない。
「えへへ、どうですかお兄さん! お酒、美味しいですか?」
「うん、
「はい?」
「――俺と、付き合ってくれないか?」
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