第二三七食 旭日真昼と前々夜
★
「わ……もう真っ暗だ」
人生初のアルバイトを終え、娘を迎えに来た
「(お仕事って大変だけど、結構楽しいなあ。お兄さんはいつも『やらずに済むならバイトなんかしたくない』って言ってるけど……長く続けると大変になってくるのかなあ)」
真昼は「今日もバイトか……」とぼやく隣人の青年を思い出してくすくすと笑う。彼はここ最近、以前までよりもシフトを増やしているような気がするが、冬休みで大学の授業がなくなるからだろうか。基本的にいつも金欠の彼のことだ、少しでも生活費を稼ぎたいというのは当然の欲求なのかもしれない。
ちなみに真昼は、たった二日間だけとはいえバイトを始めたことを青年に伝えていなかった。彼の性格上、「お兄さんへのプレゼントのためにバイトします!」なんて言ったら反対されることは分かりきっていたし、かといって嘘の下手な
ゆえに今朝は〝明日ひよりちゃんのお
「(お兄さん、きっともうご飯食べちゃったよね……)」
最近取り替えられたのばかりなのか、一つだけやけに明るい蛍光灯の下を
とんとんとん、と階下の住民に気を遣っていつもより静かに階段を
「思ったより遅いな――……って、あ」
「え?」
まさにその二〇六号室の扉が内側から開かれ、部屋の
「お、お兄さん!? どうしたんですか、そんな格好で!? ダメですよ、また風邪引いちゃったらどうするんですか!」
つい一週間ほど前に寝込んだばかりの青年に急いで駆け寄ると、彼は「そんな
「別に出掛けようとしてたわけじゃないよ。ただ、君の帰りが思ってたより遅かったからちょっと心配でさ。一応メッセージも飛ばしたんだけど、返事がなかったから」
「え゛っ!?」
慌てて携帯電話を確認すると、たしかに一時間ほど前に夕からのメッセージが一通入っている。この時刻はまだ業務中であり、携帯はロッカーに置いていたため気が付かなかったようだ。『帰りが遅くなりそうなら迎えに行くから気兼ねなく言え』という
「ご、ごめんなさいお兄さん、気が付きませんでした……」
「いや、謝らなくてもいいよ。帰り道、大丈夫だったか?」
「あ、はい。雪穂ちゃんのお父さんが一緒に車で送ってくれたので」
「そっか。パーティーの準備も無事に終わったのか?」
「へ?」
「え?」
一瞬の沈黙。そしてすぐに「あっ、そういうことになってるんだった!」と思い出す。
「も、もうバッチリですよ!? 朝からひよりちゃんたちと飾りつけの準備をしたり、お菓子の買い出しに行ったり……あ、あとはえーっと、け、ケーキをたくさん売りましたっ!」
「え……け、ケーキを売った……? 買ったんじゃなくて?」
「ハッ!? まま間違えましたっ、そうですっ、ケーキをたくさん買ったんです! ほ、ほんとですよ、売ってないですからね!?」
「お、おう、そりゃそうだろ。ケーキ屋――
「!? ちち、
「お、おう……?」
自ら
「おっ、ちょうど米が
「えっ!」
驚きの声を上げたのはもちろん真昼だ。今日は彼の方も朝からバイトに入っており、つまり遅くとも夕方頃には帰ってきていたはずなのだが……いつもの夕食の時間よりも随分遅いのに、もしや
「お――お兄さんのそういうところが好きですっ!」
「!? い、いきなり何言ってんの!?」
クリスマスの
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