第二三四食 千歳千鶴とアルバイター①
★
オレという人間は、
いや、この言い方は少々
オレが言ったのはそういうハナシではなく、なんと言えばいいのか……〝
たとえば、だ。想像してみてほしい。
目の前にオッサンが一人いる。
思い浮かべたか? それじゃあ次だ。
そのオッサンに〝ふわふわ金髪縦ロールのカツラ〟と〝ヒラヒラしたショッキングピンクのドレス〟、〝身長を一〇センチは盛れそうなハイヒール〟を装着させ、コテコテの厚化粧を
……思い浮かべたか?
では、率直に聞こう――どう思った?
ちなみに、ここで「人の趣味は
ヒトの多様性だの無数の価値観だの、そういう複雑かつ社会的な考えを
そんな、明日の夢に出ること間違いなしの地獄絵図を想像してもらった上でもう一度聞こう――どう思った?
ぶっちゃけ、大多数の感想は「怖い」「キモい」「逃げ出したい」のいずれかに収まるんじゃないだろうか。いや、世の中には素で「
それでは、そのオッサンを可愛らしい少女に置き換えてみたらどうか。もちろん初老でもなければムキムキでもない、金髪と桃色のドレスがよく似合う西洋人形のような美少女。そんな少女が遠くからこちらに手を振り、とてとてと
おそらく、大多数の感想は「可愛い」「綺麗」「愛らしい」のいずれかに収まるだろう。「
まァこれらはあまりにも極端すぎる例だが、要するに何が言いたかったのかといえば〝人には似合う物と似合わないものがある〟ということ、そして〝その似合う似合わないは
「(……相変わらず、似合わねえ……)」
バイト先の事務所、
「あらぁん? もう来てたのねん、千鶴ちゅわん。相変わらず似合わないわねぇん、その制服」
「……あんたにだけは言われたくねェっす、店長」
そう返しながらオレが目を向けた先にいたのは、先ほど思い浮かべてもらったオッサンを三割酷くして具現化したかのような
「あらぁん、ヒドイこと言うのねぇん。こぉんなに愛らしい生き物、世界中探したってそう
独特な
「実は今日から二日間だけぇん、臨時のバイトの子が来るからねぇん」
「(あァ……そういや、毎年クリスマスは売り子を
うちのケーキ屋は大した店ではなく、基本は店頭販売しか行っていない。そのため平時のスタッフ数はそれほど多くないのだが、流石に一年で最もケーキが売れる日――すなわちクリスマスイヴだけは人手が足りないため、売り子を増員して業務に当たるのだ。
余談だが、クリスマス当日のケーキの売上は
「あ、噂をすれば来たみたいねぇん。千鶴ちゅわん、教育はあなたに一任するからぁ、しっかり明日までに使える状態にしておいてねぇん」
「はァ、まァ……って、ん?」
たった二日いるだけの新人の教育なんて面倒くせェ、と考えかけていたオレは、しかし目の前に現れた彼女の姿を認めて思わず目を丸くした。
「ごめんくださいっ! き、今日からアルバイトとして二日間お世話になります、
「ンなっ……!?」
驚き、絶句する一方で、オレは「この子ならここの
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