第二三五食 千歳千鶴とアルバイター②
「お、同じく
だって、まさか思いもよらないだろう――人知れず、大学の知人にも隠し通してきたオレのバイト先、そこにやって来た新人アルバイターが両方顔見知りだなんて。
「あ、あれっ、
「いや……それァむしろオレが聞きてェんだが……」
最近なにかと遭遇率の高い少女が驚きのリアクションを取る一方で、オレはそれだけ返すのが精一杯だった。本当に、どうしてコイツらがここにいるんだ。
一瞬だけ、唯一〝
オレが立ち尽くしていると、後方のカウンターからのそりと出てきた店長が「あらぁん」と
「申し込みの電話でちょこぉっとだけお話して、後は軽く履歴書に目を通しただけだったから不安だったけどぉ、なかなか可愛い子たちが来たわねぇん?」
「で、デカッ!? えっ、えっと……?」
「あ、その声……もしかして店長さんですか?」
控えめに言っても
「そうよぉん、アタシがこの店の店長。
「ミス……?」と眼鏡少女が
「短い間だけどよろしくねぇん、真昼ちゅわんに雪穂ちゅわん。といっても実際の指導はこっちの千鶴ちゅわんにやってもらうわけなんだけどぉ……もしかして三人、お知り合いなのかしらぁん?」
「……まァ、一応」
どうにかオレがそう答えると、店長はにんまりと
「真昼ちゅわんと雪穂ちゅわんにやってもらうのは基本的にお客様の呼び込みとクリスマスケーキの販売だけよぉん。お金の管理とか細かい仕事は千鶴ちゅわんにやってもらうつもりだから心配しなくていいわぁん」
「は、はい!」
「り、了解っす」
「ふふぅん、そんなに緊張しないでいいわよぉん。二人ともうちの制服を着たらとぉってもキュートになりそうだものぉ。アタシの次によく似合うと思うわぁ」
「(毎度ながら、その謎の自信はどっから来てンだ……)」
ここの
だが彼女らがこの制服を着たらさぞや似合うだろうというのは同感だった。少なくともオレが接客をするよりも間違いなく集客率、すなわち売上の伸び幅は大きくなるに違いない。もっともこの点に関しては容姿云々以前に、オレに愛想というものが圧倒的に欠如しているせいなンだろうが……我ながら、なにを血迷ってバイト先に接客業を選んだのかと問い
「今日もお客様は多いだろうけどぉ、
「はァ……」
のっしのっしと厨房の方へ戻っていく店長を見送った後、女子高生二名と事務所に残されたオレは「あァーっと……」と場繋ぎ的な間投詞を口にする。普段は人付き合いなんざ気にもしねェが、これは給料が発生する
人見知りなのか、直接言葉を
「おー、お店の裏側ってこんな感じになってるんですね! 私、初めて見ました!」
「そ、そうかよ」
「はいっ! それにまさかアルバイト先に千鶴さんがいるなんてビックリです! すっごく怖い人がいたらどうしようって不安だったんですけど、そんなの吹っ飛んじゃいました! えへへっ」
「(くっ、相変わらず可愛い……!)」
少女の人懐っこい笑顔を前に、思わず口元を押さえて顔を
それにしても、この子が笑っただけで周囲が明るく照らされたような気さえしてくるンだから不思議だ。……生物学上は同じ分類に属しているはずなのにこの凄まじいまでの格差を
「まァ……とりあえず着替えてくれ。一つずつ仕事、教えてくから」
そんな取り留めもないことを考えながら、オレは二日間限りの後輩たちを更衣室へと案内するのだった。
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