第二三一食 自炊少女と病人食④
★
「(あー、喉
暗くなってきた空を見上げながら、布団で横になっている
一日中安静に過ごしていたわりに、ちっとも症状が軽くなった気がしない。それどころか
「(ちゃんと
夕は今朝から飲み物以外なにも口にしていない。無論、動けないほど体調が悪いというわけではないし、作ろうと思えば食事くらいすぐに用意できる。しかしその〝作ろうと思えば〟までが驚くほどに
「(何も食ってないって知ったら、
今朝、部屋から追い出す直前まで「私が看病します!」と繰り返していた心優しい少女のことを思い浮かべて苦笑する。余計な心配させるのも悪いし、食事はきちんと
「真昼か……?」
自分以外にこの部屋の合鍵を持っているのは隣人の彼女だけだ。夕は「来るなって言ったのに」と少しだけ眉をしかめそうになって――しかし部屋のドアから入ってきた意外な人物の姿を見てすぐに目を丸くする。
「おう、起きてたかよ」
「ち、
風邪を引いたことを伝えてもいないヤンキー女子大生の登場に夕が身体を起こすと、彼女は見覚えのあるキーホルダーが付いた鍵をカチャリとテーブルに置いた。真昼に預けている合鍵だろう。
「な、なんでお前がそれを……?」
「フン、あの子から借りたってだけだ」
「つまんねェ部屋だな」と殺風景な室内を見回しながら短く返答し、
するとそんな夕の心情など気にも留めず、金髪を揺らす女子大生が「コレ食え」と片手に持っていた鍋をずいっと差し出してきた。
「あれ……それ、たしか真昼の鍋じゃ……?」
「あァ、今さっきあの子が作った
「代わりに、って……そのためにわざわざ来てくれたのか? な、なんかごめんな」
「うるせェ、
「
「! う、うるせェ、いいからさっさとそれ食え! 冷めちまうだろうが!?」
「す、すみません!?」
顔を赤くして怒鳴るヤンキー女子大生の
「卵
それは青年がまだ幼い頃、母親がよく作ってくれた病人食だった。そしてそういえば以前真昼が倒れた時、これを再現して食べさせたのだったかと思い出す。
「『お兄さんは自分のことになると無頓着だから、きっとご飯も食べてないと思う』っつってたぞ、あの子」
「うぐ……」
「
長く側に居たせいか、すっかり自分の性格を
「(いい匂いだな……)」
まさしくかつて母親が作ってくれたそれと同じ香りがして、夕がわずかに目を細める。簡単な作り方を
「それと、こっちはあの子からの差し入れだ」
そう言って千鶴が手渡してきたのはスポーツドリンクや梅干し、そして真昼がよく食べているチョコレートなどが入った袋。そしてペットボトルのキャップには少女の字で『お兄さんへ たくさん食べてたくさん寝て 早く良くなってくださいね』と書かれた手紙がテープで貼り付けられている。
「……さっさと治せよ。てめェのためじゃねェ、あの子のために」
「……ああ」
無愛想に窓の外を眺めながら告げてくる千鶴に頷いて返し、夕は鍋の中のレンゲを手に取った。
「――いただきます」
青年がその言葉を向けた先は、自室と隣室を
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