第一九九食 女子高生たちと自宅料理②
代表的なロシア料理の一つ、ビーフストロガノフ。テレビ番組などでも
それもあって、食いしんぼうな少女はこの〝名前だけは知ってるけど食べたことはない料理〟に以前から興味津々だった。同じく
作り方をごく簡単に
一、細切りの牛肉とタマネギとマッシュルームをバターで
二、水と牛乳で一煮立ちさせてからルウを投入し、しっかりと煮込む。
三、好みでサワークリームやヨーグルトの酸味を加える。
――以上だ。ちなみに諸説あるが、ビーフストロガノフの〝ビーフ〟は英語の
「――ということで、どうでしょうか。
「ややこしいな」
午後九時半。夕方から試作品を作り始めて一度失敗し――肩に力が入りすぎていたことは語るまでもない――、改めて作り直した本番・本命・本気の一皿が今、青年の目の前に置かれていた。場所は真昼の部屋ではなく、隣の二〇六号室。夜も遅いということで友人たちは帰ってしまい、部屋にいるのは真昼と夕の二人だけである。
皿に
アルバイトから戻った格好のまま「いただきます」と呟いた青年がスプーンを手にし、真昼がごくりと
今回のように真昼が夕に隠れて料理をしたのは、体育祭の時におにぎりを作った時のみ。いや、あの時でさえおにぎりの作り方を教えてくれたのは夕だった。そういう意味では、真昼が夕の手を借りずに――友人たちの手は借りたが――新しい料理を作るのは、今回が初めてなのかもしれない。
「……ん!」
「! ど、どうしましたかっ!?」
軽く頷いただけの夕に対し、しかし真昼は
「――
「ほ、本当ですかっ!?」
「ああ。ビーフストロガノフなんて初めて食ったけど、めちゃくちゃ美味いよ」
その
「豚肉でもこんなに美味く作れるんだなあ。てっきり牛肉じゃないと駄目なんだと思ってたよ」
「えへへー」
普段は先生代わりの彼から「美味い」と言われる
「でも――俺も次あたり、作ってみないかって言おうと思ってたんだけどなあ……」
「? お兄さん、今なにか言いました?」
「いや。真昼もすっかり料理上手になったなあってさ」
「ええっ!? そ、そんなあ~、『すっかり大人っぽくなった』なんて、照れちゃいますよぉ~!」
「誰もそんなこと言ってないよ」
嬉しさ余ってくねくねと身を
「じ、じゃあお兄さんっ! 今度私がビーフストロガノフの作り方、教えてあげますねっ! 手取り足取り、ふっふーん!」
「なんだ、
「えへへへへー」
「特にこのガリバタ飯、すげえよく出来てるよな。これだけで
「え……そ、それは――ひよりちゃんが……」
「あっ……」
しまった、てっきり全部真昼が作ったんだとばかり……という顔で気まずそうに目を
「で、でもほらっ、ビーフストロガノフ自体も美味かったしな!? あ、味付けも俺好みっていうか、これは真昼じゃなきゃ作れないっていうか!?」
「そ、それ市販のルウなので、私が味付けしたわけじゃ……」
「あっ……で、でもなっ!? 牛肉じゃなくて豚肉と鶏肉ってところがいいんだよなっ!? 安くて美味いとか最高だもんな!?」
「そ、それも自分で考えたんじゃなくて、全部ネットで探して真似しただけで……ふえぇっ……!」
「いやそんなこと言い出したら俺らの今までの料理全部そうですけど!? な、泣くなよ真昼!? 本当に美味しかったって!?」
先程までの自信はどこへやら――あるいは緊張が
「――バカひま。『ご飯も自分で作りました!』って言っとけばいいのに……馬鹿正直なんだから」
「んふふー、そこがまひるんの可愛いところでしょー」
そんな二〇六号室のドアの外、鍵が掛かっていない扉の向こう側で、帰ったはずの二名の少女が
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