第一六七食 青葉蒼生と年下の恋人①
★
「へっぷしゅっ!」
「わっ。だ、大丈夫ですか、
「うん、平気平気。どこかで誰かがウワサでもしてるんじゃないかな、はは……」
未だに涙声のまま心配そうな顔で言ってくる
「(本当だったら、
雪穂の友人である彼女なら、もしかしたら蒼生が置かれている奇妙な状況を解決する方法を思い付くかもしれないからだ。けれどそれは出来ないし、するべきではない。
「(真昼ちゃんだって、本当なら
こうして並んで演劇鑑賞までしておいてなんだが、本来であれば蒼生はこの
そんな蒼生が現状、まだこの体育館にいる理由は一つ。雪穂との話が予想外の方向へ転がってしまったからに他ならない。驚愕と混乱のあまり、冷静な判断力を失っていたであろう彼女から告げられた事実上の交際要求。それを撤回し、別の方法で
「(雪穂ちゃんと話をしてから一時間弱……そろそろいいかな)」
腕時計を確認してから、蒼生は静かに立ち上がる。雪穂が冷静な状況判断能力を取り戻すには十分な時間が経過しただろう。雪穂は去り際に「アキたちに自慢しにいく」と言っていたし、下手に話が広がってしまうのを防ぐという意味でも、これ以上時間を
「青葉? どうかしたか?」
席を立った蒼生に、夕が目線とともに声を掛けてくる。
「うん、ちょっとね」
「……そうか」
短い言葉を返すと、彼はそれだけで意図を察してくれたらしい。そのあとなにやら
「――大丈夫だよ。これは、私の問題だからさ」
「……そう、か」
「そうそう。だからキミはそのまま真昼ちゃんとのデートでも楽しんでなよ」
「「んなっ!?」」
「あらあら、もしかして私たちもお邪魔かしら? うふふ、空気を読んで、
「んなっ、なんなんなっ!? なに言ってるのお母さん!? お兄さんの目の前でっ!?」
「……邪魔なら消えてやっけど?」
「お、
明と千鶴にそう言われ、それぞれに
「(……そういえば、夕と明さんはあんなところでなんの話をしてたんだろ? いやまあ、真昼ちゃんに関することではあるんだろうけど……)」
とても気になる。だがしかし、今すぐに
「(……雪穂ちゃんとの決着がちゃんとついたら、その時改めて話を聞かせてもらおう)」
なんか死亡フラグみたいだ、と自分の思考を笑いつつ、蒼生は席を離れて体育館から出る。
背中に心配げな二人分の視線を感じたのは、やはり気のせいではなかっただろう。
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