第一六〇食 女子大生と女子高生④
「お、おい、大丈夫か?
「……ハッ!? ゆ、
放心状態のイケメン女子大生がいつまで
「なんでキミがこんなところに……ま、まさか……?」
「……悪い、全部見てた」
「ですよねー……」
肩を落としながら「なに盗み見てるんだよう……」と
「なんというか……大変なことになったな、お前」
「……そうだね。まあ元はと言えば私が
「そりゃ思わんだろうな」
「こんなことになるくらいなら、いっそ泣かれて
「……まあ、そうだよなあ」
俺も、青葉の正体が女だと知った
それに冬島さんが口にした〝
「あら、あの眼鏡の女の子とお付き合いすることになったら何かまずいことでもあるのかしら?」
「いやいや、当たり前でしょ……――って、誰!?」
横合いから発せられた疑問に対して「なにを当たり前なことを……」とでも言いたげにヒラヒラと手を振っていた青葉は、しかしすぐさまその声の主の方へ勢いよく顔を向けた。……あ、そうだ、
「こんにちはー。うふふ、近くで見ると余計にイケメンなのね。こうして見ても女の子だなんて信じられないわ」
「あ、どうもどうも――じゃなくてさッ!? ゆ、夕ッ!? だ、誰さ、この〝番外編版真昼ちゃん〟みたいな似て非なる別キャラはッ!?」
「なんだよ〝番外編版真昼ちゃん〟って……えーっと、こちら真昼のお母さんの――」
「
「あ、はい、それはもうお好きなように――じゃなくてッ!? えっ、えっ!? ま、真昼ちゃんのお母さん!? お姉さんじゃなくて!?」
「あ、その驚き方は俺と
「いや知らないよ! キミらがどうであれ私は初対面なんだから驚くに決まって――って今サラッとあり得ない名前が出てこなかった!? ち、
「
驚きの連続に理解が追い付かないらしく、混乱した様子で声を上げる青葉。今日はこいつの珍しい姿をよく見る日だな……そんな青葉のことを見て「面白い子ねえ」とニコニコ笑っている真昼母の強キャラ感がすごい。
「それで蒼生ちゃんは、あの女の子――
「え……い、いや、流石にそれは……」
混乱が収まる前にそう問われた青葉は一瞬戸惑いを見せたものの、すぐに顔を
「まあ、そうだよな。相手は女の子で、しかもまだ高校生なわけだし……」
「え?」
同意のつもりで言った俺に、きょとんとした様子の青葉が顔を上げた。……え?
「たしかに〝
「なんでだよ」
いつもの青葉の冗談かと思い「どちらかと言えばそっちの方が問題だろ……」と呆れたように息をつく俺。だが彼女は至って
「エッチなことを強要する、とかだったらもちろん大問題だろうけどさ。でも普通に付き合うだけならなんの問題もないんじゃない? むしろ夕はなにがダメだと思ってるの?」
「!」
当たり前のことでも言うかのような青葉に、俺はなぜか先ほど真昼母に言われたことを思い出してしまう。
『大切なのはあくまでも、本人たちの気持ちなんじゃないかしら?』
「……」
「……夕?」
「ふふっ」
黙ってしまう俺を青葉が不思議そうに覗き込んでくる中、隣から真昼母が
しかし俺がちらりと視線を向けてみる頃には、真昼母はニコニコ笑ったまま青葉へと話し掛けていた。
「でも、それならどうして蒼生ちゃんは雪穂ちゃんとお付き合いしたくないの? やっぱり、
「それもありますけど……そうじゃなくて」
青葉は冬島さんと話し始める前と同じ、真面目な目付きで言う。
「雪穂ちゃんは『新しく好きな人が出来るまで』なんて言ってましたけど、私はあの子が本当に好きになって、きちんと想いが通じ合った相手と付き合わないと意味がないと思うんです。……女の私とじゃ、意味がない」
そういう大切な〝初めて〟の経験をあんなナンパ男たちにとられちゃ駄目だよ――彼女は海に行った時にも、真昼と冬島さんに似たようなことを話していた。
「全部私に責任があるからこそ、たとえ本人が
青葉が余計な嘘さえつかなければ、冬島さんが他の誰かを想うために
確かな意思を伴ってそう言ったであろう友人の横顔は、なぜだか俺なんかよりもずっと大人びて見えた。
「(こいつは……青葉は、ちゃんと自分で考えて答えを出したのか)」
「高校生だから」でも「歳が離れているから」でも、「
『本当にあなたは、自分の気持ちと向き合った上でそう答えたのかしら?』
果たして俺は、どうだっただろうか?
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