第一三五食 青葉蒼生と本当の〝優しさ〟
★
「は?
九月に入り、少しずつ猛暑が
そんな彼女に対し、部屋の主たる
「……いや待て? なんでお前がナチュラルに俺の部屋にいるんだよ?」
「え? 暇を持て余した私がどうやって時間を潰そうか考えた結果、どうせ一人でダラダラ過ごしてるであろう
「ああ、なるほど。……いや『なるほど』じゃねえよ」
夕が「俺にかかる迷惑を
「一応聞いてあげるけど、どういうことなんだい? 真昼ちゃんに好きな人が出来た、って?」
「……言葉通りの意味だよ。真昼に好きな人――まあ本人
「ほほう?」
気落ちしたトーンで話す夕に、蒼生はさも興味深そうに頷きながら
「(まさかあの真昼ちゃんが、夕本人に直接『気になってる人がいる』ってカミングアウトするなんて……もしかして夕が鈍感すぎて、いよいよ我慢出来なくなってきたのかな?)」
蒼生はそう考えながら、この部屋の隣に住んでいる女子高生――
真昼の〝すごく気になってる人〟というのは、言うまでもなく夕のことだろう。それ自体は、とっくに気付いていた蒼生からすれば特に驚くような話でもない。
しかしそれでもあの奥手な女子高生が、遠回しにでも好意を伝えようとしたのは大きな前進だと言えよう。……もっとも、肝心の夕には正しく伝わらずに誤解されているらしいが。
「(もう、本当に
蒼生個人としては恋人になった二人を見てみたいところだが……しかし半月ほど前に夕から「真昼の様子がおかしい」と相談を受けた時にも考えた通り、あくまで外野に過ぎない蒼生が下手に口出しするのは好ましくないだろう。
他人が深く関与した末に成立したカップルは
普段はふざけた接し方をしているが、蒼生にとって夕は大切な友人だ。そして大切な友人だからこそ――〝優しさ〟を
「(『真昼ちゃんが好きなのは
だがそれは夕が自分で考え、自分で気付くべきことなのだ。それを蒼生の口から教えてしまうのは〝優しさ〟ではなく〝甘やかし〟でしかない。
ゆえに蒼生は、
「……まあ、しょうがないんじゃない? 真昼ちゃんだって年頃の女の子だもん、恋の一つくらいして当然でしょ」
「うっ……!? そ、そうだよな……」
蒼生の正論によってダメージを受ける夕。おそらくは蒼生のことをそれなりに信頼しているからこそ相談を持ちかけてきたのであろう彼を突き放すことに対して、まったく罪悪感がないというわけではないが……しかしこれも彼のためだ。蒼生は心を鬼にして――そして満面の笑みと共に続ける。
「でも真昼ちゃんが好きになるのってどんな男の子なんだろうねぇ? クラスメイトかな? 友だちかな? それともサッカー部とかバスケ部の格好良い先輩かな? あっ、大穴で〝教師との背徳恋愛〟っていうのもあり得るかもね? いやあ、いずれにせよ青春してるよねえ、真昼ちゃんは」
「ぐふっ!?」
〝あり得そう〟な可能性を列挙され、腹でも殴られたかのように
「あっ、そういえば高等部の文化祭って来月の今頃だったよね? もしかしたらその頃には〝文化祭マジック〟が起きて真昼ちゃんに初めての彼氏が出来てるかもしれないよね? 恋人と文化祭を楽しんで、後夜祭で一緒にフォークダンスを踊る真昼ちゃん――絵になるよねえ」
「がはっ!?」
畳み掛けるように〝あり得そう〟なシチュエーションをペラペラ話す蒼生に、夕が更なるダメージを負う。断っておくが、蒼生は友人のために心を鬼にしているだけだ。「あんまりない機会だし、夕のことをからかって遊ぼう」などという
「(ふふ……いつか幸せになれるといいね、二人とも)」
心の中でにんまりと笑った蒼生は、しかし一応は本心からそんな日が来ることを願っているのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます