第一二六食 六人組と新学期③
ちょうどそのタイミングでこちらに気付いた
「みんな、おはよう――って、ど、どうしたの? 私の顔になにかついてる?」
「「「「……」」」」
一緒に登校してきたひよりを除く四人が一斉に自分に目を向けてきたことに嫌な予感を覚えたのか、彼女はやや離れた位置でピタリと足を止めた。ちなみに最も血走った目をしているのは言うまでもなく
ひよりが「なんかこの感じ、デジャヴなんだけど……」と、初めてこの四人に
「ねえ、まひるぅ?」
「な、なに? 雪穂ちゃん」
にこー、と薄っぺらい笑みを顔に張り付けている眼鏡少女を恐れたように、真昼が一歩後ずさる。しかしいつの間にかすぐ後ろに陣取っていた
「まひる、風邪は大丈夫だった? 実はずっと心配してたの」
「へ? あ、うん。二日くらい寝込んじゃったけど、すぐに治ったから……し、心配かけちゃってごめんね?」
物々しい雰囲気に反して気遣うようなことを言われ、真昼は意外そうにぱちぱちと
「そっかそっか、良かった……私、本当に心配してたの。だってほら、まひるって一人暮らしだから看病してくれる人なんていないでしょ?」
「え? あ……そ、その、一応私が寝込んでる間、様子を見に来てくれる人はいたんだけど……ひっ!?」
「……ッ!」
「ゆ、ユズル落ち着け、
鬼の
「えー、誰だろぉ? 風邪で弱ってる無防備なところを
「ゆ、雪穂ちゃん、もしかしてわざと言ってない!?」
いくら
「ねぇ、教えてよぉ、まひるぅー。風邪を引いて弱ってるアンタを
「ナニモリさんってほとんど答え言ってるし!? ど、どうせまた私のこと、からかいたいだけなんでしょ!?」
「えー、心外だなぁ? ……まあぶっちゃけそうだけど」
「今ぼそっと本音言ったよねぇ!?」
これまで散々彼に関することで冷やかされてきた真昼は、警戒心を全開にしてぷいっと顔を逸らしてしまった。いくら
するとそんな真昼に、亜紀が「まーまー、そう怒らずにー」とのんびり言いながら後ろから抱きつく。
「それでー? まひる、おにーさんに看病してもらったんだよねー? 優しくしてもらったー?」
「あ、うん! お兄さんはいつも優しいけど、風邪を引いてる間も消化に良いのにすっごく美味しいご飯を作って、私の部屋まで持ってきてくれたりして……! ……あっ」
あまりにもさらっと聞かれたせいか、ついつい兄の自慢でもするかのように
「へー、そうなんだー? いつも優しいおにーさんがもっと優しくしてくれてー、まひるはそんなおにーさんにもっともっとメロメロになってしまったとー」
「あああ、亜紀ちゃんッ!? ひ、ひどいよ、今のは騙し討ちだったよねぇ!?」
「流石アキ、人の嫌がることをさせたら右に出る女はいないね」
「あははー、その褒め言葉全然嬉しくなーい」
「いや、褒められてはいないだろ」
安心と信頼の亜紀クオリティーに拍手を送る雪穂と、半眼でツッコミを入れる涼。そして涙目の真昼は、見た目のわりに腹黒いゆるふわ系少女の肩をガクガクと揺さぶる。
「へ、部屋で寝込んでいる旭日に……て、手作りの料理を、だとぉ……ッ!?」
一方で弦は、眼鏡の奥で瞳を血走らせながら、
「お、おのれ、イモリだかヤモリだか知らんが調子に乗りやがって……!? 以前スーパーで見かけた時、俺が見逃してやった恩を忘れたか……!」
「見逃してやった、って……アレはアンタたちが勝手にストーキングしてきただけでしょ。というかアンタ、もうひまへの好意隠す気もないのね」
そんな眼鏡男子に面倒くさいモノを見るような目を向けるひより。彼女は弦と涼の二人が以前、勝手に真昼の後を
「ねーねー、まひるー。おにーさんに看病してもらって、なにかドキッとしたこととかなかったのー?」
「な、ないよそんなのっ!」
そして真昼の方は、亜紀と雪穂の悪ノリ二人組からニヤニヤ質問攻めに
「嘘だ、絶対なんかあるでしょ。ここまで言っちゃったんだから、もう全部吐いちゃいなよ」
「だ、だからなにもないってば! お、お兄さんが本当に心配してくれてるのに、変なこと考えるわけないでしょっ!?」
「小さいことでいいんだって。〝お兄さん〟に『あーん』してもらったとか身体を拭いてもらったとか、なんかないの?」
「そっ、そんな夢みたいな――じゃない、そ、そんな厚かましいことお願いできるわけないよ! ご飯は全部自分で食べたし、身体はひよりちゃんに拭いてもらったもん!」
「えー、つまんなーい。風邪のせいってことにして、普段は言えない
「だ、だからそんなこと――!」
と、そこで真昼が突然言葉を止めた。いきなりフリーズした彼女に亜紀たちが疑問符を浮かべていると――
「ち、ちがっ……!? ああ、あの手は、そういうアレじゃなくって……!?」
「は? 手?」
わけの分からないことを言う真昼に、
「〝風邪引いて気弱になっちゃって、ついついおにーさんに『手を繋いでほしい』なんて乙女チックなお願いをしちゃった〟とかー? んふふー、まさかねー。いくらまひるでも、そんな少女マンガみたいなお願いするわけ――」
「あ、あああ、あう……っ!?」
「……へ? え、まじで?」
亜紀が思わずいつもの間延びした話し方も忘れて問うと、まるっきり図星のような反応を見せた真昼が、赤い顔をさらに赤く染め上げる。
「ち……」
「「ち?」」
「ち――違うんですーーーーーッ!!」
そんな叫びとともに、
ゆえにその場に取り残された五人は一様に真昼が飛び出していった教室後方の扉を眺め――やがていち早く我に返った弦が、天井を見上げながらゆっくり・そして大きく息を吸い込み――
「――クソ羨ましいッッッ!!??」
――全霊の呪詛を込めて放たれた絶叫が、朝の
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