第二一食 六人組とお昼ごはん①
★
「最近! まひるの様子がおかしいと思います!」
私立
四つの机を固めて昼食をとっている四人の男女のうち、眼鏡を掛けた女子生徒が机をバンッ、と叩きながら声を上げた。それを見て残る三人――
「おかしいって、何がだ?」
「色々と!」
そう高々と叫び、眼鏡の女子生徒・
「そこんとこどうなんですか、お母さん!?」
「誰がお母さんよ」
鋭くツッコミを入れると、くすんだ金髪の男子生徒・
ひよりはそんな涼の後頭部をぺちんっ、と軽く叩いてから口を開いた。
「……『色々』って? ひまのどこが変わったのよ?」
「色々は色々よ! なんか最近のまひるって前にも増してキラキラしてるっていうか楽しそうにしてるっていうか、そんな感じしない!?」
「そうかあ? 旭日は元からそんな感じじゃね? なあ、ユズル?」
そう言って涼が目を向けたのは
彼は眼鏡のブリッジを押し上げながら鼻を鳴らすと、冷たい瞳で雪穂のことを見る。
「フン。お前は毎度、くだらないことで騒ぎすぎなんだ。もう少し落ち着きを覚えたらどうだ?」
「うっさいわよ厨二メガネ。アンタにだけは言われたくないっての」
「なっ……!? 誰が厨二メガネだ!?」
「クール気取ってる、どこかの
「き、貴様……!?」
「〝キサマ〟! 現代社会でそんな二人称使ってんのアンタくらいだっての!」
瞬く間にギャーギャーと口喧嘩を始めた雪穂と弦に、もはや慣れたように昼食の弁当に箸をつけるひより。この眼鏡コンビの喧嘩をいちいち止めていてはキリがないことなど嫌というほど知っている。
この四人に
「……でも言われてみりゃ、ここんとこ旭日って帰るの早くなったよな。前までは放課後、よく
「そう、そうなの! なんか妙に嬉しそうに、しかもなんか急いで帰ろうとしてる気がすんのよね!」
「……気のせいじゃないの?」
「いーや! 気のせいなんかじゃない、私には分かるね!」
ふんす、と薄い胸を張った雪穂は、確信したような声で断言する。
「アレは絶対――オトコだ!」
「ぶっ!? ゴホッ、ゴホッ、ゲホッ!?」
「だ、大丈夫か、ユズル?」
途端に
「か、勝手な想像で変なことを言うんじゃない!? あ、ああ、旭日にお、男などいるはずがないだろうが!?」
「なに言ってんのよ、あのまひるよ!?
「いや、『ねっ』って言われてもね……」
興味なさげにペットボトルのお茶を飲みつつ、ひよりは内心でどう答えたものかと考える。というのも、雪穂の妄想は正解でこそないが完全に見当違いでもないからだ。
真昼はこのところ、とある男の部屋にほぼ毎日通っている。男の名前は
「(あの子が男の家に上がり込んでるなんて知れたら、絶対厄介なことになりそうだもんなぁ……特に雪穂)」
ひより自身、真昼が得体の知れない大学生の家に行くと聞いたときは、なにか良からぬことをされるのではないかと警戒心剥き出しでついていった経験があるので人のことは言えないが……しかし雪穂の場合、単純に面白がって見に行きたがるだろう。
そして真昼はおそらくそれを良しとしないはずだ。彼女はあれで義理堅いし、ただでさえ世話になっている隣人に余計な迷惑を掛けたがるはずもない。だからこそ、グループ内でもひより以外には真実を伝えていないのだろうから。
「あー……流石にあのひまにそんな相手がいるとは思え――」
「ない」と、とりあえずこの場は流してしまうことにしたひよりの計略は、しかし背中から掛けられた明るい少女の声によって遮られた。
「ただいまー! 食堂すっごく混んでて大変だったよー」
「あっ、まひる! ちょうどいいところに!」
……最悪のタイミングで帰って来た親友に、ひよりは思わずため息をついて目元を覆うしかなかった。
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