第一八食 旭日真昼と酔っ払い②
「アッハッハッハッ! やっぱり飲み会は最高だねぇっ! いえーい、
「盛り上がってんのはお前だけだっつの!? おいコラ飛ぶな、跳ねるな!? 下の階から苦情来たらどうしてくれんだ!」
「ぐへへへぇ、真昼ちゃーん……キミ本当に可愛いねぇっ……!? お姉さん、食べちゃいたいくらいだよ……ハアハア……!」
「ひぃっ!?」
「やめろ馬鹿、真昼が怖がってんだろうが!?」
……三〇分も経たぬうちに四本目のビール缶を飲み干した
ライブさながらに叫び、歌い、飛び跳ね……挙げ句の果てに女子高生へのセクハラ発言。見かねた夕が取り押さえようとすれば「いやーんっ、襲われるぅ~!」などという顔に似合わない乙女チックな声を上げる始末だ。とても手に負えそうにない。
「お、お兄さん、
「……まあな。こいつ酒好きなクセにすぐ酔っ払うからさ。まあ吐いたりはしないんだけど見ての通り酒癖は最悪で……だからこいつとは飲みたくないんだよ……」
「真昼ちゃんは結構スレンダーだよねぇ~! 足とかなにそれ、どこに肉ついてんのさ!? ダメだよ、女の子はもっとこう……ムチムチしてないと!」
「え、ええっ!?」
「お前も人のこと言えないだろうが。自分のこと棚上げしてんじゃねえ」
「えっ……やーんっ、夕くんってばぁ、私のどこ見てるのぉ~!?」
薄い胸元を両腕で隠しながらクネクネと身体を
「水飲んで頭冷やして来い。そんで今日はもう帰れ」
「え~っ!? 夜はまだこれからじゃんか~っ!?」
「明日も講義あるだろうが。ただでさえ進級危うかったんだから、授業くらいちゃんと出ろっつの」
「ぶー! 夕は微妙に真面目なとこあるんだからーっ! 一日くらい休んだってなんも変わんないって!?」
「あーもううるさい! さっさと水飲め、汲んできてやるから!」
そう言ってキッチンの方へ出ていく夕。そして必然的に蒼生と二人にされて戸惑う真昼。
そんな彼女の心境を察知したかのように、酔っ払い女子は「ねえねえ真昼ちゃーん」と真昼にすり寄ってきた。
「真昼ちゃんってぇ……もしかして夕のアレなのぉ?」
「あ、『アレ』って……?」
「アレはアレだよぉ――カ・ノ・ジョ」
「ぶーーーっ!? ゴホッ、ゴホッ!?」
真昼は飲んでいたグレープジュースを思わず噴き出しそうになって咳き込んだ。対する酔っ払いは「えっ!? もしかしてマジなの!?」とさらにずいっと顔を寄せてくる。
「ち……違いますよっ! 私とお兄さん、ついこないだ初めて会ったばかりなんですよ!?」
真昼が赤くなった顔で否定すると、蒼生はニヤニヤと完全に面白がっている人間の笑みを浮かべた。
「時間なんて大した問題じゃないでしょ~? 若い男女が狭い部屋で
「あ、ありませんっ! お兄さんは親切心で私に料理を教えてくれてるだけなんですから!」
「アハハッ、
蒼生は食べ終えた皿がいくつか下げられたテーブルに突っ伏し、視線だけを真昼にチラッと向ける。
「でもあんま無防備になりすぎないようにね~? 別に夕に限った話じゃなくてさ。最初は本当にそんなつもり一切なかったとしても、最後までそのままだって保証はどこにもないんだからさ……」
「……!」
「……なーんて、ね」
蒼生が冗談めかした顔で笑ったのと同時に、キッチンの方から夕の足音が戻ってきた。その手には冷たい水が入ったガラスコップと濡れタオルが握られている。
「ほら、これ飲んで顔拭け。そんで多少酔いが
「んもう夕ってばぁ~っ!? そんな邪険にしなくたっていいじゃんか~っ!?」
「うるせえよ」
「つめだっ!? ちょっ、タオル冷たい冷たい!? それに顔くらい自分で拭けるし!? というか化粧落ちちゃうから!?」
「元からほとんどしてねえようなもんだろうが」
「たしかにしてないけど女の子の取り扱いとしてはどうなのさそれっ……モガガッ!?」
まるで母親のように蒼生の顔をタオルで拭く夕。そんな彼らの様子ぽかんと眺めていると、不意に夕が真昼の名を呼んだ。
「真昼」
「っ! は、ハイッ!?」
先ほどの話もあって微妙に緊張した声になってしまった真昼に少しだけ不思議そうに首を傾けつつ、隣室の大学生は続ける。
「俺こいつを送っていくから、悪いけど今日は解散ってことにさせてもらえるか?」
「えぁっ……はい、大丈夫です」
「ごめんな。今日の埋め合わせはまた今度するから」
「い、いえ。気にしないでください」
今日は料理が出来なかったことを謝っているのだろう。申し訳なさそうにしている心優しい大学生に答えると、彼は蒼生に水を飲ませてから立ち上がらせた。
「やーんっ、送ってってくれるなんて、夕くんやーさーしーいーっ!」
「やかましいわ」
「あだぁっ!?」
茶化したことを言ってまた尻を蹴られている蒼生。
そんな彼女に言われたことが胸に引っ掛かるのを感じつつ、真昼は彼らの後ろについて家森家を出るのであった。
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