無道行者〜異世界大冒険

南畑明博

第1話 変化のはじまり

  いつもと変わらない日常、変化を求めるもたいして変わらない。


  そう環境で人は変わるが、人は環境を変えられない。

 明日への希望にすがり今日を生き、時々昨日を見つめる。漫画やアニメに憧れ、ふざけた夢と共に大冒険がしたいと思う頃もあったが、今はただその日その日を淡々と過ごしている。

 日常に飽き、非日常を追い求め彷徨うさまようがなにも見つからない。なにも変化は起きない。


  刺激を欲するが根が臆病ゆえに何事にも最初の一歩を踏み出す勇気に欠ける。

 なにをするにも中途半端だがなにかを成し遂げたい。

 その理想を抱く自分が好きだが、何一つ行動に出てない自分が嫌いだ。


  しかしそんな自分に終止符しゅうしふを打ち、新たな道をゆくチャンスのような事件が起きた。しかしこれが修羅しゅらの道であり、非日常の残酷さであることを知るのはまだまだ先のことである。



  いつものように起きてバイトに行く準備だ。オレの名前は北田晴明きただ はるあき22歳フリーターだ。たしか今日は終わったら飲み会だったな。とはいえとくに準備するものないか。あえて言うならケータイ、タバコと財布ぐらいだ。



 数時間後



「明日からも頑張れるように、今日はお疲れ様!乾杯!」

「「「カンパイ!!」」」


  店休なら頑張るのは明後日からでいいだろ。結局いつもの店で、いつもより大人数である。

 違うのは明日が店休日だからほぼ全員いるぐらいか。個人的にはこのあとの二次会がいつもの楽しみだ。

 明日休みでも二次会や三軒目があるかもしれないから飲み過ぎないように気をつけよう。

 ビールを1杯飲んだところでタバコに火をつけて一服タイム。これはもう定番の行動パターンだ。


 ボーとしていると突然部屋中に強い光が走り抜けてすぐ真っ暗になった。


 誰かのいたずらかサプライズかと思ったが、今日誕生日の人がいるとは聞いていない。オレが飲み過ぎて幻覚見ているかもしれないが、まだ酔えるほど呑んでいない。


 それにしても頭が痛い。

 身体が耐えきれず、オレはそのまま気絶することにした。


  目が醒めるとオレはベッドの上にいた。寝心地としてはイマイチだ。

 天井は古びた木の板で特になにも装飾が施されてない。間違いなくオレの家ではない。

 それにオレの家にベッドはなく、寝る時はロフトにある敷布団だ。

 身体を起こして状況を確認する。

 あれ?なんでオレパンイチなんだ?確かに寝る時はいつもパジャマなんて着ないがそれでもTシャツは着るよ。


 あたりにオレが着ていた服がない、なんだここは?ホテルじゃないな。


  服が一式あるのでとりあえず着替えてみる。

 着替えたのはいいが、これは某ゲームの冒険者みたいな格好じゃないか。

 戦争映画でよく出てくる兵士がつけているようなペンダントがあるけど、これもつけろってことかな。

 なんだ?目の前にへんな枠みたいなものが出てきたぞ。これはもうあれだな。たぶん異世界に来ちゃった系のやつだな。


 名前 ハルアキ

 年齢 22

 レベル 2

 所属 自由労働組合 冒険者ギルド グブニア帝国支部

 冒険者ステータス ランクF

 世界ランク ランク外

 魔力値 6800

 使用可能魔法 赤魔法 黒魔法


 えーと、なんじゃこりゃ?

 魔力あり過ぎだろ。黒魔法とはなんだ?ツッコミどころ満載やな。

 グブニアなんて国聞いたことないからここが異世界であることが今確信した。

 冒険者ギルドなんて異世界感満載だな。現在地はおそらくグブニア帝国のどこかだろう。

 とりあえずこのペンダントが身分証的なものだということは理解した。部屋を出る前にもう少し探索しよう。


 まずはベッドの横にある丸テーブルの上に拳大こぶしだいの袋がある。お金でもはいって...


「入ってたー!金貨だぜっこれ。うわー初めて見たわ」


 金貨やで?そりゃ思わず声が出てまうよ。数えてみると金貨が10枚と銀貨が20枚に銅貨が50枚ある。

 価値はまだわからないが重さで言うなら、金貨は500円玉4枚ほどの重みを感じる。


 クローゼットには剣と盾に刀だなこれ。剣道初段持ちとはいえさすがに二刀流は難易度高いな。

 しかし盾というにはイメージより小さめで、持つよりも腕につけるタイプだな。



 コンコンッ


 部屋も扉も古いからか音がすごく響く。異世界あるあるだとここでメイドが登場だな。


「冒険者様お目覚めになられましたか。我が主人がお呼びです。広間までご案内いたします。そちらでお連れ様もお待ちです」


 オレの予想ではメイド服を着た美少女が登場するはずだったが、目の前にいるのはフードがついた黒装束に身を包まれている中国系美女だ。

 彼女についていき部屋を出ると同じような扉が並んでる廊下の先に広間と呼ぶに相応しい空間がある。


 これといった装飾がなく、大きな広間には見知った三人と知らぬ男が立っていた。


「おー、ハルアキ!いたのか?こりゃ一体どうなってんの?って顔してるが、すまんなおれにもわからん」


 最初に声をかけてくれたのは竜太りゅうただ。仲間うちではリータと呼んでいる。

 そういえば、この世界に来る前はオレもリータもメガネを掛けていたけど、異世界効果なのかはわからないが、視力が良くなりみんなの顔がよく見える。


「リータ!それに陽介ようすけまい。なんだ、連れってお前らのことか」


 舞はこの場に唯一いる女の子で目線が愛くるしく可憐な小悪魔系女子だ。しかしド天然なおバカさんだ。

 陽介はイケメンだ。間違いなくイケメンだ。男のオレからみてもイケメンだ。オレが女子なら告白していただろう。


「ハルアキ、うちらだけじゃないのよ。飲み会にいたみんなもここにいたの」


「ほかの皆さんはもう冒険に旅立たれました。あなた方が最後になります」


 誰だか知らないが、この赤髪の長身イケメンは身なりが異世界名物どこか貴族という感じだな。


「申し遅れましたが、私はカディナ・ディヨス。あなた方をこちらにお呼びした者です」


「簡単に元いた世界に戻れるとは思わないが、オレたちを召喚した目的はなんだ?」


「待て、ハルアキなんでそんなに冷静なんだ?」


 そうオレは冷静だ。というよりワクワクしている。異世界テンプレだと魔王を倒して世界を救えという流れが定番だが、勇者と言うにはいささか人数が多い気がする。


「目的はなんだ?タダで異世界ツアーなわけないだろ」


 そうだタダほど怖いものはないのだ。


「残念ながら目的はまだお教えすることはできませんが、死なれては困るのでこの世界で生きる術を身につけていただきます。既に皆さんを冒険者ギルドに登録してありますので、身分証パスポートに記載されている世界ランカーにランクインすることを当面は目指していただきます。」


「おいおい、何を言っているんだ?死なれても困るとはどういうこと?」


 やはり異世界だから魔物や魔族でもいるのかな。つまりネコ耳やエルフとドワーフとかもいる可能性がある。


「あなた方は世界を渡ったことで何かしらの強い力を持っているかもしれませんが、通常それらは遺伝か鍛錬を積み重ねて会得するものです。ハイリスク・ハイリターンの冒険者以外にも職業は様々ありますが、簡単になれるものではありません」


「わかった。それでどうしたらいい?」


「まずは依頼をこなし、冒険者としてのランクアップを目指しながらこの世界での生き方を覚えてください。私は用事でしばらくこの国ブルースタン王国を離れますが、私の部下リンちゃんがあなた方を見守ってくれます。半年ほどでこちらに戻り、あなた方全員を我が国グブニア帝国に迎え入れる予定になります。」


 あら、現在地はグブニア帝国じゃなかったんだ。迎え入れるということはやはりカディナは貴族なのかな。


「まずは言われるがままにやるしかなさそうやな。リータ」


「そうだな、今は言うことを聞くしかないだろう。街に出てほかのみんなを探してみよう。実は召喚されてから3日経過していて、おれたちが最後なんだ」


「なるほどな、そういえば陽介と舞はどこに?」


「忘れ物でも取りに行ったんじゃないか?人の話を聞かない二人だからな」


「ごめーん、おまたせ!武器取ってきたよー」


 少し息を切らしながら陽介と舞がこちらに走ってきた。

 よく見るとリータの装備は剣と盾の組み合わせで聖騎士っぽくてカッコいいな。舞の装備は弓と短剣か、高校3年間弓道をやってた舞なら大丈夫だろう。問題を普段お喋りな陽介がまだ一言も喋ってないうえに、槍を持ってるぜ。野球少年だった陽介やで、バットみたいに振り回さないか心配やな。


  こうしてワクワクと不安だらけの異世界冒険が始まった。





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