この星を語る者はもういない

ふくろう

第1幕 支配者

では何から語ろうか。。


そうだな

我らクジララ族の生活は恵まれている。

我らの種族の多くが、他の種族より身体が大きく、賢い。ほぼ天敵など存在しない。


唯一といっていい脅威は、卑劣な同族狩りをする者達だ。クジララ族の中では、さほど大きくはないが、奴らシャチッチは群れで行動するため厄介だ。


それ以外においては、この星の生活は素晴らしいものだった。

私のように身体の大きなものは一つ所に留まらない。

世界中を見て回り、素晴らしい光の移り変わりを楽しむ。

暑いときには涼感を求めて北へ向かい、食事を楽しむ。

皆で歌を歌い、時には思いっきり疾走してみる。

またある時は、精一杯の息をため込んで、深い底まで潜ることもある。

そこには上では会えない珍しいもの達と出会えたりする。我らと同等の大きさのアシジュポン族などとも会える。


寒くなってきたら恋の季節だ。南へ向かい、

丸々つやつやの女の子に群がる男どもがバラードを歌い、恋の駆け引きを始める。

クジララにとって、とても刺激的な季節だ。


その次は当然、出産の季節だ。

そうして家族が増えるたび、群れは膨らみ、また旅が楽しくなるというものさ。

小さな子はシャチッチだけじゃなく、サメメからも狙われるから、大人が守ってやりながら育てていくのさ。

そうやって時代を紡いでいくことが大事な事だと思うよ。つくづくね。

それに、シャチッチは貪欲過ぎるところがある。他の種族も守ってやらねばならない時もある。我々は、どっちに対しても責任があると考えている。


そうだろう、素晴らしいところだよ。

ん?なぜ「この星の生活は素晴らしいものだった。」と過去形なのかと?

それは、私が歳を重ねたせいもあるがね、今でも勿論、素晴らしい生活は続いているが、天敵が居ないというのは過去の話だからさ。


この星にはふたつの支配者が居る。

ひとつは我らクジララ族。

地球を空から満遍なく見て回れば、7割近くある、水が満たされたエリアを我らが統べている。

そして、残りの3割はヒトト族。


ふたつの種族は長いこと共存してきた。

一部の地域においてはイザコザはあった。

いや、今だにある。その歴史もまた長い。


大半のエリアは棲み分けがハッキリしていた。

我々は彼らのエリアに行かないし、ヒトト族も我らのエリアには踏み入らない。

そうして、この星には2つの支配が生まれた。


ヒトト族の個体は小さく弱い。

しかし彼らは弱い身体を補うために、石や草木を使って様々な道具を創る。

始めのうちは小さな道具を我らの頭上に浮かべ、エリアに侵入してきた。

取るに足らない存在だった。

ヒトト達は硬い石で牙を作り、頭の上で待ち構えている。

我らもヒトトが乗る道具をひっくり返して反撃をする。ヒトトは水に落ちると何も出来ない。悲しいくらい何も出来ない。


・・・そう考えると、彼らは勇敢だ。

ここに踏み入るには勇気がいるだろう。

クジララも彼らのエリアでは悲しいくらい何も出来ない。だからなるべく近づかない。お互いに分かっているのだ。それぞれのエリアの覇者が誰なのかを。

それでもヒトトは戦いを挑んでくる。


ああ、

私も相手にしたことがあるよ。


年端もいかない少年だったと思う。

ふたつの木を組み合わせて作った道具に乗ってやってきた。

かなり陸地からは離れていたと思う。

遠くまで波を乗り越えて、我らに挑んできたのだ。


あの頃のヒトトの牙は飛ばなかった。

我らの近くまで寄ってきて、頭の上にヒトト自身が飛び乗ってくるのだ。

本当にびっくりしたよ。デカいペリカンカンがデカい魚をくわえて乗っかってきたのかと思って、不躾な奴だとムカつきもした。

それでとっさに潜ったんだ。急角度で深くね。

・・・ペリカンカンなら飛べたのにな。


彼の乗ってきた木に戻してあげたが。

もう動かなかったよ。


旅をしてると、そんなことが何度もあった。

なぜ向かってくるのだと問うたが答えは返らず。

ただ、ただ、傷つけずに帰すのに苦心したものだ。


変わった生き物だと思ったよ。知性を感じる時もあるのだが、話は通じず、僅かながら心を通わせる者もいたが、その子に継がれることは無かった。


そして、そのうち彼らの知性は、我らとは違う方向に動き始めた。

浮かぶ道具は大きくなり、木のものから、とても硬い石で造った道具を浮かべ始めた。

それからだ。


戦いが始まった


ヒトト族の浮かぶ石は数を増し、ますます大きくなっていった。牙もより遠くへ飛ぶようになり、イカジュポンの細長い足が亀の甲羅の模様の様に、こんがらがったような、大きな道具を水の中に沈め、我らを絡めとった。

クジララは徐々に数を減らした。

彼らの造るものが、我らの至福の時代を砕いた。

もはやクジララ族は支配者では無くなったのかもしれない。


しかしな、ヒトトの中にも友好的な連中がいるのだ。

我らに近づいてくるが、攻撃をしてくるわけではなく、一緒に泳いだり、遠目に観察しているだけの場合もある。


我々の中にも不協和音であるシャチッチがいる。我らの尻尾にかじりついてくるアイツらは、同じ種族とは思えぬほどに何もかも違う。が、奴らのように見た目もはっきり違っていればよいのだが、ヒトト族は見分けがつかないのが困る。

我らを喰らうヒトトなのか、そうでないのか分からないのだ。


だが、やはり一番分からないのは、ヒトトがなぜ我らを喰うのかだ。

鳥の話しでは、ヒトトは草木も食し、エリアには獣も多くいて、およそ食べるものには困っていない様子なのだと。わざわざ危険を冒してまでクジララを襲うのは割が合わないと思うのだが。

・・・まあ、今ではさほど危険とは言えないかもしれないが。


そうそう、先ほど一緒に泳ぐヒトトの話をしたが、我ら一族の小さきものは、ヒトトに通じている者も少なくない。

彼らを楽しませることに長けている者もいるほどだ。


たびたびヒトトと一緒に泳いだり、触れ合う者もいる。はっきりと我らに対する好意が伝わってくるのだそうな。

最近のヒトトには海に長く潜れる者もいて、水の中で遊ぶのだとか。空気の泡を輪っかにすると特に喜ぶらしい。ヒトトがそんな素直な個体ばかりだと、平和に過ごせていいのだけれどね。


しかし小さきものがヒトトに捕らえられて囲われ、彼らを喜ばす役を強いられているとも聞いた。ヒトトのやる事は一々分からん。

心を通わせる者の自由を奪うとは。

囲われている者達は、もしかしたら喰われることはないのかもしれんがね。

やはり解り合えると思うのは幻想なのかもしれぬな。


我らの生活は、まあこんなとこだ。


・・・そうか、またな。

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