遺失物

岩木田翔海

遺失物

 雑多な街中で私を落とした。

 それは百貨店の中だったかもしれないし、近所のコンビニだったかもしれない。

 とにかく私は私を落としたようであった。


 なぜ私が今朝まで私を保持していたと言えるかというと、今朝起きて布団から出るとき、朝食を食べたとき、洗面所で身なりを整えたとき、たしかにそこには私があったからだ。

しかし今はその影が見られない。つまり失くしたということだった。


 私は私をどのように扱っていたのだろうか。

 何事にも替えられない大切なものとして扱っていた気がする。

 その反面、私は私にひどくあたっていた気もする。

 私にとって私とは何だったのだろうか。

 かけがえのないものだった気もするし、どうでもいいものだった気もする。


 今日ついに私を落とした。

 さて、果たして私は取り戻せるのだろうか。

 普遍的流動性にさらされながら自分に問う。

 耳には流行りの音楽、目には全国チェーンの看板、手には今日発売されたばかりの雑誌。


 私は私を失ったままだった。

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遺失物 岩木田翔海 @ShoukaiIwakida

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