1 壊れた日常

 この国では吸血鬼との共存の為に政府が主導で動いていた。私の両親は反対運動のリーダーであった。それが気に入らなかった政府は、私達の住む家に押し掛けて嫌がらせをした。それでも両親は反対運動を止めなかった。


 反対運動を始めて一月が経った。そんなある日、早朝ドアを激しく叩く音が聞こえる。不審に感じながらも両親がドアを開けた。開けた先には警察官が立っていた。


「○○さんで間違いないですか?」


「はい、そうですが?」


「逮捕状が出ています。ご同行をお願いします」


「え?何かの間違いでは?」


 両親は戸惑った。しかし、警察官は有無を言わさず、両親を即座に拘束する。そして、パトカーに無理やり乗せた。両親を煙たく思っていた政府が警察に根回していて、冤罪で両親を逮捕した。


 それから私は叔母に引き取られ、両親は帰ってくることはなかった。私は何度も両親の無罪を主張した。だが、私に叔母は危険が及ぶのを危惧し、もう止めるように諭した。


 私は絶望した。こんな世界が嫌いだ。人は信用できない、死にたい。右手の自傷行為の跡を隠す包帯を睨んでいたら、私のスマホに未登録の電話番号から電話がかかってきた。


「もしもし?」


「両親に会いたければ指定の場所に来い。場所は○○だ」


 電話を切られた。声は男、私は約束通り指定された図書館に行ったが、誰も居ない。騙されたのだと帰ろうとしたら低い唸り声が聞こえる。怖くなって周りを確認する。


 すると図書館の奥の方から何者かの歪な歩く音が聞こえる。音はだんだん近づき、その正体を現す。顔色が青白い、両親の姿がそこにあった。唸り声をしながら近寄って来る。


 私は怖くて動けなかった。化物はもう目と鼻の先。私は怖くて意識を失った。気がつくと両親の姿をした化物は首と体が離れて、頭が潰され死んでいた。少し離れた所から声が聞こえる。


「やあ、僕はナノフ。君の両親は吸血鬼に血を吸われ尽くしてアンデッド化したようだね」


「吸血鬼に?」


「君の両親が、よっぽど邪魔だったんだろうね。君は復讐がしたいかい?僕なら君の目的を叶えられるけど」


 私は両親を失ったことやわからないことばかりでどうすれば良いかわからなかった。


「そうだね君には時間が必要なようだ。一週間待とう、じっくり考えると良い」


 私は家に帰り嘔吐を繰り返し、泣いて、泣いて、泣きつくした。両親をこんな目に合わせた存在に復讐する。私はナノフと名乗る女性を頼るしかなかった。一週間後、ナノフは待ち合わせのカフェに姿を現す。


「やあ、今日も暑いね。どうやら覚悟が決まったようだね。もしかして、顔に出やすいタイプかな?」


「茶化さないでください、私は理不尽に立ち向かえる力が欲しい。私は貴女を信用するしか道はない。私は貴女の言葉を嘘だと否定して、何もかも諦め自殺する選択肢も考えたけど、何も出来ずに死ぬのは両親に顔向けできない。だから、私が死ぬのは復讐をした後」


「君は素質があるね。復讐するには知識に技術が必要。まずはトレーニングをしてからだね」


 私は頷き、復讐の道を歩み始めた。

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