ある機関、知らぬ者

@karisuke

ある機関、知らぬ者

「ではこれより今週の定例会を開催します。」


とある雑居ビルの一室に集まった男女ら十数名。

それぞれ一例するとパイプ椅子を引いておのおの腰掛ける。服装はスーツ姿が多いが、学生服姿や白衣を着ている者もちらほらと見かけられた。


「古泉、報告を頼む。」


「はい。」


古泉と呼ばれた制服姿の高校生が立ち上がると一斉に部屋中の全員が彼の行動を舐め回すように見る。

彼もそんな視線にもう慣れたのか、たじろぐこともなく手に持ったペーパーを読み上げ始めた。


「今週は『彼』が学校を1日欠席したことによる問題以外特段変化はありません。また未来人勢力、TFEI勢力との関係も変化はありません。」


「念のため聞くが『彼』の欠席は他勢力による介入だったと言う可能性はないのか?」


話を聞いていたひとりの男が質問をぶつける。


「情報部による行動監視、病院、薬局への調査。『彼』の自宅内の監視状況からみて少なくとも外国の諜報機関を含む一般の人間勢力の介入はありえません。TFEI勢力による介入は長門有希他の言葉を信じるならばありえないかと。」


「つまり普通の風邪だったと言うわけだな。今後とも学校内での『彼』の監視、保護に当たってくれ。」


「了解しました。」


そこから会は北高内の他のエージェントや協力者からの定期報告が行われて終了した。

参加者も続々と、しかし怪しまれないよう間隔を空けて雑居ビルを後にする。

このビルも機関が保有するセーフハウスの一つだ。この地方を中心にいくつも存在するセーフハウスは毎週場所を変えて行われる定例会の開催場所となっている。


1時間ほどの会が終了後、ある者は近くの駅まで歩いて、ある者は自転車で、ある者は自動車で一般人としての生活に戻っていく。

世界を守る超能力者、秘密組織の構成員。それが彼らの正体だ。一般人の仮面を被り普段はサラリーマンとして、主婦として、学生として、医者として日常に溶け込んでいる。彼らのほとんどは世界を守ると言う使命感だけを持ってこの理解されることのない孤独な任務ついていた・・・



「全員帰したな。」「ああ。」「では、始めようか・・・」「ええ。」


ガランとした雑居ビルの一室に残った4人。機関の幹部らだ。


「じゃあ始めますよ。」


そう言って一人の男が手元のノートパソコンを操作する。しばらくするとテレビ電話が繋がり画面にスーツ姿の壮年の男が映る。


「どうも。さっき終わりましたよ。大臣。」


『今週はちょっと時間がかかったようだな。』


パソコンのスピーカーから若干のノイズとともに男の声がする。


「ええ、『彼』にちょっとしたトラブルが発生した者で。ああ別に大きな問題はありません。ただの風邪だそうで。」


『ならよかった。あの『彼』がひょっこりいなくなってもらっては困るからな。じゃあ本題に移ろう。あの要請の進捗はどうだ?』


「7割と言ったところですね。直接お願いできればいいのですが最悪国が・・・それどころか世界が傾きかねませんので深層意識から地道にコントロールしていくしかないのです。」


『それもあまり無理なお願いはできないときた。『彼女』の能力を持ってすればどんな問題も途端に解決だと言うのに・・・。ここ最近財界からも突き上げを食らっていてな。』


「『要請』の内容についてはあまりとやかく言いませんが、まさか財界に直接伝えたりはしてないでしょうね。彼女の存在と能力について。」


『まさかそんなことするわけないだろう。政府内の一部だけだ。ただ・・・』


「ただ?」


『公安の連中が国内の不審な組織としておたくら機関をマークしてる。お上の一声と言うことで事なきを得たが・・・。まあ公安はほらあの組織、』


「ああ対立組織の方ですか。」


『そっちもマークしたみたいだがどうする?』


「是非とも消滅させて欲しいところですね。うちも現実世界での戦闘で貴重な構成員をすり減らすわけにも行かないので。」


『超法規的措置としていくつかの違法行為を認めさせておいてそれでも警察を頼るか。』


そう言って画面の中の男はクククと笑う。


「あいにく、私たちは閉鎖空間の中でスーパーマンになれても現実世界で銃を撃つのは苦手でしてね。

それも敵は一つじゃない。我々の情報部によると10近くは存在しているかと。」


『わかったわかった。公安にはそれっぽいのをもう一度洗わせておく。

しかし各国諜報機関からの詮索、同業者との抗争、おまけに宇宙人と未来人とも関係を維持しなければいけないとはな。まあ政府としては『要請』に答えてくれれば機密費から金を出すのもやぶさかではないな。』


「結成一年目は何人かの物好きな資産家だけが頼りでしたからなかなかキツイものがありましたよ。政府が話を聞いてくれるまではうちもかなりの資金難でした。今でこそ潤沢な資金に支えられていますが。」


『しかし恐ろしい世界だな。一人の女子高生に世界はおろか宇宙の命運が掛かっていると言うのは。』


「全く同感です。全ての作業がご機嫌を伺いながらですから。ところで北高に政府から諜報員が入ると聞いたのですが....。」


画面の中の男は「あー知ってたか」とポリポリ頭を掻きながら呟くと気まずそうな顔で話し始めた。


『来年赴任する教師を知っているか?』


「ええ。」


手元の資料を引き寄せるとパラパラめくる。機関の情報部お手製のカンニングペーパーである。


「来年赴任するのは5名。うち1名が増援として送り込まれる機関の協力者ですね。他は特に何もないはずですが....」


『残り4人中まともなのは1人だけだ。1人は公安が監視中のそっちの敵対組織構成員、残り2名はA国とC国のスパイだ。』


その驚愕の事実に機関側の面々は顔を見合わせる。

画面の中の男はさらに続ける。


『現在の北高の教員を洗ってるようだがいやはや恐ろしいな。組織構成員3名、A国、C国スパイ1名づつ。我々地球人も宇宙人 未来人に負けてないな。ハッハッハ』


「....それで政府から諜報員を?」


『ああそうだ。すぐに赴任する名簿を差し替えた。防衛省の情報本部から2名派遣する。』


淡々とした空気で進む政府からの伝達事項を記録していく中で機関の面々は愕然とした。なんとなくはわかっていた。だがこれほどまで大きなものになるとはと。

各国の思惑があの女子高生を中心に蠢き始めたのだ。国家というものはそこそこの組織力を持つと自負していた我々『機関』を軽く凌駕するのかと。


外国政府が本気で我々を潰そうとすればいとも簡単に潰せるのだろうか?


なぜ我々はまだ存在出来ているのか。『機関』が存在している方が都合が良いから?

日本政府の加護?まだ時期が来ていないから?

その日本政府でさえ我々を道具としか思っていないのでは?切り捨てようと思えばいつでも切り捨て機関のメンバー全員を抹殺しようとしているのかもしれない。


『彼女』は何を望んでいるのか。それとも女子高生は国際政治には無関心というものなのだろうか....

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