06:名前は不要そうで必要そう
今日買ってきた材料で焼うどんを早速作るが、カーベラが見つかるのではないかと、妹が俺の部屋に近づかないかととても気になってしまう。こんなことも今日を凌げばカーベラは出ていき、なくなるのだろう。
ふと目を閉じると思い浮かぶのは先ほどのカーベラの顔だ。断った時のカーベラの顔、表情。気丈に見えるアイツだが本心は不安でたまらないのかもしれない。カーベラにはカーベラの家族がいてその家族が魔王の侵略から怯えて過ごしている。カーベラはその人たちを救うためにこの世界に来た。初っ端から撃沈しては不安にもなる。
では、果たしてどうすればいいのだろうか。教えてくれ。魔王の追手?ふざけんな。何で俺がそんなのに追われなくてはならない。教えてくれ。どうやってカーベラのあんな不安な表情を無視しろというのか。
「あ・・・」
ボーッとしていたからだろう。包丁で指を少しばかり切っていた。まぁ絆創膏でも貼っておけばいい。
何やかんや考えているうちに焼うどんがそれらしき形に仕上がっていた。両親が多忙で家にいないことが多い分、料理は慣れている。まぁ考え事しながら作っても包丁で手を切るぐらいでそれなりの焼うどんが作れるほど。
「彩芽― 焼うどんできたぞ。俺はこれから友達と電話するのに部屋こもるからここに置いとくぞ。」
それらしき理由を言っておけば彩芽は俺の部屋には来ないだろう。もしカーベラとの話声が聞こえたって、イヤホンせずに友達と電話してたとでも言っとけば最悪何とでもなる。
余った焼うどんを皿に盛り付け、自分の部屋に向かう。
「またせたな。夕食の焼うどんだ。男飯が嫌でなければ食べてくれ。」
「ありがとう。・・・・。って今思ったんだけど、私まだ君の名前聞いてないよね⁈」
ん・・・?なんかもうとっくに話していた気がしていたのだが考えてみればまだ自己紹介もしていないのか。あまりにコイツが自然に接してくるものだから気づかなかった。
「あーじゃあ。まあ改めて俺の名前は榊原 睦月だ。まぁ何とでも呼んでくれ。」
「睦月、むつき、むつ、む・・・ むっちゃんは?」
「いやそれは流石に女の子っぽいからやめて。」
今日の朝も同じようなツッコミを入れたような気がする。
「んー じゃあ『むつき』でいいや。」
いきなり下の名前で呼ばれるような中になった気はしていなかったのだが、何とでも呼んでいいと振った俺が悪かったから受け入れることにしよう。にしても今日あった女性から下の名前で呼ばれると何だかこうむず痒い感じになってしまう。
「じゃあ自己紹介も終わったことだし、冷めない内に頂いちゃうね。焼うどんって言ったっけ?初めて食べるな〜」
カーベラが不思議そうに焼うどんをみる。箸の使い方は何となくわかっているみたいだ。異世界にも同じような物が存在しているのかもしれない。
一口食べてから、何も口にせずしばらく焼うどんを食してから、やっと顔をあげた。
「まあ、彩芽に連日ご飯作ってる俺の料理がまずい訳がないだろう。」
「本当に、本当に美味しい! 初めて食べたよこんな料理!」
「そ、そうか。よかったよ」
軽口を叩いてみただけなのに、流石にそこまで言われると照れて何も言えなくなってしまう。
「うん本当にありがとう むつき!」
もうこれ以上話していると恥ずかしさで死んでしまいそうなので俺も自分の分を食べることにする。2人分を作る予定だったため、野菜は多めに切ったといえどうしても麺が足りなかった。少し野菜が割合多めの分量だが致し方か。
二人とも完食し、食器を洗うなど一通りの家事を済ませに部屋を出る。
カーベラは、異世界に送られて疲れているか、もういつ寝落ちしてもおかしくない状態だった。
まあ、放っておいても部屋を出るような気力もないし見つかるような心配はしなくて大丈夫そうだな。
そんなことを考えながら、俺は家事などの日常イベントこなした。
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