第48話 いよいよ決勝戦です。
「楽しいねえ。祭りはこうでなきゃいけねえ」
ケイを救護室に届けたところで、双鉄拳の声が闘技場の中に響いた。
振り返ってみると、双鉄拳が試合場の真ん中で偉そうに腕組みしている。
その視線の先にいるのは、ジュリアさんだ。
四本のメイスと二個の盾を持ったジュリアさんは、無言で双鉄拳の顔を見つめながら、自然体で一歩ずつゆっくりと試合場へ歩いていた。
「だが、祭りもそろそろ終わりだな。おまえで最後だ」
双鉄拳が、籠手の両拳を身体の前に合わせた。
「登録名、エクサの守護者。登録名、双鉄拳。中央へ」
審判さんが誘導し、二人が闘技場の中央に立つ。
『ジュリア! ジュリア! ジュリア! ジュリア!』
『双鉄拳! 双鉄拳! 双鉄拳!』
観客の盛り上がりは最高潮だ。ばらばらだった声が、少しずつ統一されていく。
「さあ、ついに! ついに決勝戦だぁ!」
司会の人がマイク杖に向かって叫んでいる。
「こいつらの実力は本物だぞ! 破壊を呼ぶ剛腕、双鉄拳にぃ、大会四連覇を狙うエクサの守護者、ジュリアァ! 勝利の旗は、どちらに振られるのかぁ!」
そして、その司会さんの声もかき消すくらいの声援が場内を埋めつくした。
『ジュリア! ジュリア! ジュリア! ジュリア! ジュリア! ジュリア!』
『双鉄拳! 双鉄拳! 双鉄拳! 双鉄拳!』
私はさっきまで立ってた警備兵の待機場所に戻る途中だけど、試合場から目が放せない。
「ギド王、あいつのこと、どう思う? ジュリアさんは勝てる?」
≪応援の量はジュリアのほうが有利だな≫
「いや、そういうことじゃなくてね?」
≪落ち着くんだ。ケイがやられて頭に血が上ってるのはわかるがな≫
「ちょっと、難しいかも」
≪ジュリアを見てみろ。落ち着いてるだろう? さっきの狼もそうだったが、挑発して相手を怒らせ、冷静さを失わせるのも戦法のひとつだ。引っかかるなよ≫
「……うん」
でも、やっぱりそれは難しいなあ。
傷ついたケイの姿が頭に焼き付いて離れない。
「さーあさあ、始めようじゃねえか」
立ち上がった犬のような構えの双鉄拳は、相変わらず余裕の表情だ。舌なめずりなんかしていて気持ち悪い。
ジュリアさんは、相変わらず鋭い目で双鉄拳の顔を見つめている。
いや、視線がちょっとずれてる。額のあたりを見てる?
「無差別闘技大会、決勝戦。双鉄拳、対、エクサの守護者、ジュリア!」
審判さんが、両手の旗を頭上にかざす。
「試合開始!」
双鉄拳が後ろに下がる。
一瞬遅れて、ジュリアさんがまっすぐ正面に走り出した。
「くらえ、火弾!」
双鉄拳の左手から、ケイが使うような火球が生まれる。あっという間にジュリアさんの目前まで迫った火球は、そのまま爆発した。
あいつ、火の魔法も使えるんだ。
でもジュリアさんは直前で盾で防いでいて、足を止めずに走り続ける。残った炎はすぐにジュリアさんの後ろに流れて消えた。
舌打ちした双鉄拳がその場に足を止め、右腕の籠手を前に出す。
ジュリアさんはそれに構わず、四本のメイスで斜めに殴りつけた。
「うん?」
ジュリアさんの戸惑うような声が聞こえる。
四本のメイスは死鋼の籠手にがっちり受け止められていた。動きを止めたジュリアさんの顔を、双鉄拳が左腕で殴りつける。盾でギリギリ防いだみたいだけど、殴られた反動でジュリアさんが床に転がった。
すぐに立ち上がるジュリアさんを見て、双鉄拳が薄ら笑いを浮かべる。
「ジュリアさんのメイス、効いてないの?」
≪そのようだ。多腕系種族の弱点、腕一本ごとの腕力の弱さが出たな。ジュリアの腕力だと、あの死鋼の籠手の上から殴ってもあいつに大した威力が出せないんだろう≫
それじゃ、ジュリアさんピンチ?
でも、ジュリアさんは何度もメイスで双鉄拳に殴りかかった。
双鉄拳は立ったままその場を動かず、両腕をボクサーのように動かしてメイスを弾き、そらし、叩き落とす。
ジュリアさんのメイスも速いけど、双鉄拳の身体にはまだ届いていない。
「そろそろ俺の番だな!」
双鉄拳のパンチが飛んできた。
ジュリアさんはぎりぎりで避けたけど、拳は左右から次々と繰り出される。
数発のパンチを盾で防いだジュリアさんが後ずさると、すかさず双鉄拳が左手を伸ばした。
「雷閃!」
息をつく間もなく稲妻が飛んできて、ジュリアさんの左肩を打つ!
雷は鎧の表面で飛び散ったけど、ジュリアさんの顔が痛そうにゆがんだ。
双鉄拳は手を銀色に光らせながら、横に走り始めた。
「銀針!」
ジュリアさんが右へ転がり、そのすぐ横を銀の光弾が駆け抜けていく。
双鉄拳が連続して魔法の光弾を連続発射し、ジュリアさんはそれを走ってかわしていく。
あ、流れ弾が一発こっちに飛んできた!
「あいたたた……」
≪おいおい、油断するなよ≫
銀の光弾が私の太ももに命中して、危なく転ぶところだった。
立ててた槍に体重をかけてなんとか耐える。
「どうした、守備隊長さんよ。撃たれるままか? お前も魔法を撃ってみろよ!」
双鉄拳が怒鳴ってる。
こっちへ飛ばした流れ弾なんか気にしてないみたいだ。
でも、ジュリアさんは黙って走り続けている。
そういえば、ジュリアさんはこの試合でまだ一度も魔法を使っていない。
「ジュリアさん、なんで魔法を使わないんだろう」
≪おそらく、使いたくても使えないんだ。あの男の籠手が死鋼製なのに気づいてる。魔法を撃てば撃つだけ相手の力になるからな≫
「あ、そっか。でもそれじゃあ、このままだとジュリアさんが一方的に魔法を撃たれて負けちゃうよ」
≪いや、そろそろあの男も魔力が少なくなってるだろう。ケイの魔法から魔力を吸ったにしても、あれは撃ちすぎだ≫
言われてみれば、双鉄拳の撃つ魔法の数が明らかに減ってる。ジュリアさんに魔法を撃つよう挑発してるのも、そのせいか。
「大会優勝者っていってもも、こんなもんか? 逃げ回るだけで魔法ひとつ使えないか!」
「そんなに魔法を食らいたいか?」
しかし、双鉄拳の挑発を受けるかのようにジュリアさんが答えた。
足を止めたジュリアさんの六本腕、その全部の人差し指が赤く光っている。
「あれ、魔法を使っちゃうの?」
≪どうだろうな。なにか狙ってるようには見えるが、わからん≫
「ハッ、そうこなくっちゃなあ!」
双鉄拳が大口を開けて笑い、死鋼の籠手を構えた。
ジュリアさんが立てた六本の人差し指に、炎がともる。
「受けてみろ!」
ジュリアさんは火を指に宿したまま、双鉄拳に向かって走り出す。
正面に突き出される死鋼の籠手、その二歩前でジュリアさんが盾を横に向けた。
「白明、火弾!」
ジュリアさんが魔法の言葉を叫び、その瞬間、白い光がジュリアさんの身体を包む。
光の魔法を準備してるとこ、盾で隠してたんだ。
目がくらんで守りの体勢を取る双鉄拳。
直後に複数の火球が双鉄拳の籠手に着弾、爆発する。
火の魔法だけでなく、光の魔法も同時に使ったみたいだ。
「チッ、悪あがきを!」
光の魔法は鎧が防いでくれたので、私の視界はすぐに元に戻った。
上半身を炎に包まれた双鉄拳が、飛びかかっていたジュリアさんを受け止めている。
双鉄拳はのけぞって、ジュリアさんを力任せに後方の床へ叩きつけた。
その後、自分の身体についた炎の上を死鋼の籠手でなでる。
魔力を吸収したのか、炎はあっという間に消えていった。
双鉄拳が近づくが、ジュリアさんは起き上がれない。
「惜しかったな、だがこれでおしまいだ!」
その死鋼の籠手が、ジュリアさんに振り下ろされようとされた、そのとき。
「そこまでだ!」
闘技場中に、男の人の低い声が響き渡った。
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