第46話 準決勝、第二試合です。
ジュリアさんが試合場から外に出て、気を失ったままの疾風さんが担架で運び出された。
「続いて、準決勝の第二試合を始めます。登録名、赤い天使。登録名、双鉄拳。試合場へどうぞ」
審判さんに呼ばれ、ケイと、その相手が試合場へと向かう。
両手の指を組んで上にあげ、ぐいーっと背伸びをするケイの顔はとても楽しそうだ。
余裕だなあ……。
目を細めて薄笑いするケイからは、これから自分が命がけの試合をするという緊張感が、かけらも伝わってこない。
「さあ、準決勝第二試合ぃ! 決勝へのもうひとつのイスを賭けて戦うのはぁ、炎をまとった一陣の風、赤い天使とぉ、巨人も顔負けの怪力を誇る剛腕、双鉄拳だ!」
司会の人が声を張り上げて、ケイが自分の剣を頭上に掲げた。
双鉄拳さんのほうは、感触を確かめるように両手の金属製の籠手をガキンガキンと打ち合わせている。
やっぱり、あれで殴るんだろうなあ。
試合場の中央に立った二人は、さっきの試合と違ってお互いが何も言わず、ただ正面からにらみ合っている。
「試合開始!」
審判さんの合図と同時に、熱気をまとったケイが上に飛んだ。
双鉄拳さんは、その場で右腕の黒い籠手を前に構える。
「いくよ、火弾!」
ケイが先手を取った。
空中のケイが打ち出した火球は、まっすぐ双鉄拳さんに飛んでいく。
火球はそのまま双鉄拳さんに命中、爆炎が双鉄拳さんの上半身を包んだ。
ケイは空中で、続けて火球を連発する。
相手からの反撃はないけど、ケイは気を抜いていない。
ひととおり火球を打ち終わった後、ケイは巻きあがる爆炎を見つめながら三日月剣を構える。
「これがおまえの魔法か。ここまで連発できるとは、たいしたもんだ」
よく響く、低く太い声。
双鉄拳さんの声みたいだ。
黒煙と火の粉は風に吹かれて消えたけど、双鉄拳さんは火球を受ける前と同じポーズで笑っていた。
煙のススはついてるけど、無傷みたいに見える。
「あれ? 平気なの?」
≪おかしいな。あれだけの魔法を正面からまともに受ければ、傷のひとつやふたつは残るもんだが≫
ギド王もよくわからないみたい。
「さあ、今度はこっちからいくぞ!」
両腕を左右に広げた双鉄拳さんが走ってくる。着地したケイは、双鉄拳さんの左へ回ろうと再び大きくジャンプした。
「雷閃!」
双鉄拳さんが魔法の言葉を叫びながら左腕を前に出す。
その銀の籠手の指先から、金色の電光が弾けた。
身をよじって避けようとするケイの左肩を、双鉄拳さんが放った稲妻が貫く。
「うあっ!」
空中でバランスを崩したケイが、落ち始めた。
≪相手は雷使いか。あれは避けるのが難しいぞ≫
ケイは空中で体勢を立て直そうとしたけど、うまくいかないみたい。彼女はそのまま試合場に足をつけた。
「どうした。もう終わりか?」
「くっ、このっ!」
オレンジに輝く三日月剣を構えたケイが、正面から双鉄拳さんへ走っていく。双鉄拳さんは両腕を十字に組んで、前に突きだした。
「はあっ!」
ケイの一撃は、双鉄拳さんの籠手に受け止められた。でも、双鉄拳さんが動くよりも速くケイが次の一撃を繰り出す。
双鉄拳さんは防御重視で、ケイにあまり手が出せていない。
その激しい攻防に、観客が熱く盛り上がる。
≪まずいな≫
「え?」
≪ケイのほうは確かに素早い連続攻撃だ。だが、相手は最低限の動きで全部防いでいる。あいつはケイが疲れるのを待ってるだけだ≫
私は目を細めて集中し、二人の武器の動きを見てみた。
これまで何度も試合を見てきたせいか、武器の動きが少しは見える。
「ほんとだ。よく見たら全部受けられてるし、ケイの剣の光があの籠手に触れる瞬間だけ消えてる」
≪なんだと?≫
あれ、そういう意味じゃなかったのかな。
「魔力で熱を帯びた剣か。相手が俺じゃなかったら、効いてたんだろうけどな」
双鉄拳さんのつぶやきが、ネックレスを通して場内に響く。
「だが、この程度の剣じゃ俺の腕は壊せねえ」
「余裕ぶってんじゃないよ! なにもできないくせにっ!」
顔を真っ赤にしたケイが、三日月剣を真上に振り上げて跳ぶ。双鉄拳さんが無造作に右腕の黒い籠手を持ち上げた。
ケイはそのまま、全体重を乗せて刃を叩き下ろす。
だけど、ケイの三日月剣は、双鉄拳さんの右腕一本で受け止められた!
「うっそ!?」
「力が足りねえんだよ。そんなんじゃあ俺には勝てねえ」
目を見張るケイに双鉄拳さんの左拳が飛んでくる。
「あぐっ!」
右肩を殴られたケイが、床を転がるように双鉄拳さんから離れた。
双鉄拳さんが嫌な笑みを浮かべ、その左手の指先に、金色の光が集まっていく。
「雷閃!」
しかし、ケイはまだ三日月剣を手放さない。
双鉄拳さんの雷魔法を横に跳んで避けたケイは、その場に片膝をつきながらも相手をキッとにらみつけた。
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