第四章 異世界の闘技大会で
第43話 無差別闘技大会、決勝日の開幕です。
それから私たちは一日だけどはいえ、トラブルもなくしっかりと休息を取り。
闘技大会の最終日を迎えた。
お空は快晴、太陽がまぶしい。
闘技場の観客席は、今日も超満員だ。
「本日も、この都市の住民はもとより、他国の方までもが多くこの地に集まっていただいた」
闘技場内では、独立都市エクサのトップ、エクサ市議会議長の開会演説が行われていた。
「いよいよ本日がエクサ設立記念祭の締めくくり、無差別闘技大会の決勝だ。ゆっくり楽しんでいってほしい」
観客席から歓声が上がり、議長さんは右手を振ってそれに応えている。
議長さんと聞いて、私は勝手にお爺さんのような人をイメージしてたけど、実物はずっと若かった。
たぶん、三十代後半ぐらいかな?
客席の中央、回りを石壁に囲まれた
よく通る低い声で話す堂々とした姿は、議長というより王様と言った方が似合いそうだ。
日本の政治家の人といったら、新人さんならともかく、なんとか議長とかまでいくとお爺さんしかいないって気がしてたけど、こっちの世界だとまた違うみたい。
でも、しばらくお世話になってた村の村長さんはお爺さんだったなあ。
「そして、ここに立つ四名の勇猛なる諸君。激戦に次ぐ激戦の中、よくぞここまで勝ち残った」
議長さんが正面に向き直る。
その視線の先、闘技場の中央には、今までの試合を勝ち抜いた四人の選手たちが横一列に並んでいた。
「理想は、力あってこそ成せるもの。そして、力はいつでも磨くことができる。だが、力を示す機会というものは、いつのまにか訪れ、そして気づかぬうちに去ってしまうものだ」
私はといえば、その列の斜め後ろ、選手たちの背後を守るような位置で槍を持って立っていた。
もうちょっと目立たない場所がよかったけど、まあ選手の横に並んで立つよりはマシかな。
「諸君らは、この闘技大会という機会において、見事、己の力を示した」
議長さんの顔を見ていると、昨日のことを思い出す。
私が部屋で寝っ転がっていると、暇だって言って遊びに来たケイがいろいろ話をしにきたのだ。
まだ捕まってない盗賊団の話とか、この街のお店の話とかをしてたんだけど、その中に議長さんの話もあった。
ケイが言うには、あの議長さんも元はこの大会の優勝者なんだそうだ。
その後はジュリアさんみたいに軍隊の部隊長になったけど、前の議会がずいぶんひどかったらしく、今の議長が反乱を起こして前の議長を殺害し、この都市を奪っちゃったんだそうな。
≪支配者稼業は、きれい事だけじゃやってられないのは今も昔も変わらんな≫
ギド王にそのことを話したら、そんな返事が返ってきた。
そんな裏事情なんてあんまり知りたくないから、深くは聞かなかったけど。
歴史は繰り返すってことなんだろうか。
「ここに立つ諸君の力は素晴らしいものだ。これからの戦いにおいて、その身に秘めたすべての力が発揮されることを期待しよう。諸君が真の強者であることを、ここにいる者たち全員に見せてくれ」
客席から、さらに大きな拍手と歓声が起こる。
その轟音に、思わず私は肩を縮めた。
もう何日もは闘技場で警備してるわけだけど、この大音量にはどうしても慣れない。
「さて。戦いを始める前に、伝えておきたいことがある。この場にいる全員に聞いてもらいたいことだ」
議長さんの口調が厳しいものに変わる。すぐに観客たちが騒ぐのをやめた。
「近年、この地域の治安は良いと言えるものではない。つい先日も、この城の近くで盗賊騒ぎがあったほどだ。幸い、ジュリア率いるエクサ守備隊によって即座に鎮圧されたが」
私が盗賊のアジトに運ばれてたときのことかな。
「無論、私は現状を黙って放置するつもりはない。この大会を機に、この都市の軍事力を強化し、この周囲にはびこる賊どもを一掃する!」
ここでまた観客が盛り上がる。
朝からみんな、ほんと元気。
「今回の大会は、いつにも増して、たくさんの強者が集まってくれた」
議長さんが、視線を選手たちに戻す。
「その中を勝ち抜いた諸君らがここで己の実力を示したなら、私もまた諸君らに、力を振るう新たな機会を与えよう。私の目に止まった優秀な者は、軍の指揮官として迎え入れることを約束する。諸君らの健闘を祈る!」
そこまで言って、議長さんは後ろに下がると貴賓席に置かれたふかふかしてそうな豪華なソファーに座った。
それを合図にして、審判さんや職員さんが試合場の準備を始めた。
職員さんたちが試合場の中に散らばって床をチェックし、異常がないか最終確認していく。
いよいよ闘技大会の決勝日が始まる。
私は昨日の休息日で丸一日寝ていた上に、ウェナのパワフルマッサージをもう一回やってもらってしまったおかげで、筋肉痛はだいぶ収まっていた。
いろいろあった闘技大会の警備だけど、今日で最後だ。
がんばって今日一日を乗り切ろう。
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