第42話 私はどうするのがいいでしょう。
「あ、私の病気は、伝染病ではないので、病気がクロウ様や他の方に感染する心配はありません」
ウェナが慌てたように付け加える。
黙り込んだ私を見て、別の方向に考えたみたい。
「いやいや、そういうことじゃなくて」
今まで私は、自分の身体のことばかりを考えてこの鎧を探し、ウェナを従者として連れ歩いていた。
私の、魔力のない体質。
それは確かに不便だけど、それ自体が直接命に関わるってことはない。
でも、ウェナは私とは全然違う。もっと直接的に、命を左右する身体の問題を持っている。
「ねえ。もし私が目標達成して、王様との契約を終えて、鎧を脱ぐことになったら。ウェナはまた、鎧と一緒に遺跡に戻るの?」
「はい。鎧の中に誰もいない状態では、鎧は周囲の魔力を無差別に奪い、結果的に、他者に害を、及ぼすことになります。遺跡に、隔離しないといけません」
「ちょっと待って」
私はビーチチェアから身体を起こしてウェナの顔を見る。
「今まで鎧を着ることができたのって、確か五人だけじゃなかったっけ? それに王様は前に、普通の人が鎧を着ることができるのは三年くらいが限界って言ってたよ。だとすると、あなたが従者になってから今まで、遺跡から外に出られた期間ってどのくらいなの? 十五年くらい?」
「いえ。正確に数えてはいませんが、合計で、五、六年程度かと思います。鎧を着てから、数週間で亡くなられた方も、おられますので」
五、六年。
確か前に、鎧を守って六百年とか言ってなかったけ。
そんな長い間で、外に出られたのは、たった五年?
ウェナの言葉が途切れ途切れだったり、よく咳をするのは、そのせいなのかな。
それだけ遺跡の中にいるってことは、他人と話す機会もないってことでしょ? ギド王とは話ができないみたいだし。
それはノドも弱くなるよ。うまくしゃべれなくなるよ。
いくら生きることができたとしても、長い命を得たとしても。
そのほとんどが、遺跡の中でひとりぼっちだなんて。
それは、いくらなんでも辛すぎる。
なにか、いい方法はないんだろうか。
ウェナが、病気や鎧に縛られないで、自由に行動できるような方法。
「あなたが死鋼の鎧を着るわけにはいかない?」
質問の意味がわからなかったらしく、ウェナが首をかしげる。
「ウェナが自分で鎧を着れば、好きなところへ出かけたりできるかな、って」
「いえ。鎧は、魔力を放つより、吸う量のほうが、多いです。私が着たなら、それほど長くは、持たないでしょう」
さすがに無理か。
「じゃあ、例えば鎧を着た私がいろんな魔法を受けて、魔力を溜めて、その魔力をウェナに全部渡したら、遠くまで動けるようにならない?」
「それは、一時的には、私の魔力が大きく強まるでしょう。一瞬なら、死鋼の鎧を上回る力が、出せるかもしれません」
「おお」
「しかしそれは、長続きしないでしょう。鎧が吸収しきれなかった余剰の魔力は、いずれ周囲に飛び散り、消えてしまいます」
「ダメかぁ。それじゃせめて、私が長く鎧を着続けていれば、ウェナもその間は外にいられるのかな」
「それは、クロウ様の、目的が果たせないまま、ということになってしまいます。クロウ様が、死鋼の鎧を着る時間が、長ければ長いほど、あなた様の生命力が失われていくのですよ」
「うーん……」
私はこれ以上ウェナにかける言葉が見つからなくて、ビーチチェアにうつぶせに倒れこんだ。
「従者である、私のことは気になさらず、クロウ様は、ご自分の目標に向かって、お進みください」
そんなこと言われても、気になっちゃうよ。やっぱり。
でも、なにか解決策が思いつくわけじゃない。
なにか言わなきゃと思うけど、いい言葉がなかなか出てこない。
お互い黙ったまま、気まずい空気が流れ始めたところで。
「や、生きてるー?」
突然、部屋の扉からケイが顔を出した。
「なによ、暗いなあ。せーっかく、いいお知らせを持ってきてあげたのに」
私たちのどんよりした雰囲気を見て、ケイはちょっと不機嫌そうになった。彼女は私たちの様子に構わず、白色の鎧をがちゃがちゃ鳴らしながら部屋の中に入ってくる。
「お知らせ?」
私の足元まできたケイがビーチチェアのはしっこに腰掛けた。
「私、勝ち抜いたよ。最終日に出場決定!」
「おおっ?」
ビーチチェアから身体を起こすと、にっこり笑うケイと目が合った。
「おめでとう! いけたんだね!」
「おめでとう、ございます」
「へへへ、ありがと」
ケイが大きく背伸びをして目を閉じる。
「明日は一日しっかり休んで、明後日の決勝では全力で勝ちに行くからね」
「うん。応援するよ。その日、私は試合場の警備だから、近くで見られると思う」
「それなら特等席みたいなもんだね。目の前で勝ってやるから、しっかり見てなさいよー。ウェナちゃんはどこにいるの?」
「客席の、警備の、予定です」
「そっか。クロウほど近くじゃないけど、試合は見られそうだね」
「はい。できるだけ、見るようにします」
「へっへー。ウェナちゃんに見てもらえるなら、かっこいいとこ見せなきゃね」
明るいケイにつられてか、ウェナの表情もすこしだけ緩んだみたいだ。
そうだよ。ウェナは別に感情がないわけじゃない。
ロボットじゃないんだ。
またあの暗くて寂しい遺跡の中に閉じ込めるのは、よくないよ。ダメだよ。
なにかいい方法、考えてみよう。
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