そろそろ友だち定期券が切れるころじゃない?

ちびまるフォイ

期限の切れ目が縁の切れ目

「違うクラスになったけど、ずっと友達だからね!」

「うん!」

「休み時間は会いに行くから!」

「うん!」


親友と別のクラスになったのは神様の嫌がらせかと思った。

転校ではないので同じ学校であればいつでも会えると思っていた。


クラス替えが行われた次の日。

私は休み時間になるや隣のクラスに向かった。


「紗季ちゃん! お昼ごはん一緒に食べよ!」


親友はチラりと私を確認してから、ぷいと窓の外へと向き直った。

なにかの間違いかと思い教室に足を踏み入れた。


「紗季ちゃん、どうしたの?」


「……ここ別のクラスなんですけど」


「え……。私、約束したから……休み時間に迎えにいくって……」


「友達定期券もう切れてるんだから友達じゃないよ」


「友達定期券?」


親友はずいと名刺大のカードを突き出した。


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友達定期券 2020-03-31


花崎 紗季 - 水島 海未

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「もう私達の友情は期限切れてるんだから

 これ以上私の交友関係を邪魔しないで」


「邪魔って……私達、親友でしょ?」


「もう終わったの」


急によそよそしくなった親友に食い下がるわけにもいかず教室を出た。

新しいクラスになってから、新しい友達もそこそこできるようになった。

それでも頭の隅にはいつも親友の面影が残っていた。


「海未、早く朝ごはん食べちゃいなさいよ」

「うん……」


「……ぜんぜん箸が進んでないじゃない。

 どうしたの? 新しいクラスで友達できなかったの?」


「ううん。ほらちゃんと新しい友達とも友達定期券できたよ」


私はお母さんを心配させまいと、新しい友達定期券を見せた。


「それはいいけど……、それじゃどうして浮かない顔をしているの?」


「紗季ちゃんとの定期が切れちゃって、もう友達じゃないって言われたの。

 お母さんはそういうことある?」


「そうねぇ、たしかに親友だと思っていた子とも

 環境が変わるうちにだんだんフェードアウトしていったかも」


「……そう」


これは仕方のないことなんだ。

友達がだんだんと離れていくのは自然な流れなんだ。


「……でもね」


お母さんは改めて言い直した。


「それでも、本当に大切な友達とは今でも交流しているわ。

 とっくに友達定期券なんて切れちゃったけど。それでもいいの。

 本当に大切だと思っているなら定期券の期限なんて関係ないのよ」


「お母さん……!」


「それに、定期が切れたからってすぐに別れるなんて不自然よ。

 なにか事情があるかもしれないわ」


頭にかかっていた霧が晴れたような気がした。

どこかで友達定期が切れたらそれで終わりと納得していたんだ。


たとえ期限が切れたって私達の思い出が消えるわけじゃない。


私はめげずに何度も何度も親友にアタックした。


休み時間はいつも教室に顔を出して、放課後は校門で待って、毎朝迎えにいった。

今まで親友として当たり前の日常を取り戻すために必死だった。


あるとき、教室に迎えに行くと親友の姿はなかった。

しつこくつきまとったから避けたのかと思っていた。


「あの、花崎さんは……?」


「さあ?」

「いてもいなくても変わらないもんね」


クラスの女子のあざけるような声色に違和感を感じた。

トイレも保健室にもいない。立入禁止を超えて屋上にいくと親友がいた。


「紗季ちゃん……。ここ立入禁止だよ」


「……ほっといてよ」


「それに、どうしてそんなにずぶ濡れなの? それに……」


靴も履いていなかった。


「もうほっといてよ! 友達定期券は切れてるじゃない!」


「ほっとけないよ!!」


逃げようとする親友の手を掴んだ。


「いじめられているなら私に言ってよ……親友でしょ?」


「でも……でも……私なんかと友達になったら……。一緒にいじめられちゃうよ……」


「それで、友達定期券を更新しなかったの……?」


親友が誰にでも優しいのは知っていた。

どうしてもっと早くに気付いてあげられなかったのか。


「はい、これ」


私は厚紙で作った紙を渡した。


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友達定期券 <永久>


花崎 紗季 - 水島 海未

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「これは……?」


「私と、紗季ちゃんの友達定期券。

 普通のだと期限が着いちゃうから手作りにしたの」


「海未ちゃん……」


「親友だもん。困っているときは力になるよ。

 なにもできないとは思うけど……。とりあえず、今日は一緒に帰ろうね」


「うん!! ありがとぉ!!」


通常の友達定期券よりずっと不均一な親友定期券。

それでも確かに友情が戻ったのがわかった。

お母さんの言った通りだった。

定期券期限のどうのこうので関係が途切れることなんてない。


私は家に帰るとまっさきにこのことを伝えたかった。


「お母さん! 聞いて! 紗季ちゃんと仲直りできたよ!!」


すると、お母さんは引っ越しでもするかのように荷物をまとめていた。

ちらりとこちらを見ると迷惑そうに言った。



「もう親子定期は切れたんだから、関わらないでくれる?」

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