189. 今朝ドロップし立ての新鮮なブロッコリーだよ! 1株たったの16c!

 かつてカタバラ商国最速の移動手段だった「カタバラ縦断高速馬車」。

 普通の馬車で1ヶ月半か2ヶ月はかかる道程を、たった4日で走り抜ける超特急。

 その鉄道馬車を引いていたのが、ヤツアシトッキュウウマというウマの上位種だ。


 魔王による破壊の被害を免れたイジョーシャさんのお宅に、山本さんのお世話をお願いできないか頼みに行った折、そのヤツアシトッキュウウマのプニ丸君を借りることができた。

 彼女の魔物園にいる数少ない上位種の魔物。フィールドワークに便利だからと言っていたけど、本当にこんなのでフィールドワークに出てるのかな?


「圧力耐性がないと死んでた」


 風圧で。

 その魔物に生身で跨って丸5日。身が軽いだけ鉄道馬車より明らかに速いプニ丸君は、たった5日でサーロイン聖国の聖都シャトーブリアンからリブロース公国を跨ぎ、カタロース王国中央北西寄りの田舎町――懐かしのラビットフィールドの町へ、僕を運んでくれた。



「今朝ドロップし立ての新鮮なブロッコリーだよ! 1株たったの16c!」

「雌牛18頭を絞めてようやくドロップしたバターだ! 今買わないと損だぞ!」


 この世界の常識を知った今の僕ならわかるけど、ドロップアイテムの食材は時間が経っても傷んだりしないので、この鮮度・・というのは単なる売り文句というか、慣用句なんだろう。

 それに、たった十数頭を絞めるだけでレアドロップのバターが出るというのも、ちょっと運が良すぎる。普通はその10倍でも厳しい。ドロップ上昇スキルか装備を持っているんだろうな。


『STOP×不法投棄!!

 ウサギの毛皮の無断放置は犯罪です。

 不要な毛皮は領主邸裏の集積所まで。

 c(U=;ㅅ;)U<ボクヲステナイデ…

  ◎ラビットフィールドの町・公衆衛生課』


 あと、ウサギの毛皮が他国では高級品扱いで、そこそこ良い値で売れることも知っている。

 商国の大きな街でウサギのコートの値段を見た時は、3度見くらいしてしまった。コレットさんや亡霊の人達が、不思議そうにしていたのを思い出す。


 ラムダ様は神界で色々とやることがあるそうで、この5日間は交信もしていない。また随分久しぶりの1人旅だ。


「ヒヒン?」


 ポスターの前で立ち止まった僕を、プニ丸君が振り返る。


「ああ、ごめんね。まずは君を夜まで預かってもらえる場所を探さないと」


 プニ丸君がいるから、1人と1頭旅かな。

 ヤツアシトッキュウウマなんて、この辺じゃ見たことのある人もいないだろうけれど、ウマの上位種なのは一目でわかるだろう。足が8本もあるし。あとオーラがすごい。僕よりも強そう。

 さっきから、プニ丸君のオーラに引かれてか、すれ違いざまにこちらを2度見する人がいる。時々3度見する人もいる。


『大地の月/7日、ラビフィー祭開催!

 今年のラビフィーはいつもと違う??

 奇術ショー・のど自慢・ガチャ刑執行 etc.

  ◎ラビフィー祭実行委員会』


 7日後のイベントを告知するポスターが視界に入った。

 この町で僕が一般人を金属の棒でボコボコにし、町中から恐怖の目で見られていたのは1年近くも前だ。流石に覚えてる人もいないと思うけど、うーん、あんまり目立ちたくはないなぁ……。


 夜の予定まで時間を潰さないといけないんだけど、まずは冒険者ギルドと、他に寄れる所はあったかな?

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