176. 教皇を魔王討伐に参戦させるだと?

「教皇を魔王討伐に参戦させるだと? クククク……それは良い、是非やってくれ!」


 意外にも、ドリルツーノ枢機卿は教皇は僕達の提案に乗って来た。


「最前線で盾にしてくれたまえ」

「いえ、盾役は僕とかがやるので、教皇には火力支援だけお願いできればと……」

「いや、それは困る。魔王と教皇が共倒れになってくれるのが、我が国にとっては最善なのだ」


 何だか難しい話になってきたぞ。

 やっぱり枢機卿って悪いやつなのでは?


「何を妙な顔をしている。

 貴様も、今のこの国で数日も過ごしたのなら判るだろう。この国をどう思った?」


 どう思った、と聞かれると、色々思う所はあったけれど。


「ええと……壁がカラフルだなぁと」


 僕の無難な回答に、ドリルツーノ枢機卿は露骨に眉根を寄せて溜息をいた。


犬人ライカン、貴様はどう思った」

「変な所で何かとお金がかかりますですワン」

「それだ」


 そっちかぁ。


「そっちかぁ、とでも言いたげな顔だな?」

「いえいえ、滅相もない」


 一瞬、心でも読まれたのかと思ったけど、顔に出ていただろうか。初対面の人には表情が読めないとか、何考えてるのか判らないとか、よく言われるんだけどな。


〈ああ、ドリルツーノの保有スキルは【読心】ですよ〉


 ええっ、何ですラムダ様。じゃあ本当に心が読まれてるんです?


〈貴方は感知抵抗スキルが100%以上ありますので、【読心】スキルでも読むことはできません〉


 ではやはり、顔に出てたんでしょうか。


〈貴方の内心は全てコレットに同時通訳で送っているので、ドリルツーノはコレットの心を読んでいますね〉


 ……なるほど?


〈「わふ、すみませんですワン……」〉


 いや、コレットさんは悪くない。ラムダ様も悪くないな。

 僕もドリルツーノ枢機卿も悪くないので、ここはそういう物として対応しよう。


「ん? 何だ、私の【読心】スキルのことを知っているのか?

 ……んんっ、知識神ラムダ様の眷属………? 何だと、貴様ら本物の神の遣いなのか!」

「すごい読まれてますですワン」

「それはもう仕方ないね。そんなに変なことは考えてないから大丈夫だよ」


 尻尾を巻いて小さくなるコレットさんを宥めていると、ドリルツーノ枢機卿は方眉を上げてこちらを睨む。


「いや、貴様は枢機卿は悪いやつだとか何とか考えていたのだろうが?

 直接は聞こえなかったが、犬人ライカンの心から聞こえてきたぞ」

「誠に申し訳ありません」


 あと何考えたっけ。

 何か変なこと言ってたら、重ねて申し訳ないです。




 僕とコレットさんが神の眷属で、実際に神様の指示の下に行動している……ということが判ると、ドリルツーノ枢機卿は一気に好意的になったし、細かい話もしてくれるようになった。


「純血のドラゴンさえいなくなれば、龍人ドラゴニュート共の票も割れる。

 そうすれば、教皇も少しはマシな選挙で選ばれ、多少はマトモな国家運営が可能な筈だ」


 それがドリルツーノ枢機卿の主張だった。

 ドラゴン4家が結託したら、結局ドラゴン教皇にはなると思うんだけど、それでも複数の候補の中から選ばれるだけマシ……という話なのかな。


「枢機卿の選出条件と言うか、輩出元? を変えることはできないんでしょうか。

 今って7家の内の4家がドラゴンなんですよね?」


 そう尋ねると、


「おい滅多なことを言うな」


 とドリルツーノ枢機卿は怖い顔をする。


龍人ドラゴニュートをドラゴンと呼ぶのはせ。

 誰かに聞かれたら、ドラゴン警察がくるぞ!」


 そっちかぁ。


「そっちかぁ、とでも言いたげな顔だな?」

「いえいえ、滅相もない」


 あ、ラムダ様。

 話の本題に関わりのない感想とか、細かい部分はコレットさんに伝えなくても良いですよ。


〈今のは伝えていませんよ〉

「顔に出てましたですワン」

「つい先程見た表情だからな」


 それなら仕方ないですね。


 ともかく、他所の国の内政に一般人が干渉するのもどうかと思うし、その是非は僕が考える所ではない。


「我が国には、★★★★★伝説級スキルを持つ公爵家相当の家系が7つもあるし、歴史と宗教的権威もある。にも拘わらず、国際的な地位が極端に低い。他国でマトモに我が国を尊重しているのは、実質上の属国であるランプ国とイチボ国くらいだ。

 貨幣のレートからもわかるだろう? 今は商国が崩壊し、商国通貨の為替レートが1/10まで下落したが、それでやっと聖国通貨の半分だ。それまでは5倍だったからな。

 共和国通貨など流通地域が半壊したにも関わらず、まだ聖国通貨の10倍以上の価値があるのだ。それまでは50倍だったからな……!」


 枢機卿はすごい勢いで愚痴を言い連ねているけど、やはり僕が考える所ではない。

 コレットさんを横目で見ても、完全に思考を放棄した顔をしている。


「それもこれも、あの拝金主義のアホドラゴンが悪いのだ……!

 流石に暗殺などする気はないし、そもそも不可能だろうが、魔王戦で死んでくれとは心底思うな」

「あの、それこそ誰かに聞かれたらドラゴン警察が来るのでは……?」

「ドラゴン警察は、そんなことでは動かん」


 よくわからない組織だなぁ。



「何にせよ、あのクソドラゴンを戦場に引き摺り出すのであれば、協力は惜しまん。

 私から関係者に口利きはするし、謁見のための寄付金も、異世界人と犬人ライカンの2人分を全額出してやろう」


 ドリルツーノ枢機卿はそう言った。


「どう思います、ラムダ様、コレットさん。

 特に問題ないようなら、僕はお願いしたいですけど」


 僕は2人に尋ねる。


〈個人の思惑はどうあれ、戦力が増えるのであれば結構です。

 今の教皇が死ぬことで聖国自体が発展するというのも、一理ありますね〉


 ラムダ様は仰る。


「私はよく判りませんですワン。お兄さんが良いなら良いですワン」


 コレットさんも頷いた。




 そういう訳で、寄付金と手続きについて、ドリルツーノ枢機卿にお願いすることになった。

 手続きが終わったら、僕達の宿泊している宿に連絡をくれるとのことだ。


 と言っても、教皇への謁見の申請が可能になり、申請すれば場を設けて貰えるができただけで、今すぐ教皇に会えるわけではないんだけど。

 それと、これで聖城のほとんどの場所に立ち入る許可も得られるので、山本さん達に会うことは出来るかもしれない。


 僕達は枢機卿の御屋敷を後にして、一旦宿の部屋へと戻ることにした。



 ドーロボさんは駄目だったけど……イジョーシャさんにドリルツーノ枢機卿と、少しずつ魔王討伐への道を進んでいるように感じる。


 街の風景をざっと見渡して、街を歩く人達の姿を流し見る。

 平和な街だ。

 この街にも、少しだけど知り合いができた。まだ生きている知り合いだ。


 それから、隣を歩くコレットさんを見下ろす。

 視線に気付いたコレットさんがこちらを見上げ、手を繋いでくる。

 僕もその手を握り返して、軽く上下に振ってみせた。


「魔王は絶対倒すからね」

「はいですワン!」

「ラムダ様も、ご支援よろしくお願いします」

〈勿論です。あと少し、共に頑張りましょう〉

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