110. うちのは労働じゃなくて、法的には地域交流会だから
「えええ……お兄さん、何してるの?」
道路沿いの雪上で寝転がっていたら、知らない人に覗き込まれた。
「大丈夫です、すみません。生きてます」
「それはそうでしょうけど……どうしたの? お腹空いてるの?」
寝起きで変な受け答えをしてしまったけど、よく考えると、死んでたら死体なんか残らないんだった。未だにその辺の感覚が染み付かない。
ともあれ、寝たまま対応するのも失礼だし、ひとまず身体を起こすことにした。
「お兄さん、外国から来た冒険者? お金がなくて宿を追い出されたんでしょ?」
んん。何だこの人。
全身が見えるようになって気付いたけど、帽子からブーツまで全身朱染めの服だ。辺り一面雪景色の中では目がチカチカする……。
そんな怪しい人間の人が、にやにやと僕に笑いかけている。
「冒険者です。すみません、この土地の持ち主の人ですか?」
「違うわよ。私はこの町の定例イベントの主催者側の者で、貴方のような人材をスカウトしてるの」
「スカウト、って法的に大丈夫なんでしたっけ」
商国で仕事をするにはコネや商会じゃなく、職種ごとの試験に合格する必要があったはずだけど。
あ、ギルドに指名依頼でも出してくれるのかな?
「うん? ああ、大丈夫大丈夫。うちのは労働じゃなくて、法的には
ええ? 何それ
「何かの手伝いとかするんです?」
「まあそんなとこ。
それに、本番まで毎日温かい寝床にお風呂が使えるし、お酒にお菓子も出しちゃうわよ」
胡散臭すぎる……。
「もしかして、怪しいと思ってる?」
「いえ、そういうわけでは」
胡散臭いと思ってるので。
「まあ、それなら一度どんな所か見においでなさいよ。見るだけでも楽しいわよ」
「はあ」
「どうせ冒険者ギルドに行っても仕事なんてないでしょう?」
「まあ」
「ほら、暇なんでしょう?」
まったく具体性のない誘い文句をのらりくらりと躱してはいたけれど、実際問題、暇は暇だ。
見るだけなら大きな危険もないとは思うし、何かあったら逃げればいい。
そういう訳で、スカウトの人に断って冒険者ギルドに寄り、侍の人を誘って一緒に行くことにした。
「して、
「1人で行くのが怖くてですね」
他に話すような相手もいないし、侍の人も暇そうだったし。
「ふふっ、人数が増えるのは大歓迎よ!」
スカウトの人は機嫌良さそうに僕達を先導し、高級住宅地的な場所を進んでゆく。
「……《隻腕》殿。これは、先日言っていた、行方不明者に関わる怪しい女ではござらんか?」
「……そうだとは思うんですけど、合法だって言いますし。何かあったら逃げましょう」
裏道のような所に入り込み、大きな屋敷の裏口前でスカウトの人が立ち止まって、僕達は話をやめた。
表側からぐるりと回ってきたけれど、とにかく敷地が広い。
表は普通の大豪邸だったのに、裏側はいくつかの大きな建物がある、変わった造りになっていた。ドーム型の建物の左右に、長屋のような宿舎を併設した……何だろうこれ。
直感的には、劇場や図書館といった公共的な施設にある、利用者に対して開かれた感じの施設だ。
スカウトの人は戸惑う僕達に振り向き、にやりと笑う。
そうして、近所迷惑にならない程度の声量でこう告げた。
「ここはフラワーヒルの町、冬のアミューズメントの殿堂《雪椿の会》。
開会は夜からだけど、バックヤードを紹介するわ!」
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