054. 女神様の身許で、幸せに暮らしてゆくことでしょう

 結論から言うとロックビーストは、逃げ回りながら弓で退撃ひきうちしてたら、意外とあっさり倒せてしまった。

 矢? 矢は何か、構えたら湧いて出たよ。ファンタジー。


ロックビーストだから、対物特効と対獣特効が乗ったんじゃない?〉

〈1回叩き潰される直前で動きが止まったのは、転倒状態が入ってたぽいスね〉

〈避け損なった時は、衝撃耐性と回復薬がなければ即死でしたわ〉


 余裕だったみたいな言い方したのはすみません、はい、回復薬3本全部使いました。

 でも、僕のスキルの品評会するのやめて貰えますかね。


 竹の弓にも対獣特効が付いてるから、対獣特効が加算量+50%、対物特効が加算量+40%、それに防御貫通の貫通量+30%、もしかしたら耐性貫通の貫通量+30%も効いてるかもしれない。

 なお、ドロップ上昇+2%は仕事をしなかった。


 結構ギリギリで勝てた感じするから、敏捷性+6%も無いよりはマシだったのかな。

 ステータスメニューの数値だと1ポイント分も増えてないけど。

 そもそもこの能力値って単位何なの?


〈何って、ステータスの単位だよ? 巴力パリキに決まってんじゃん〉

〈逆に聞くけど、他に何があると思ったんだ?〉


 さあ……。



 ううん。戦闘で血が流れたせいか、今日はもう凄い疲れたな。

 死体が消えるのと同じように、僕がだらだら垂れ流した血の跡は消えてしまったし、亡霊の人達は全然気にしてくれないけど、流した僕だけは覚えているよ。


 今日はもう帰りましょうか。


〈おう、お疲れさん〉


 モッコイさんは僕の肩をポンと叩く……動作で、スカッとすり抜けた。


〈崩落した壁を上って帰るまで、あと一息だよ〉


 プレタさんは僕を励ますような口ぶりで、気持ちを凹ませてくれた。


 姫様は―――あれ、姫様?


〈……あら、すみません。もう帰りますのね〉


 どうかしましたか。何か探し物です?


〈ラヴィの声が聞こえないかと思って〉


 ラヴィ、というと……あ。

 メイドの人か……。


〈でも、これだけ騒いで出てこないのです。

 もう生きていることは無いでしょうし、きっと迷わず昇天したのですわね。

 あの子もガチャで亡くなったのですもの、女神様の身許で、幸せに暮らしてゆくことでしょう〉


 どうですかね。姫様の狂信者だったなら、未練とか凄そうですけど。


〈いや、ほら。姫様も死んでるじゃん〉


 ……あっ。言われてみればそうですね。

 じゃあもう本当に、この世に未練とか全く無さそうだな。


〈わたくしは未練だらけですわ。

 お兄様に会いたいし、ラビットフィールドの町をもう一度見ておきたいし、町の近くにラヴィのお墓も造りたい。

 死ぬ前だって、対等なお友達も欲しかったし、お祭りを自由に見て回りたかったし、学校にも通いたかった。

 隣の領の端っこなんかじゃない、ちゃんとした冒険もしたかった〉


 姫様は宙をくるくる回りながら、歌うように未練を語る。


〈ああ、でも、お友達は出来ましたわ。

 他の未練も、1つずつ叶えてゆけますかしら?〉


 そう言って笑った。


 出来る範囲では、そうするつもりです。

 先輩亡霊の2人の未練も、これからどうにかして回るつもりですし。


 あ、当のお2人は何か半笑いしてますけど。

 確かにいきなり終身刑になったのは自分でもどうかと思いますけど、これ僕のせいじゃないですよね?

 ずっと横で見てましたよね!! 経緯を!!


 っと、ああそう、まずは1つ、姫様の未練を解消しておきましょう。


〈あら、何ですの?〉


 姫様、ここに来た理由が、領主様の敵討ちだって言ってたじゃないですか。

 あの領主様を殺した犯人ということになっているのが、僕なんですよ。


〈まぁ! そうでしたの?

 何故、329番さんがお父様を? 犯行当時混乱していたと伺っていますが、何故混乱を?〉


 まず、これは信じていただくしかないのですが、前にも言ったように僕が領主様を殺したというのは冤罪です。あの人は勝手にガチャで爆死しました。


〈そうだったのですね。信じますわ〉


 おお……あっさり信じるなぁ。


〈ふふっ、わたくし、人を見る目には自信がありますのよ!〉

〈その自信は過信じゃないスかね〉

〈ずっと見てましたけど、犯罪奴隷の巣窟で簡単に他人を信じるのはどうかと思いますよ〉


 余計なことを言わないでください。




 それから。

 どうにか崩れた壁を上って元の坑道に戻り、僕は官吏の人達に、大結晶層の発見を報告した。


 曰く、僕の払うべき罰金と、大結晶層の発見ボーナスは、ちょうど釣り合うくらいの金額だったらしい。

 報告したその日の内に査定が出るわけないし、絶対金額とか適当だと思うんだけど―――ガチャで結構使っちゃったのは内緒だし、しっかり調べて、実は金額が足りなかったと言われても困る。

 藪を突いて蛇を出すのも嫌だし、僕は素直に契約書的な物にサインをして、この話はおしまいになった。


 競売にかけられる予定だった僕の所持品は、無事に全て回収できた。

 現金は20cしか残ってないし、ガチャアイテムを売り払って騒ぎになるのも面倒だ。


 犯罪奴隷の人達に情報が伝わったら、採掘所どころか、町全体が大騒ぎになる。

 明日からは、僕達の見つけた大結晶層への道を整備して、あの辺を集中して掘っていくことになるんだろう。たぶん。

 変に妬まれたり恨まれたり、最悪、また冤罪でぶち込まれたりもしかねない。


「こんな町、とっととおさらばしよう」


 山の日没は早いというけれど、何せ僕は、あのロックビーストに1対1で勝てる実力者だからね。

 多少の魔物が出たって、まぁ全然問題ないでしょ。

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