044. んんん……これは、混乱状態ですな

 ラビットフィールドの町からクリスタルマインの町にやってきた僕は、領主の爆死を見なかったことにして、宿屋にチェックインした。

 バスガス爆発後に女神に蘇生され、この世界に転移して二十日弱。その時は気付いてなかったけど、僕は疲弊しきっていたらしい。

 3泊分を前払いして、宿の部屋でほとんどずっと天井を見ていた。


 幸いなのか何なのか、僕には亡霊の2人が憑いているので、話し相手にも困らない。

 この世界の常識やら、元の世界の話やら、お互いの身の上話やらをしていたら、そのまま3度目の朝を迎えてしまった。

 3日分の無料ガチャ結果は、【対獣特効:下級】【魔法力上昇:下級】【窃盗:下級】。


 この「魔法力」とやら、たぶんステータスの並び的に、MPみたいな数値だとは思うんだけど、魔法……見たこと無いんだよなぁ。


〈魔法は勉強すれば誰でも使えるらしいぜ〉


 へー。お2人も使えるんです?


〈勉強してないから使えないよ〉


 なるほどなぁ。


 あ、今取った「窃盗」スキル、これ僕好きなやつだな。

 攻撃時に5%の確率で、相手の装備品、所持品、死んだ時にドロップするアイテムを取得できるんだって。

 この「装備品」や「所持品」というのはステータスメニューにも表示される、ガチャアイテムやドロップアイテムのことだろうな。急に戦闘中の相手が全裸になっても困る。

 ゲームだと盗賊系は最優先で育てるし、どれだけ戦闘がつらくなっても、パーティに1人は窃盗系スキル持ちを入れてたよ。


〈おい盗人少年、窃盗それ、絶対町で人に使うなよ?

 普通に窃盗罪で逮捕されるからね〉


 えええ。でも自動発動ですよ、これ。

 うっかりぶつかって攻撃判定になったら、勝手に盗んじゃうかも。

 いや、それ言うと僕、うっかりスキルで毒付与とかしちゃうかもしれないんだけど。


〈もしうっかりで盗んでしまったら、すぐに返して謝りなよ〉

〈ま、スキル持ってるだけで衛兵に捕まるなんてこたねーよ。安心しな〉


 そんな話をしている所に、町の衛兵が乗り込んできて、僕は「貴族殺し」と「聖職者殺し」の冤罪で連行されたわけだ。

 まぁこれは仕方ないよね。



 宿屋から衛兵詰所の取調室へ。

 一応、無実を訴えはしたけど、貴族か何か都合で冤罪を食らった僕の証言が、この場で何の役に立つはずもない。

 とはいえ、罪を認めるのも嫌だしなぁ。


 状況を聞かれたら話せる範囲で正直に話し、相手の話が間違っていれば淡々と否定し、恫喝されても殴られても、答えるべきことをその通りに答えた。


 数時間の取調べが終わったら、僕の身体はズタボロだ。

 結構無茶苦茶やられたけど、骨は折れない絶妙なバランスだった。慣れてるんだろうね。


 取調室から留置場に行く前に、医務室へ送られた僕を、お医者の人は治療もせずに、怪訝な顔でジロジロと眺め回す。


 そうして一言、こう言った。


「んんん……これは、混乱状態ですな」

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