第8話 隠していた気持ち

電車の座席に華恋と向かい合わせになって腰掛けると、華恋はさっそく駅のコンビニで買った唐揚げ弁当を食べはじめるた。

「私、志央の気持ち分かるよ」

「何が」

志央は自分のチキン南蛮弁当を開けながら返した。

「親のこととか。本当はこういうこと言うのは志央の両親には悪いと思うけど、デキ婚とかそういうの気持ち悪いって思う」

一瞬、志央の思考がとまった。

え?今なんて言った?気持ち悪いって言った?

ぼーっと華恋を見る志央に華恋は「ごめん、言いすぎた」と呟くように言ってお弁当に入っていたナポリタンを頬張った。

志央はそんな彼女に「いや、そうじゃなくて」と早口で言うと続けた。

「華恋もそう思うんだって思ってちょっと安心した」

「え?」

華恋の動きがぴたりととまる。

「親がデキ婚とか気持ち悪いって思ってたんだ。もう中学生だし素直におめでとうなんて言えない。むしろ、迷惑だし気持ち悪いって思った」

「思春期ならそれが普通だよ」

華恋がフォローするように言った。

いや、華恋だからそう言ってくれるのだろう。これが真面目系の女子なら「えっ」とか言ってひきそうだし体育会系の女子なら「最低」とはっきり言ってきそうだ。

華恋のことは、まだよく知らないけど彼女のキャラからして恐らくいわゆる女子の中心的グループの少し下くらいにいるタイプの女子なんじゃないかと思った。もっと分かりやすく例えると、男女共に仲が良くて誰とでも仲良くすることができるクラスに数人はいる良い子。中心グループからも目をつけられないけど地味系カテゴリーにも所属しないスクールカーストの丁度いい位置をキープしている女子だ。

口が悪いところや気が強いところから最初はクラスの中心的グループの女子かと思ってた。だが、華恋は中心的グループの子がよくするように友達に自分の価値観を一方的に押し付けてきたりすることはなかったし敏感にメッセージアプリやSNSをしている訳でもなかったのでそういうタイプではないのだろうと志央の独断と偏見で判断した。

男子でスクールカーストを気にするなんて変だとは自分でも思う。でも、家庭環境があまり良くないこともあり学校の居心地は無理をしてでも良い位置にいたいと思っていた。

それにきっと華恋は、あの位置にいるからこそそう言う話に乗ってくれるのだ。梅田達と同じで自分みたいな真面目キャラとも話が合えばタイプが違っても仲良くしてくれる。良くも悪くも思ったことははっきり口にする。きちんと話を聞いてくれる。

最初は、梅田達のことも華恋のことも便利アイテムとか性格的に苦手な奴としか思ってなかったけど今は違った。こういう愚痴を言える友達が自分は欲しかったのだと志央は思った。

「華恋は兄弟とかいるの?」

志央が聞くと、華恋は首を横に振った。

「私の両親も仲悪いくせにデキ婚したみたいだし兄弟とかはいなかったよ」

華恋の「いなかったよ」という言葉にひっかかった。普通、そこは「いないよ」だろう。

もしかしたら彼女の両親も離婚しているのかもしれない、と思って志央は華恋に言った。

「似た者同士だな」

「うーん、確かにあんたと私は似てるけど少し違うかな」

そう言って華恋は少し困った表情を浮かべてた。

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