第7話 向かうべき場所

駅のホームで電車を待つ間、志央はスマートフォンであの時、実の父親の免許証に印刷されてきた市町村を検索していた。

最後に実の父親と出会ったのは中学生になる前。

当時の志央は、自分の両親が同じ時期にデキ婚をしたことを知って気持ち悪いと正直に思った。流石デキ婚夫婦とも思った。

もうすぐ40代になる良い歳をした大人がデキ婚なんて恥ずかしい、と志央の母方の祖母が言っていた言葉を思い出す。

祖母とはあまり会えないけど、志央は彼女のことを慕っていた。お母さんと違って真面目で優しくて相談相手になってくれる人生の先輩でもある彼女が好きだった。

正直、彼女のところに家出をしても良いと思った。祖父も祖母と似た優しい性格の人だし華恋と2人で言っても怒ったりはしないだろう。でも、2人に迷惑をかけたくはなかったから今回は選ばなかった。

自分が今やるべきことは、気持ち悪い両親達への嫌がらせだ。

「志央、何見てるの?」

志央が頭をあげると、時刻表を確認しに行ってた華恋が戻ってきていた。

「実のお父さんの家の住所を調べてた」

「住所まで分かるの?聞いたとか?」

関心した様子で言う華恋に志央は少し間を置いて「いや」と切り出した。

「縁を切りたいって言われた時にたまたま見えたんだ。免許証に書いてあった住所が」

こんなことをしても何も変わらないし自分が彼にしていることは嫌がらせだと言うことは志央が1番よく分かっている。

でも、今の環境にはもう耐えられない。気持ち悪いことは気持ち悪い。こうなったのは全て彼のせいなのだ。

華恋にそこまで話してしまおうかと思ったけど、これ以上話すと引かれる気がしてやめた。

華恋も華恋でそれ以上は聞く気はなかったのか、「実のお父さんは今は何してるの?」とだけ聞いてきた。

「よく知らないけど、デキ婚した」

「じゃあ、新しい家庭を築いたんだ」

志央は黙って頷いた。そして、一呼吸置いて華恋に尋ねた。

「華恋はどう思う?」

「何が?」

「自分の親が離婚してそれぞれ別の人と再婚…それもデキ婚して生まれる子供は同級生ってこと」

さっき、父親のことを話してから気づいた。

あのデキ婚夫婦がそれぞれ築いた新しい家庭に生まれる子どもは同い年で同級生になるのだ。そう考えると、ますます気持ち悪いし複雑に思えてきた。

それは華恋も同じだったようで彼女は複雑な表情を浮かべていた。

「なんか複雑、だね」

志央は黙って頷いた。生まれる子ども達には、別に関係ないことだとは分かっている。でも、自分には関係あるのだ。だから、そういうことを繰り返す両親を心の底から気持ち悪いと思う。

「俺、兄弟とかいらねーや」

「何それ?焼きもち?」

さっきまで複雑な表情を浮かべていた華恋がニヤニヤしながら聞いてくる。

華恋は頭の切り替えがはやい子なのだろう。彼女の様子から志央と比べてあまり過去のことをずるずる引きずらないタイプに見えた。

「ちげーよ」

志央は華恋に言い返すと、スマホの通知欄を確認した。

子どもが家出したというのにお母さんからもその再婚相手からも新着メッセージは届いていなかった。

これはもう好き勝手やれというサインだ。誰もそんなこと一言も言っていないのに志央はそう解釈した。

お父さんとその再婚相手に八つ当たりをさせてもらう。いつまでもやられっぱなしは気持ち悪い。

志央はもう自分が何に対してイライラしているのかもよく分からなくなっていた。

やがて、ホームに電車が到着するアナウンスが流れた。

この電車の終点の駅まで行けば志央はこの気持ちを晴らすことができる。志央はリュックの肩紐をぎゅっと握ると華恋と共に電車に乗り込んだ。

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