大人な対応

 ある日、僕は少女とふたりで歩いていた。少女と言っても僕のひとつ下なので、僕が少女と呼ぶのは変な気もするけれど、幾分か僕のほうが大人に近いと言えた。

その少女は最近浮かない顔をしていて、僕が相談相手になって話を聞いてあげることにた。

「で、どうしたの? 何か嫌なことでもあった?」

「なんだか最近、すぐにストレスが溜まるんですよ……」

 少女は僕からすると後輩という立場なので、いつも敬語を使って話す。

「ストレスか。そんなものは誰にだって溜まるよ。大事なことはそれを出すことだ」

 少女は僕を見上げた。身長差は二十センチといったところだろうか。先輩だからといって上から目線で話したくないけれど、上から見下ろすくらいは許してほしい。

「でも、どうしたら出せるんですか?」

 僕も少女を見て、そして微笑んだ。小さな身体に少しでもストレスを溜めさせないように。

「僕にぶつけるといいよ。きっと僕も、君にストレスを溜めさせている原因の一つだと思うから」

「そんなことないです!」

 少女は慌てたように言った。

「いや、そんなことあるんだよ。今だって僕と話して、そのうちの何かがストレスになっているはずだよ。例えば君は僕に対して気を使っているね。そういうものが溜まってストレスになるんだよ。だから、僕にぶつけていい」

 少女はしばらく考え込んで、それから「わかりました」と言った。

「すべて出してしまってね」

「はい」

 少女は日々不満に感じていることや苦手な先生のことなど、いろいろなことを僕に話してきた。

 僕は少女の話を聴くのが好きだったので、それはなんのストレスにもならなかった。

 十分程話し続けて、少女は申し訳なさそうに言った。

「すっきりしました。でも、すみませんでした」

「うん、大丈夫。君の話を聴くのは嫌いじゃないんだ」

 少女は少し考えたあとで僕を見上げた。

「今度は先輩が出す番です」

「大丈夫だよ、僕は」

 これで少しは大人な対応ができたのではないだろうか。

 ……あ、ちょっとやばい。

「溜まっているものは出さないとだめです」

 歩く先に公園があった。

「うん。じゃあ僕も出すから、少し待ってて」

 僕は走って、お腹を抑えて、公園の溜まったものを出してもいい建物の中へ駆け込んだ。

 溜まったものは、全部出さなければ。

 十分程して溜まったものを出してもいい建物から出ると、彼女はブランコに乗っていた。

「お待たせ。おかげでスッキリしたよ」

「そうですか。ならよかったです」

 少女はそれだけ言ってブランコから降り、何事もなかったかのように歩き出した。

 そんな少女の大人な対応に、僕は恥ずかしい気持ちになった。

 もう、少女と呼ぶのはやめよう。

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