ずっと片思いしていたクールな幼馴染が、ある日突然『幼馴染ママぁ』になった甘い話

ハーーナ殿下@コミカライズ連載中

第1話片思いしていた幼馴染の変化

 高校一年生のオレには、同い年の美月みづきという幼馴染がいる。

 美月は一言で説明するなら『クールな文武両道の美少女』だ。


 美月の学校での成績は常にトップクラスで、スポーツも万能。

 容姿は誰もが認める美しさで、スタイルが良く……あと胸も大きい。


 性格はちょっとクールすぎるが、逆に学校の男子にはそれが人気だ。


『孤高の高根の花』


『クールビューティー』


 そんな二つ名で呼ばれ、普通の男子は誰も近づけないハイスペックな美少女だ。




 そんな完璧な幼馴染な美月に比べて、オレは普通の高校男子。

 運動や勉強は普通。

 見た目もパッとしない。


 そんなオレと美月は“月とスッポン”だけど、家が隣同士の幼馴染な関係。


 幼い時は、毎日のように一緒に遊んでいた。

 本当に仲良かった。


 だが中学に入ってから、オレたちの関係は微妙な距離になった。

 美月の方が少し変わったのだ。


「あっ……おはよう」


「そうなの……じゃあね」


 家の前で偶然会っても美月は、そんなクール対応をとるようになった。

 何か言いたそうな時もあった気がする。

 それに校内でも、オレのこと避けていたような感じだ。


(美月……でも、そこが可愛いだよな……)


 一方でオレは、そんな幼馴染に片思いしていた。

 いつから好きだったか? それは自分でも覚えていない。


『気が付くと、いつも視線で追っていた』……そんな感じで片思いをしたのだ。


(でも、この想いは一生、胸にしまっておこう……)


 無理に告白なんかして、幼馴染の関係を壊したくなかった。


 幼稚園や小学生の時に、毎日のように楽しく遊んでいた思い出を、オレの身勝手で無にしたくなかった。


 だから中学時代の三年間は、ずっと美月のことを遠くから見ていただけ。

 あと怠惰たいだな食生活をしていたから、中学時代で少し太ってしまった。


(ふう……同じ高校に進学したけど、また見つめるだけの三年間になりそうだな……)


 そんな予感がしながら、同じ高校入学。


 ――――そんなオレに人生の“大きな転機”が襲ってきた。


蒼大そうた……お母さんがいなくなっても、絶対に下を向いちゃ駄目……前を向いて生きていってね……」


「か、母さんぁあああん!」


 何年間も闘病生活をしていた、オレの母が死去。

 最後は幸せそうに、笑って天国にいった。


「うっ……うっ……」


 唯一の家族を失い、その日オレはずっと涙を流していた。


 だが翌朝になり、母の最期の言葉を思い出す。


「よし……母さんのためにも、前を向いてかないと!」


 少し無理をして、気持ちを切り替えることにした。


 何故ならそれが、母からの最期の言葉。

 想いを踏みにじらないためにも、オレも前を向いて生きていくことにしたのだ。


 それから生活は一変していく。


『蒼大くん、本当にこの部屋に住んでいくのか?』


「はい、伯父さん。気持ちは嬉しいですが、母と暮らしていたこのアパートで、もう少しだけ生活していきます」


 母の兄である伯父からの、同居の誘いを断る。

 オレはアパートでの一人暮らしを決断。


 幸いにも母の残してくれた保険金のお蔭で、卒業までの生活費は困らない。

 またオレ自身は家事が得意。

 生きていくことに問題は、ないはずだ。


「よし……今日からは、前を向いていくぞ!」


 アパートの自室で叫ぶ。

 自分の気持ちを切り替えるために。


 今までのオレは、どこか慢性的に生きてきた。

 だが今日からは本当に、自立していかなればいけないのだ。


「でも……まぁ……ちょっと寂しいし、本当はオレも甘えたいんだけどな……」


 思わず弱音を吐いてしまう。

 何しろ今は唯一の家族を失い、急に心に穴が開いている状態。


 たまに少しだけ、誰かに甘えたい気持ち……これも本音だった。


 ピンポーン♪


 そんな時、玄関のチャイムが鳴る。


 ん? 誰かな?

 新聞の勧誘かな?


「はーい」


 我が家は古めのアパートなので、インターホンはない。

 玄関を開けて対応する。


「新聞はいりませんけど……えっ、み、美月⁉」


 玄関前にいたのは制服の少女。


 隣の豪邸に住む幼馴染……制服姿の美月だった。


「立ち話だと周りに迷惑をかけるから、入ってもいい?」


「う、うん、どうぞ!」


 まさかの来訪者に、思わずドギマギする。


 何しろこの幼馴染が……片思いの相手が、オレの部屋を訪ねてきたのは、数年ぶりなのだ。


「えーと、椅子はないから、ごめん、この座布団に……」


「うん。昔と同じだから、大丈夫」


「今、お茶を……」


「それも大丈夫だから」


 美月は相変わらずクールな対応で、答えてくる。


 あれ……?

 でも今日は少し変な気がする


 懐かしそうな顔で、オレの部屋を見回しているぞ。


 その視線がコタツテーブルの上で止まる。

 コンビニ弁当の空を見つめていた。


「ちゃんと、ご飯食べてる?」


「あっ、うん。最近はバタバタしていたけど」


 母が亡くなってから、家事をする時間が取れなった。

 いつもは自炊の食事も、ずっとコンビニ弁当か、もしくはお茶だけ。


 部屋の中も掃除を怠り、少し散らかっていた。

 美月にだけは見られたくなかった、恥ずかしい部屋の様子だ。


「大丈夫? 辛くはない?」


「えっ……? うん、大丈夫だよ。でも……」


 クールな美月からの、まさかの心配されてしまった。

 言葉に詰まりながらも、思わず本音が込み上げてくる。


「でも……ちょっとだけ……誰かに甘えたい時があるかも……はっ?」


 言ってしまってから、急に恥ずかしくなる。


 こんなアホな妄想を、好きな美月に聞かれてしまった。


 急いで訂正しないと。


「やっぱり、そうだったんだね。ソウちゃん、こっちに来て」


「えっ?」


「はやく」


 いきなり幼い時の愛称で呼ばれ、心臓が止まるかと思った。


 美月に『ソウちゃん』って呼ばれたのは数年ぶりだ。


「あっ、うん」


 混乱しながら、美月の示した隣に移動する。


「それじゃ、ここに寝転がって。そう、私のひざの上に、ソウちゃんの頭を乗せて」


「え?」


「はやく」


「はい」


 美月の指示に従って、オレは寝転んで、彼女の膝の上に頭を乗せる。


 通称――――膝枕ひざまくらをしたのだ。


(うわっ……美月の生足が……柔らかい太ももが……)


 混乱から冷め、急に恥ずかしくなる。


 制服の短いスカートから、美月の真っ白な太ももが目に入る。


 オレのほおには、美月の吸いつくようなきめ細かい絹肌の感触が。


(な、なんだ……この体勢は⁉ なんで、美月は、こんなことを?)


 恥ずかしさで、また混乱してしまう。

 何が起きているのか、分からない。


 そしてオレを混乱させる言葉が……極めつけの言葉が、美月の口から発せられる。


「これからは私がソウちゃんの『ママ』になって、お世話してあげるから」


「えっ……ママぁ?」


 こうして……ずっと片思いしていたクールな幼馴染が、突然『幼馴染ママぁ』になった甘い生活がスタートするのであった。

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