第4話
「ゆーちゃん!! こんにちわー!!」
「おっ、ちぃちゃん。はい、こんにちわー」
「えへへぇ、あそびーきたよー!!」
「そうなの、きょうもげんきだねぇ」
「うん!! きょうはね、よーちゃんがね、めずらしくおかしかってくれるんだよ!! ひゃくえんまでだけど!!」
「……へぇー?」
そのパチンコにでも勝ちましたみたいな視線やめてくれません。
廸子さん。
お前ね、俺はこれでもちぃちゃんの前では、たよれるおいちゃんをやっているんですよ。お前ね、俺にも姪っ子の前では格好をつける権利と義務と責任とプライドがあるんですよ。
ですからやめてください、そんなクズを見るような目。
俺は今日は真面目モードです。
下ネタとかそういうのは一切封印。
頼まれても言ってやらないんだからね。
本当なんだからね。
信じていいんだからね。
そりゃさておき。
ちぃちゃんは俺の姉の娘だ。
早川千絵。
愛称ちぃちゃん。
その名の通りちんまりとして可愛い女の子だ。
あとあれ、なんだ、よくわかんないけど、こう、小さい女の子がするちょんまげみたいな髪型をしている。
アニメに出てくる幼女がしているような、ちょんまげをしている。
リアルでこんな娘おるー、という感じだが。
いるんだなこれが。
そして、それが俺の姪っ子なんだなぁ。
どやぁ。
ごちゃごちゃ言ったが、つまるところはそういうことだ。
そして、いろいろあって、今ちょっと俺がちぃちゃんの面倒を家族の中でみているのだ。
来年から小学生。
世間一般的には幼稚園児にあたるのだが、通わせようにもここは山奥。
子供の数がそもそもすくないのんなーって奴である。
幼稚園なんて成り立つわけがない。
なんで、身内で面倒を見るのはあたりまえ。
ちょうどいい感じにニート道に堕ちている、豊田陽介という名の昼間なにもしてないマンがいたのが運の尽きって奴ですよ。
とほほ。
まぁ、これで結構楽しいし、いい暇つぶしにも気晴らしにもなるし、なにより可愛いからいいんだけれどね。
という訳で。
俺は目で廸子に合図を送る。
(廸子さん、ちぃちゃんの前ではセクハラセーブモードで)
(ちぃちゃんの前じゃなくてもセーブモードでお願いしてくれ。まぁ、了解)
純真無垢な子供にセクハラやり取りなんて見せるもんじゃあない。
ここは大人の対応で行こう。
俺たちは長年の幼馴染力で即座に結託した。
ふぅ。
やれやれ、まったく。
世話の焼ける幼馴染だぜ。
「よーちゃん!! おかしえらんでていいー!?」
「いいよー。ちゃんとひゃくえんになるようにえらぶんだよ」
「わかったー」
「あー、なるほど、算数の勉強も兼てってことか」
「そういうこと。まぁ、幼稚園に通わせてあげられないからね。その代わりに、こういうこともしてあげなきゃ」
「過疎化も進んだよなぁ。まだ、私らの頃には、幼稚園もあったけど」
それでも通ってるのは十人ちょっとだったがな。
小学校・中学校も、山をちょっと下りたところ。
中学なんかは、通学に自転車で三十分ちょっとかかる場所だった。
やっぱり、田舎ってのはいかんぜよ。
おかげさまで、高校でちょっと市内まで出た時、いろいろ恥かいたもんだ。
嫌いではないんだけれどなぁ。
この町は町で。
けど、やっぱり、世間とずれるのはよくない。
そしてそんな町だから、当然――出ていく人も多い。
「小学校から一緒の奴で、残ってるのは俺とお前だけだもんな」
「まぁ、陽介は一度出てってるけどな」
地元に残って就職しようにもまず職がない。
県内で就職ってのも稀な方で、たいがい隣県や都会に出ていく。
逆に田舎の方が、知り合いと会わないってんだから皮肉な世の中である。
小学校時代の友達もめっきりと会っていない。
あいつら、盆も正月も帰って来ないんだものなァ――。
と、いけないいけない。
これから小学校に通うちぃちゃんを前に、何を暗いことを考えているのか。
まぁ、時代は変わる。
俺たちの時代がこれだけ変わったのだ。
未来はまた違うことになるのかもしれない。
ともすれば、田舎の方が人が増えるかも――。
いや、ないか。
「なんにしても、駄菓子屋の代わりにコンビニってのが世相よね」
「やっててよかっただろう?」
「あのババアの先見の明には恐れ入る限りで。けどなぁ、俺は普通に駄菓子屋とかの方が、子供は喜ぶと思うんだよな」
「駄菓子屋なかったじゃん、私らの頃も」
そうでしたね。
田舎に駄菓子屋があるなんて幻想。
まだコンビニやスーパーの方があるってもんですよ。
あと、温泉と道の駅。
だーもう、夢もへったくれもあったもんじゃないと嘆きそうになったところに。
「よーちゃん!! うまいぼー!! うまいぼーなにあじにする!!」
「えっ、ちぃちゃん奢ってくれるの?」
「きょうはとくべつにゆるす!! ゆーちゃんもいいよー!!」
姪っ子がうまい棒をおごってくれるというので我に返る。
俺と廸子は、まぁ客もいないしなと、ちぃちゃんがはしゃぐお菓子コーナーへと移動した。
うまい棒の棚をみて、どれにしようかなと悩んでいるちぃちゃん。
目がきらきらしている。
ほんと、無邪気なもんだなぁ。
「子供は好きよな、うまい棒」
「すっかすっかで中は空洞なのにな。なんでこんなに美味いのか」
「謎パウダーのおかげじゃね?」
「そりゃ違うお菓子だろーがよ。けどまぁ、この歳でもときどき食べちゃうよな」
俺の股間の棒も一緒にどうだい、とか、言いそうになるのをこらえる。
今日はちぃちゃんが一緒なのである。
下ネタは言わないぞ。
絶対に言わないぞ。
あ。
ちぃちゃん、いまちょっと肉――カルパスの方に浮気したな。
ダメだぞちぃちゃん、カルパスは大人の食べ物だぞ。
まだちぃちゃんには早いぞ。
いや、お子様カルパスだけどさぁ。
うん、お子様肉――カルパスだけどさ。
誰がお子様か。
うぅむ。
セクハラできぬ、このもどかしさよ。
そうして、俺が悶々しているうちに、勝手知ったるなんとやら。
ちぃちゃんと一緒にうまい棒セレクトに廸子はのめりこんでいた。
「ゆーちゃんはなにあじがすきー?」
「いちばんはサラダあじかな」
「あー、さらだなー、きもちはわかるー」
「わかかるんだ」
「けど、ちぃとしては、こーんぽーたじゅあじがさいきょうなのです。なぜなら、こーんぽーたじゅのあじがするからです」
「ちぃちゃんはコーンポタージュあじがすきなの。うん、わたしもわかるよ」
えへへぇと笑うちぃちゃんと廸子。
それに合わせてほほ笑む廸子。
なんかこう、あれだな。
こうしていると、普通に親子ってかんじだよなぁ。
廸子、いい歳だし。
実際、ちぃちゃんくらいの子供がいてもおかしくはないんだよなぁ。
俺がもっとしっかりしてたら。
あるいは、いい人がいたら。
きっと、そういう人生もあったんだろうな。
んー。
「廸子、ちょっと写真撮っていい?」
「なんだよ急に気持ち悪いこといいだすなぁ」
「気持ち悪いとか言うなよお前。いや、なんかちょっと絵になる感じだったからさ」
廸子、じっと俺の方を見る。
いやらしいのじゃないよな、という感じの目だ。
それに対して、いやらしいのじゃありませんと、マジの目で返す。
ふだん冗談で下ネタばっかり言っているツケが、こういう形で回って来るとは、なんともはやではある。だが、そこは俺と廸子の仲だ。
しょうがないなと、幼馴染は俺の視線を信じてくれた。
俺はスマホの画面に廸子とちぃちゃんを納める。
「はい、二人とも笑って。チーズ」
「にーっ!!」
「あはは、ちぃちゃん、なにそれ。とるとき、いつもそれしてるの?」
「そうだよー。かわいくなるぽーずなのです」
「かわいくなるぽーずかぁ」
「それ、俺も初耳だわ」
ババアもかわいらしいことちぃちゃんに教えるじゃねえか。まぁ、当の本人は娘と会えないくらいに働きづめじゃ世話ねえがな。
なんにしても、いい写真が撮れた。
後で、廸子とババアとお袋に送ってやると――。
ふと、その時、ちぃちゃんが俺の手からスマホを奪った。
今どきの子は何でも知っているんだな。
俺と――廸子の方に向かってレンズをしっかり向けている。
この流れは――。
「はい、じゃぁー、ゆーちゃんもよーちゃんもおしゃしんとりましょーねー」
「えぇー」
「いいよちぃちゃん。こいつとしゃしんとっても、べつにうれしくもなんともないから」
「言葉は選べよ廸子。事実でも、言い方によっては傷つくんだぞ」
お前がそれを言うかの視線。
はい、そうですね。
さんざんセクハラしといてそれはないですよね。
猛省しております。
けどなぁ、廸子の写真なんてとってもなぁ。
別になァ、使う予定なんて俺はないしなぁ。
いや、使うて、変な意味じゃないけれどさ。
てれてれ。
「もー、なんではずかしがってるのぉ。よーちゃん、ゆーちゃんがすきだからまいにちこんびにいってるんでしょ」
「ほぁっ!! ちがうよ、ちぃちゃん、それはちがう!!」
「ゆーちゃんも、いやよいやよもすきのうちだからあいてしてるんでしょぉ。できんにすればいいのに」
「まって、ちぃちゃん、それ、だれのいれぢえ!? おかあさん!? もしかしてもなにも、おかあさんのいれぢえかな!?」
いいから笑ってはいこーんぽーたじゅ。
俺と廸子は、急いで作ったダブルピースとひきつった笑顔を、ブレブレのボケボケで撮影されて、良い恥をかかされることになったのだった。
おのれババア。
ちぃちゃんにいらんこと教えやがって。
いずれ絞めてやる。
まぁ、姉に逆らえる弟なんて、世の中にいないんですけどね。
そしてまぁ――。
「……よく考えると、こういうの久しぶりだな」
「……だな」
まぁ、その。
使うか使わないかは別として、写真は嬉しかったりするんですがね。
★☆★ モチベーションが上がりますので、もしよろしければ評価・フォロー・応援よろしくお願いいたします。m(__)m ★☆★
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