籠の外6

『もう、早く行くぞ。お母さんもうとっくの先に行っちゃったんだぞ』


『うん・・・』


『兄ちゃんお金持って無いし、買えないだろ?』


『うん・・・』


『じゃあ仕方ない。ほら、行くぞ』


『いやぁーだ!アイス食べるのー!!』


『だったらここの子になるんだな?お母さんもう車で帰ったかもしれないぞ!』


『うん・・・』


アイスが売られた自動販売機の隣で下を向いて地団駄を踏んでいる小さな小さな女の子・・・


両耳の上で結ばれた二つの赤いリボン。フリルが沢山あしらわれた赤いワンピースに着られながら、左足は少し汚れたフリルの白ソックス、右足は不慣れに揺れつつかろうじて足にぶら下がる赤い靴を地面へ打ち付ける。


止むことの無い、やかましい声や地面を踏みつける音にはもううんざりで、あの人のように置いていけるのならどんなに楽かと思った。


試しに少し離れてみようか・・・少し置いて少し・・・


ゲームセンターで遊びたいのに時間が無くなっちゃう。


少し・・・少しなら追いかけてくるかもしれない。少し、少しだけ少し・・・捨てるだけ。


『君たち、どうしたの?何かあった?お母さんやお父さんは?』


大人の人!?警察みたいな格好をしてる、どうしよう、何されるんだろう、 が連れて行かれちゃう!ダメだ!妹は僕が守らないと!!僕の妹を連れて行かないで!!


『何でもないです。大丈夫です。ほらもう行こ』


隣にいる意地っ張りでわがままな女の子は、下を向いたまま鼻を鳴らして肩を震わせていた。

その姿はさっきまで見えていた悪魔のような姿では無く、とても小さくて弱々しく震える僕の大切な妹だった。

思わずその小さな手を握って思い切り引っ張った。ぐずる声も引っ張り返される微力も大人の男の人も全部無視して引っ張った。力いっぱい引っ張って歩き続けた。


『ん〜!!・・・うん』


歩いて歩いて歩いた。嫌なものを全て置き去って大切なものだけを掴んで歩いた。

ふと、握った手のひらに小さな圧を感じてどうしようも無く胸がいっぱいになった。溢れる涙をもう一方の手で拭って、見慣れた背中を捉えた。

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