第24話
「お時間を頂いております」
「どうもぽよ」
居心地が悪い。
冷静なスノウさんですら普段通りを演じようとしているのが私で分かるほど。シャインさんに至ってはキョロキョロと不安を隠そうともしていない。
だが、それは無理もないだろう。敵のアジトに踏み込んでいるのだから、みたいな真面目な理由ではなく通されたのが会社の待合室なのだ。
革製の高価そうなソファーに綺麗なスーツ姿のお姉さんがお茶を届けてくれるなんて普通の女子高生が経験していることじゃない。私は男子高校だけどな。
「ね、ねえねえチーカマ」
「どうしたぽよ、このお菓子はきっとシャインも気に入るぽよよ?」
「そ、れはあとで食べるけど」
食べるんだ。
可愛い。
「アタシ達ってさ、敵のアジトにやってきたんだよね……」
「そうだぽよよ? 大丈夫ぽよか?」
お前の方が大丈夫か、だ。これは心配で言っているわけではない。
「……ど、どうみても取引先にやってきた営業みたいなんだけどぉ!」
「あれ。そんな経験あるぽよか」
「な、ないけど」
「漫画とかアニメでそれっぽいのは見ているからね。じゃなくて、ワタシも聞きたいわよ。どうなっているのよ、この状況」
「話すと長いぽよが……」
断言してやる。
絶対に長くねえぞ。賭けても良い。
「株式会社相手に何も言わずにドンパチするのは法律的にちょっと……」
ほらみろくそったれ。
混乱している二人を余所に、ウサギ野郎は堂々とお茶菓子をパクついていやがる。それにしてもこいつの精神はどうなっているんだ。
一応は敵のアジトに通されていて、なおかつ味方からは不審な目で見られていようとも気にしない精神は一種の異常性を通り越しているぞ。
「いきなり扉の向こう側から攻撃される。なんてことはないわよね」
「ちょ、怖いこと言わないでよぉ!」
「わぷっ」
確かに普通なら考えても仕方の無いことをスノウさんが呟けば、シャインさんが一番扉側にいた私をかばうように抱きしめてくる。……うむ。
じゃなくて!!
「シャ、シャインさん……っ! わ、私のほうが戦闘に適しているので普通は逆で」
「駄目だよぉ! アタシはお姉さんだからね!」
「はは、安心するぽよよ。そんな卑怯なことはしてこないはずぽよから」
「どうかしら」
否定する前に出た笑い声は、あれは心配性だなぁ! という笑いではなく、おいお前抱きしめてもらって良かったな、という、はは、だな。最近少しずつ分かるようになってきたぞいつか殺す。
「申し訳ありません! お待たせ致しました!」
私の中の殺意が天井知らずに上がり続けていると、扉を開けて慌てて飛び込んできたのは、
「株式会社トッテモワルインデス営業部主任のスーパー怪人カイジンツクールと申します!」
腹が立つほどイケメンな高身長のお兄さんであった。
……。きっと、こいつが怪人を創っているんだろうなぁ、名前的に。
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