俺が魔法少女とか

@chauchau

第1話


「モテたい」


「分かる」


「痩せたら?」


「無理」


 生産性皆無の会話ほど無駄なものはなく。だけども、無駄なものほど大切なものもないのではないだろうか。それでもこの会話は無駄であり大切でもないけれど。

 高校生になれば彼女ぐらい出来ると思っていた……、なんて言うつもりはない。出来るやつは出来るし、出来ない奴は高校生になろうが出来はしないのだから。

 ちなみに俺は後者だ。そして一緒に居る二人も後者だ。


 クラスメートは俺たちを、メガネ、デブ、チビと呼ぶ。今時こんなドストレートなあだ名が付けられるのは逆にすごくないか? 虐めにもほどがあるぞ。あ、俺はメガネだ。


「大食いってわけでもねえのにどうしてそれだけ太れるんだよ」


「それは僕が聞きたい」


 入学一ヶ月もすればクラスの中でだいたいの順位が決定する。上位が居れば下位が居るわけで、俺たちは当然の如くで下位に収まっている。

 あだ名はともかく直接的に虐められるわけでもなく、むしろあだ名にしても愛情を込めて呼んでもらっていると……思わないとやっていられないというのはある。

 ともかく、虐められていることはない。クラスの話し合いで意見を出すことはないが別に無視されるわけでもないのでひとまずは落ち着いた暮らしを手にしているといえるのではなかろうか。

 デブにしてもチビにしても、高校で知り合ったとは思えないほどに一緒に居るのが心地良い馬鹿な連中だ。別に本当に馬鹿ではないそうだが、三人で居て出てくる会話がさきほどのようなものばかりなので基本は馬鹿なのだろう。俺も含めてな。


「やっぱり巨乳好きだから自分もそうなりたいとか?」


「プリン好きな奴がプリンになりたいと一緒だぞ、言っていること」


「バケツプリンってさ」


「実際は普通サイズのほうが食べやすいな」


「あー、やっぱり?」


 不思議も奇跡もそう簡単には起こらないと小学生の頃には理解してしまっていた。ヒーローにだってなれはしない。なれるのは才能があって、なにより努力をしっかり行える奴らだけだ。


「メガネのやつ、また変な妄想しているっぽいな」


「放っておいてやれよ、妄想は彼の人生なんだから」


 結局、頑張ることも中途半端な俺が出来ることは精々受験勉強くらいなもので。あとは時間が許す限り漫画を読んだりして得た知識で妄想に耽るしかないわけだ。

 もっとも急に異世界なんかに飛ばされたところでモノの構造とか知らないから困るんだけどな。


 つまりだ。

 やっぱり普通なんだよ。

 普通が一番で、普通が普通で。おかしなことなんてそうそう起こるわけがないと理解してそのなかで自分が出来ることを探していくのが良いんだよ。それが幸せでさ。そうして大人になってお金を稼げるようになって。

 そしたらネットのマッチングサイトとかで彼女なり嫁さんなりを探すさ。もしかしたら大学でワンチャンがあるかもしれないし。


「あ、ごめん。僕ちょっと用事が出来た」


「オレも母ちゃんが買い物行って来いって」


 携帯が鳴れば二人は消える。

 俺たちの関係性はこのくらいがちょうど良い。ここでチビの買い物に付き合ってあげるなんてことをしない程度の関係性がちょうど良いんだ。


 走って行く二人に軽く手をあげる。俺も家にでも帰ってゲームして、そんでもって宿題して飯を食って風呂入って……、賢者タイムを導入させてから寝るんだ。

 それが良い。それが普通であって、これ以上を望むなんて、


「ずっと呼んでいるのにどうして応えないんだぽよッ!!」


 何も居なかった空間に突如として、日本語を話す変なが出てくるなんてあり得ないんだよ……。

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