最強! 古代忍者スーツ!

 オレは優月を見た。これを伝えるべきかどうか。


『伝えるな。さっさと忘れろって言え』

「だったら、なおさら直接言えばいいだろ!」

『直接言ったら、あいつは俺を探す。血眼になって』


 だろうな。優月の言動を考えたら、そうなるだろう。


『俺は、あいつの枷にはなりたくない。俺はもう死んだんだ。あいつは、今を生きるべきだ。過去にとらわれてちゃいけない』


「簡単に家族を捨てられるような奴じゃないぜ、優月は」


 おやっさんは、ハアとため息をつく。

『じゃあ忍者、お前があいつの家族になってやれ』


「はあ!?」

 思わず声に出してしまう。


「何言ってやがんだ、このオッサンは!?」


『お前、カレシだろ? ずっと見てたぞ。いい感じじゃねえか。俺の娘だ。気は効かないかもしれんが、根は優しい娘だ。ずっと側にいたならわかるだろ?』


 ああ。痛いくらいにな。

 そのせいで、何度あいつを傷つけただろう。


『娘を、ユーニスを頼む』

「……わかった。ただし、いつか顔を出せよな」

『元に戻る方法を探せ、か。考えとくよ。あ、そうだ』


 まだ何かあるのかよ?


「ねえ、さっきからその黒い豆粒と話してるようだけど、誰と話してるの?」


 いきなり優月に話しかけられ、慌てふためく。


「あ、いや、これは……」




 俺が答えに困っていると、巨大な何かが空から降ってきた。




 地面に、爆発したかのような衝撃音が轟く。



『にゃあああっ、ぐはあ!』


 堕ちた大帝カルキノスが、地面に落下した。肩を上下に揺らし、息も絶え絶えである。そもそも呼吸器官があるのか不思議だが。



『なんてことなの? アタシ様の命令を無視するなんて!』


 まあ、優月のおやっさんが乗り移ってるなら、妥当か。


『頭にきたわ! 全員ぶっ殺してあげるわ!』


 カルキノスが輝きだした。

 そこら中の機械部品を片っ端から吸収していく。

 車、建物、ありとあらゆる物資を磁石のように取り込む。


 完成したのは、巨大なカルキノスだ。ガラクタまみれのボディとはいえ、異常な大きさになっている。ハサミなんか、電柱くらいデカい。


「待てよ、あんなの倒せるのか?」


『倒せるわけないでしょ?』

 巨大カルキノスがハサミを構えた。大地を揺らすほどの震動が駆け巡る。


 嫌な予感が全身を駆け巡り、オレは瞬時に回避。


 オレがいた場所にあった巨大な岩の塊が、砂粒へと変わった。


 これは震動波か。それにしても威力がバカげている。


『ギャハハッ! 圧倒できじゃないの! 負ける気がしないわん!』


「あまり調子に乗るな。吾輩の負担も考えろ」

 緋刀が、カルキノスの胴体部分に埋もれていた。


『うるっさいのよ年増! 黙って乗っ取られてなさいよ!』


 重傷を負っているとはいえ、カルキノスはずいぶん気が大きくなっているようだ。冷静さを欠いている。




『おい忍者、力を貸そう』




「ああ? 今なんて言った?」




『力を貸してやるって言ったんだ。いいか、俺を握り込むんだ』



 オレは小豆ほどに小さい欠片を、力の限り握りしめた。「これでいいのか?」



『十分だ。さて、最後に一発お見舞いしようぜ』



「よけて、虎徹!」

 優月が叫ぶ。揺れで足を取られて動けないらしい。スーツも大状態では、まともに戦えないだろう。



『死になさい!』

 震動波が、容赦なくオレの身体を揺さぶった。


 砂煙を上げ、オレは衝撃に包まれる。身体がビリビリと、振動を始めた。全身に電流が走るような痛みが駆け抜ける。


「ちっくしょおおおおおおおっ!」



「虎徹!?」



 優月の悲鳴も、衝撃波の音で聞こえなくなった。いよいよ、身体がバラバラになるんだろう。


 だが、黒煙が晴れると、オレは生きていた。


 死を覚悟した直前、俺の身体を何かが覆ってくれたからである。


「なんだ、この装甲は? オレの装束か?」


 黒い鎧が全身に装着され、オレを守ってくれていたのだ。これが、オレの新しい忍装束か。『お前の装束を再構成したんだ。表面は忍者装束より薄く、装甲は数倍になっている』


 岩山すら震動波で粉々になったのに、オレの身体がピンピンしているのが証拠だ。


『磁場フィールドですって!? ありえないわん!』


 自分だけが使える能力をオレが操ったことで、カルキノスが驚愕している。


「何をやったんだ、あんた?」


『お前の手に付着した忍者装束の塵から、遺伝子情報を読み取ったのさ。型は古くさいが、欠片の力で強化をしてある』


「えらい古臭いデザインの鎧だな、それにしても」


 最強の鋼石と最強のデザイン技術で作られているはずだ。

 その割には、一昔前の特撮にでも出てきそうな、無骨で旧時代的なセンスだ。

 特撮に出るような、近未来感のある忍者ファッションと言えばいいか。


「そんなこと、できるのか?」


『ヴォイニッチ手稿は、遺伝子情報を書き換えるオーパーツだ。あいつが自立したのも、カルキノスがパワーアップしたのも欠片の力だ』


 身体が熱い。力が身体中を駆け巡っているかのようだ。

 世界樹の力が、オレの全身を覆っているからか。


『そりゃそうだ。お前のオヤジが着ていた鎧がモデルだからな』


「親父に会ったことがあるのか?」


『一度だけ戦ったことがある。勝負は付かなかったが、大した野郎だった。もう二度と会いたくないぜ』


 じゃあ、オレは今、親父と一緒に戦っているのか。何の因果だろう。

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