目撃! 夕暮れのセップン!!

 騒ぎが大きくなりすぎて、ショップが軒並み閉店してしまった。


 そのせいで、太一達は何も買えなかったという。


「度々ごめんなさい」


 あれはしょうがない。


 不良共が因縁をつけてくるとは、誰も予想なんかしてないのだ。


「悔やんでも仕方ねえだろ」

「あんたに言われたくないわ! 全部アンタのせいじゃない!」


 とはいえ、またデートが失敗してしまった。

 

 これでは優月の調査どころじゃねえな。


「なあ、よかったら、また日を改めてデートしようぜ。夏休みなんだし」


「そ、そうね。あたしも、デートをやり直したいわ」

 意外にも、優月がオレの意見に賛同した。


「わかった。みんな、次はどこへ行きたいのかな?」

 太一が提案する。


 特に意見が出ないまま、沈黙がオレ達を包む。


 このままノープランで終わるかも知れんな。オレはそう思っていた。


 唐突に、優月が立ち上がる。




「あ、あたし、ピクニックに行きたい!」

 言い終わったら、優月はまたちょこんとベンチに腰掛けた。

 まるで命を賭けた発言を終えたかのように放心している。




「優月、どういう風の吹き回しだ?」

 太一達に聞かれないよう、優月に耳打ちした。




「隕石の落下地点があるの。ちょっと調べてみたいのよ」




 確かにあそこは最近隕石が落下して、ちょっとした観光スポットになっていたはずだ。

 

 立ち入り禁止になっている地点も多いが。


「いいね。行こう!」

「そうですね。楽しそうです。お弁当思っていきますね」

「やったーっ! 楽しみだなぁ!」


 思わぬリアクションが飛んできた。


 てっきり、二人はインドア派だと思っていただけに、予想に反して好感触だったのは意外である。


「じゃあ、日時は僕達がセッティングするから。じゃあねー」と言って、太一と鏡華は消えていった。


 オレは、優月と二人で帰り道を歩く。


 特に意識していないのに、言葉が出てこない。


 優月も「まずった」という感じが顔に出ている。



「おい、どうすんだよ?」と、オレは優月の腕をつつく。

「何も考えてなかったろ?」



 落下ポイントには、星雲大帝の関係者が潜んでいるかもしれない。


 現在こそ何の驚異も検出されていないとはいえ、単に身を潜めているだけという見方もある。


 太一達が危険に巻き込まれなければいいけど。


 驚異を考慮せずに、優月は隕石ポイントの調査へ向かおうと口走ってしまったのだ。欠片の調査を優先して。


 オレは、そこを指摘している。


「大丈夫。いざとなったら、あたしが二人を守るわ。それくらいの責任取らせてよ」


 オレはゲンナリとして、溜息をつく。

「お前さぁ、どうしてそんなんなワケ?」


「一般人を巻き込むのは、悪いとは思ってるわよ」



「違ぇよ。なんでいーっつも、一人で背負い込むのか、って聞いてるんだよっ!」



 オレが言うと、優月が呆然とした表情でオレを見上げた。



「んだよ? ポカーンとして」


「そんなの、今まで聞かれたことない。どうしてそんなこと聞くの?」


「だってよぉ、お前、なんでも一人で解決しようとするじゃん。そういうの、疲れねぇ?」


「別に疲れてなんかないわよ!」


 オレ達の問答に業を煮やしたのか、パルがニョキッと顔を出す。

『虎徹様は、ユーニス様を心配して下さってるのです』


「はあっ!? 何言って――」


 優月が大声を上げそうになった所で、オレは優月の口を手で塞ぐ。


「ほが! なにひゅ……」


「黙れって。アレ見ろ」と、オレは優月に顔を近づけて、小声で伝える。


 オレと優月が、視線を向ける。


 誰もいない木陰、太一が鏡華を大きな木にもたれさせ、唇を重ねていた。二人とも、オレ達に気づいていない。



「ほごぉ……鏡華」

 夕焼けに染まった優月の頬が、より赤みを増す。



「帰ろう。オレ達は何も見なかった。いいな?」


 優月は黙ってコクコクと頷いた。


 忍び足で、この場を立ち去る。



◇ * ◇ * ◇ * ◇


 自宅に戻っても、太一と鏡華の接吻シーンが頭から離れない。まるで映画みたいだった。



 雑念を振り払うかのように、宿題を始めた。



「お風呂上がったよ。お兄ちゃんもどうぞー」


 部屋のドアが開く。


 イトコの亜也子が部屋に入ってきた。身体から、わずかに湯気が立っている。


「へえ、お兄ちゃんがお勉強なんて珍しいね」

 亜也子は、タオルで濡れた髪を拭いていた。



「お前なあ、ノックぐらいしろよ」

「忍者でしょ? イトコが近づいて来たくらい、足跡でわかるはずじゃん」


 お前だって忍者だろうが。


「ほら、お風呂空いたよー。ゲーム借りるね」と、亜也子はオレの机に手を伸ばす。角に置いてある携帯端末を手に取った。


「また乙女ゲーか」


「ほっといてよ。それと乙女ゲーバカにすんな。ガールの夢が目一杯詰まってるんだから。特に今やってるゲームはロミオとジュリエットがベースで」


 亜也子の発言で、映画館でのトラウマが蘇ってきたじゃねーか。


 そういえばと、オレはイトコに質問をする。


「おい、亜也子。ロミオとジュリエットって、最後はどうなるんだ?」



「二人とも死んじゃうの」


 オレは伏し目がちになる。


「それはまた、悲しいな」


「天国で一緒になろうって。女の人は胸を突き刺されて、男の方は、毒入りワインを飲むんだっけ」



 映画を最後まで見ていないから、結末がわからないままだった。あの映画はどんな結末を迎えたんだろう。


 オレは極力、興味なさげに「そうか」と返答した。胸の内を悟られないように。


 風呂の準備を始め、亜也子の前を通り過ぎようとする。




 オレの本当の両親も、こんな心境だったんだろうか。




「ん? お兄ちゃん、思い出しちゃった?」

「何でもねえよ」


「お兄ちゃんさ」と、亜也子がオレを呼ぶ。


「なんだよ、亜也子?」








「おじさんが出て行っちゃったのは、お兄ちゃんのせいじゃないからね」








「わかってるよ」とオレが言うと、亜也子は部屋を出ていった。

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