ベナレス 〜きっとまた君に会えるわ〜

坂本治

~きっとまた、君に会えるわ~

             



 インドの南北中間部にワーラーナシーという地域がある。大きな川に沿って栄えた街と賑わう人々、重なるように立ち構える砂と太陽色の家々たち。

 ここはヒンドゥー教やインドの原始仏教にまつわる神話が伝わり、聖地であるこの地にて火葬されれば必ず正しく昇天できると信じられてきた。人々はガンジス川で沐浴をし、愛する死者を送り出す。日本ではワーラーナシーでなくベナレスという呼び名が一般的だ。大聖地は毎日各地方から訪れる信者らが集まり活気を見せる中、集う生者に大いなる川にのせられていく命の巡りを考えさせる。

 老いも若きも、富める者も貧しいものも、一生の内で得難い自身の幸せを問い続けて……。




 うすいブルーの青空が白くぼやけた日差しを投げかける、からりと晴れた日であった。ベナレスの市場には生成り生地のテントたちが狭い通りにいくつも連なって敷き詰められている。野菜や果物、売り買いする人々を暑さから防ぐように涼しい日陰を提供していた。

 所狭しと行商人が品物を並べ、物売りと買い物客、通行人とで人が押し合い圧し合いの状況だ。通り沿いに住む住人たちは毎朝のごった返しに慣れているのと、半ば諦めているといった様子で人込みをかきわけ進んでいく。交通も不便な大陸内部の神聖なこの町は、今日も各地から人々を集め活気ある市場を築いているのであった。


 テントの屋台の片隅を小柄な子どもたちが駆け抜けていく。北インドの民族の子、背が高かったり鼻が丸かったりする多くの系統のインド人が混ざり住んでいる。真っ黄色の壁の家につづき造られた階段に腰掛けた青年アニクは、朝の市の人の群れを眺めていた。ぼんやりした表情の彼の彫りの深い眼鼻の辺りは、朝日を受けて黒い影を作っていた。

 すると視線の先で青い服の子どもがひゅうっと素早い動きをした。

 ハッとしてよく見ると、テントの裏方から店主の目を盗み物を持ち去る少年の姿があった。薄い体で狭い隙間をすり抜けて、そのまま立ち去ろうとしたときに

「コラア! 盗人が!」店主に見つかり大声を上げられた。少年は身を翻して逃げ出して、果敢にも人込みの中に突っ込んだ。アニクはその様子を見た後に立ち上がり駆けだした。しかし彼らを追って人込みの中へではなく裏の小道へ消えていった。


 盗みをされた大柄な店主は人の波をずんずんと押し分けて泥棒少年を追いかけた。ひしめく人々が店主の力に負けて彼の通り道が開かれていくのを、少年は振り向きざまに見て意外そうに丸い眼を見開いた。この少年の逃げ切れると踏んでいた様子からは常習的な段取りがうかがえるが、今日の店主には一筋縄ではいかないようだ。

 市場を駆け抜け川に面した大通りを追いかけっこする二人を、町の者はちらりと一瞥し見送った。


「止まりやがれ!」

「待つもんか!」

 風を切り川辺の道を行く。


 はたから見たら愉快な追走劇も、距離が延びるほど過酷なものになってくる。「しつこいなあ……!」両者一向に譲らないも、エンジンの小さな少年はだんだんと焦りと疲労の色をにじませた。

 朱色の橋板をガタガタ踏み鳴らして川の水を引く裏道へ進んでいくと先を行く少年は目を丸くした。慌てて足を止めその場を見渡す。

 道の先がないのだ。

 どこも古びた造りゆえ水路をつなぐ渡しが落ちてしまっていたことに、ここらを生活の場としていながら気づかなかったのだ。背後に男が追いついてくる気配がして振り返る。慎重に、走り続けてきた息を肩で整えながらゆっくりと距離を詰めてくる。

「小僧、……ぜえ。それはおまえらじゃ到底買えない、不似合いなモンだぞ……」万事急須な場面に際し、盗品を返して逃げる策も少年の頭によぎったりしたが、

「ぶちのめして商人連中らの所へ引きづりだしてやらあ!」

 その剣幕と迫りくる大人から逃れる術もなく、無望に身をかわした時に「来いっ!」とどこからか声がした。

 

 タッと足音がして、少年が視線を宙に向ける。


 麻縄を肩から胴に巻き付けて、壁伝いを走ってきたアニクがその足場を蹴った。追走してきた二人が立つすぐ横の建物の、地上およそ何メートルからか躊躇なく飛び降りたのだ。


 勝算を見出した少年は陽気な笑みを店主に向けると、空気を切りさき弧を描いてやって来たアニクへ瞬時に飛びついた。アニクより二回りほど体が小さい少年は、伸ばされた腕から胴へと器用に巻き付くと、ともに振り子の原理で上空へ持ち上げられていった。二人は猿の兄弟を彷彿させる身のこなしで盗品もろとも姿を消した。

「な……、戻ってきやがれーー!」店主の声がかなしく路地に響いた。




 片腕に少年を抱えたまま傾いた家の屋上に降り立つと、二人は慣れた様子でほどけて止まることなく駆けだした。裸足が砂埃を巻き上げ、軽い体が張りぼての建物を滑りおりていった。

 賑やかな露店の通りに戻って来るとすぐに物陰に転がり込む。人が行き交う声色を背にようやく地面へ腰を下ろす。アニクはぜえぜえ鳴る肺を落ち着けた。

「サイ、無茶な盗みはよせ」やっと口を開くと小さな彼を戒めた。

 サイと呼ばれた少年は助けてくれたアニクの隣で、気にした風でもなくへらりと笑っていた。「何を盗った?」とアニクが聞くと、「これだよ」と懐から金属でできた装飾品を取り出した。アニクの手のひらに転がされたそれは、小さいながらも光沢のある石がはめ込まれ非常に高価な感じがした。

「不要な盗みはしないって言っただろう」ため息混じりにそう言うと

「助けてくれなくてもいいんだぜ。俺は俺の好きなようにやるから」と緊張感もなくイテズラっぽく歯を見せる。生真面目そうなアニクは声を荒げることはないが諭すように続ける。

「昔からの腐れ縁だ。おまえは体が弱いし、そのせいでか背丈も小さいから心配になるんだよ」

「余計なお世話さ。大体何なんだい、おまえばっかり大きくなりやがって。食べるモンには同じくらい困っていたのによォ」

「そうさあ。俺たちよくここまで育ったものだなあ」

 かく言うアニクも齢相応の成長ぶりとはいえない幼い体型をしており、袖から覗く手足は頼りないものだった。青い空を見上げては、親も仕事もない子ども二人は、ただただ今日をどう生き抜こうか考える。

「さあ、ねぐらに戻ろう。カビーアが飯をこさえて待ってるぞ。まったくサイは朝っぱらからちょこまか出歩いて、全然懲りないなあ」アニクがサイを促して立ち上がる。長距離走って酸素不足なのかふらりとした感覚が頭にあった。

「家に食える物があったか?」

「少しだけな。拾い集めた野菜を刻めば水で煮たものくらい作れるさ」

 豆や野菜を入れてスパイスで味付けした料理はいくらでもあるだろうが、彼らのそれはそこまで充実したものでも、料理名が付くようなものでもなかっただろう。「よく火を通せよ」腹を壊しがちなサイが呟き、市場の隅を隠れるように通り抜けた。


 帰宅の途中いつにも増して多い人の量にサイが嘆いた。「ここ最近やけに人が多いなあ」背が低い彼はその波に必死に抗いながら進んで行くので、なるべく人気のない空間を選んでいく。それだけでなく盗み癖のひどいサイが、市場の者たちに顔を知られているかもしれないことをアニクは懸念した。

「こっちから行こうサイ」手で示し、回り道をして路地に入る。サイが付いてきたのを確認して「一昨日くらいに、大層大きな権力をもった人がこの地に運び込まれたようだよ。だから付き従えてきた人も多いようだ。豪勢な準備のための買い物で市場は大繁盛なんだろうな」と市の会話に耳を傾けて知り得た情報を教えてやった。

「そうかい。偉いお方は死してなお、お偉いのだね」嫌味を言うようなサイに肩をすくめてみせ

「死んだら持っているものも何もなくなってしまう。生きている内が全てだよ」とアニクは返した。実際の所、死んだ者がどこへ行くのか想像もできなかったが、自分の体一つで生きる毎日が何より重要であるような気がうっすらしていた。

「そりゃ同感だな。いつ死ぬかわからないんだから、思ったようにするのがいいさ。悪いこと? 知らないね、どうにでもなれってんだ!」

 豪語するサイには「それはちょっと違うだろうよ」と、困ったように笑ってみせ流した。

 路地を行きながら表通りを警戒していると、同じく入り組んだ路地の向こうの道から表に出る二人組を見た。顔を見たことはないが、いわゆる路地裏を住処にした人間だと悟った。

 その様子にいち早く感づいたのはサイだった。「あの二人カモを見つけたな」とそちらに食い入る。アニクも気にして見てみると、二人組は市場を行くクチナシ色の衣装が鮮やかな女性の尾行を始めた。素肌や顔はやや隠して見えないが、その持ち物の質の良さに目を付けたのだろう。

「あいつら、いい噂聞かないぞ。力に任せて物盗るので有名だからな」サイが言うのを聞いて余計に胸がざわざわした。彼の方を振り向いて「あいつらどうする気だ? 放っておいていいのか? それよりお前、あんな奴らとつるんでいるのか!」一息に言う。一気にまくし立てられたサイはうるさそうに、

「なんだよ急に、俺は違うよ。肥しをたんまり持っている人からちょっとだけ頂くことはあっても、無害な人から奪ったりしないさ。たぶん」

 またサッと前方を見ると彼らはどんどん遠ざかっていく。

「俺も同じカモに手を出そうとした時思いっきり顔面に拳をくらって歯を折られたよ。路地に引き込まれたら最後さァ」奥歯を気にするように頬を撫でるサイをよそに、アニクはその言葉に弾かれ飛び出した。

「おうい! どうする気だよ!」と叫んでサイも追いかける。



 市の店に並ぶ品を見ながら歩みを進める女性。

 控えめな光沢をもつ楕円形の耳飾りが、三十代ほどの落ち着いた容姿に合っていた。それでいてアーモンド型の瞳は黒々と、若々しさと知的さを醸し出していた。

 色んな布地や彼女に似合いそうな金属器と銀属器に加え、仕入れたばかりの果物等の食料品が溢れるように並んでいる。それらを眺めて行く途中、ふと人込みの中から背後に受ける視線を感じ取った。妙な緊張感を覚え大きな瞳を端まで動かして様子を窺おうとすると、後ろからドッと男がぶつかった。

 警戒して振り向くと、話慣れなそうな標準語で「すみません」と微笑んだ。その穏やかな様子に安心しかけると、背後に立つその人物と似た背丈の男が正面にも立ち行く手を阻む。挟まれてしまった! 気づいた時にはもう遅く、踵を返す間もなく正面から鳩尾(みぞおち)に一撃を見舞われた。


 息が詰まった彼女は抗えず、手に持った金刺繍の美しい鞄を奪われた。それからよろめく彼女が落とした銭袋が音を立てたのも奴らは見逃さず、一人が拾おうと屈みこむ。もう一人が女性の腕飾りを引っ掴んだ辺りで女性がやっと声を出す。周りも事の次第に気がついた。


「泥棒!」

 と叫んだ声に刺激されて、二人組の一人が彼女に向かって振りかぶる。その腕に、間一髪アニクが飛びついた。


 背丈は同じくらいの彼らだが、アニクの方が細い体で力の差は否めなかった。出てきたアニクはすぐに吹き飛ばされたが、そちらにいたもう一方の男の顎を一撃しひるんだ隙に鞄を見事に取り戻した。追いついたサイは周りの観衆に焚きつけて二人の悪党を囲わせた。すばしっこさに皆、目で追うのがやっとであったがとくに暴力に訴えるわけでもなく、揉みくちゃの中から抜け出したアニクが彼女の背を押してその場から逃がすことに成功した。

 そのままともに駆け出すと再び人込みに紛れて行った。



 しばらく離れた所まで逃げた三人は身を隠した。青年らと違い助けられた彼女は慣れないダッシュに疲労困憊だ。膝に手をつく彼女にアニクがおずおずと鞄を差し出すと、それに気づいてお礼を言おうとするも息が切れて言葉にならない。

「……どうも、ありがとう」呼吸が整うとそう言って取り返してもらった鞄を受け取った。マントは外れ、よく晴れた日の夕焼けのような顔立ちが露になる。

「盗られたのはそれだけ?」とアニクが尋ねると

「あと、財布がなくなってしまったわ……」懐を確認する彼女と、気の毒そうに窺うアニクに近づいて来たサイが

「これかい?」と銭袋を指にひっかけ差し出した。

「そう! あなたもありがとう! これにここでの滞在費用が全部入っていたの」お礼を言って喜んだ。嬉しそうな彼女を見て、アニクも感心の声を漏らす。

「サイ、よくくすねられたなあ」

「ちょろいもんさ。ところでその中身たくさんありそうだなあ。少しくらい、僕らの活躍にチップをくれない?」子どもらしい見た目を利用して上目づかいで媚びてみせるサイに「やめないか!」と慌てて叱責する。

「いいの、お礼をさせて欲しいわ」

「えっと、いや悪いよ」断るアニクをサイが睨む。

「お金が躊躇われるなら、さっき市場で買った食べ物ならいかが? どれも出来上がったものではないけど、珍しい香草も見繕ったから、いやでなければ調理してご馳走するわ」見せられたみずみずしい赤や青の野菜を前に、二人は慢性的な空腹感を思い出した。



 自分たちの住処に招いて食事を一緒にとることに決めた一行はそこへ向かい歩き始めた。太陽が丁度真上近くまで昇った時刻だった。

「私はダーシャ、仕えているお家のご主人が亡くなってこのベナレスの地へ。彼の火葬準備のお手伝いで来たのだけどもう儀式は終えて、残りは僧の方たちやご家族でやることがあるみたい」この彼女も噂で聞いていた権力者の一行だったのだと知る。

「人手が十分に足りているしせっかくの機会だからと、使用人たちに二・三日お暇をくださったの。せっかくの遊覧が潰れてしまわなくて本当によかったわ」

「そうか。俺はアニクで、こっちはサイだ。もう一人アジトにカビーアっていう仲間がいる」簡単に自己紹介して互いに警戒を緩めた。

「二人は兄弟なの?」

 とダーシャが聞くと「まさか!」と声を揃えて言った。一緒にいることでそう思われることも多いが、彼らは血のつながらない他人だった。幼い頃からともにこの辺りで暮らす人間たちの助力で育てれられたのだ。双方みなしごであり、親の記憶など元からないのか、それとも忘れてしまったのかもわからなかった。

「姿からは思いもよらないけれど、実はサイの方が齢は大きいんだ」悪気ないアニクに、サイは面白くないのであろう。そこらの砂利を蹴って彼にかける。そして彼女の方を向くでもなく

「俺は丈夫じゃないって、よく小せェ頃から育てのジジイに言われたんだ。だから生きてる内にパアッとやっておくのさ」と言う。ダーシャは心配そうな言葉をかけるが、サイは小うるさそうにしてあまりよく聞いていなかった。

 サイの性格とは反対に、アニクは思い切ったことができない性格だった。路地裏で一緒に育った子どもらの中でも、悪いことや危ないことはなるべく手を出したがらなかった。しかし過酷な生活ゆえにまっとうに生きるのは難しいもので、舟着き場の荷運びだけではいくらも賄えるわけなかった。十分な栄養、生活環境にありつけず死んでいく仲間も珍しくない事実の下、幼馴染の多くは子どものまま生涯を終えてしまった。

 兄貴分のサイはそんな状況を一緒に生き抜いたかけがえのない存在だ。血縁関係がなくとももう家族のようなものに違いなかったし、そう呼べるものが彼以外にあるわけでもなかった。最近になって仕事場で知り合ったカビーアも同じ境遇で、気の置けない仲になり寝食を共にしている。ここでの暮らしは協力しなくては成り立たないのだ。

 そんな境遇の説明を話す内、ダーシャの実家も豊かなわけではなかったと聞いた。

「家は貧しかったから大きなお家に仕えて必死に働いたの。馬鹿にされないように、役に立てるようにたくさん勉強して作法も身に着けたわ。文字や言葉を覚えたことは大きな影響を与えたわね」

「文字が読めるのか?」アニクの問いに

「使用人をとりまとめる婦長にならったの。家族と離れて住み込みで働いていた私にとって母親のように思えたし、実際それだけ親身になってくれたわ」思い出すように瞼を閉じるが、その下に浮かべているのが母親か婦長という人かは青年二人にはわからない。

「すごいな。俺らは看板の文字も市場の数字も読めない。一日の長さは太陽の向きで測るんだ」時間のことかと問いながら、彼が指す方を見上げた先に、壁と壁の間からぽっかり顔を出している丸い太陽がいた。

「俺らは金の使い方もよくわかってないからもらっても困ったモンだ。物々交換が一番わかりやすい」

「まあ、では料理を頑張るわね」ぶっきらぼうなサイにダーシャは包容力高く答える。

 サイが金の使い方がわからないのは本当だが、アニクの知らない所で泥棒仲間とつるんでいるらしく、連中の中に勘定のできる奴がいるのだろう。そいつが金をつくっているのだとアニクは推測していたが口出しすることはなかった。

 サイは周囲の馴染みたちが亡くなる度に「次は俺かも」と縁起でもなくよく言った。その反動か、わりとあっけらかんと今ある生を謳歌するようになった。きれい事のために我慢したり、正しい行いを貫くことは彼にとって幸せの範囲から外れていったのだ。けれどもサイが盗品を食べ物に化かして、アニクや仲間たちの元へ帰ってくるのには純粋なものしか感じなかった。その行いをひどく責めることや、彼がそうしたいと思ってしてくれたことを無下にすることは誰にもできなかった。

 そしてアニクもサイの持ち帰る物の受け入れに戸惑い気味ではあったが、ギリギリの生活を家族とともに過ごせることを幸せに感じていた。ひとつ屋根の下一人ぼっちでなく生きられる毎日は、持ち物の少ない路地裏の青年たちにとって絶対に失くしたくない大切なものだった。

 

 

 住処は廃屋の中を上がっていった所だった。屋根はなく吹き抜けの天井には荒い目の布が張られていた。雨が降ったらどうするのだろうと見渡すダーシャを察したように、階下の一室も使えるのだと青年らは自慢した。そこは厚い石が雨風を防いだが、その代わりに暗くひんやりした空気が漂った。

 冷たい床を裸足で駆ける彼らの足音をたどって先ほどの吹き抜けの部屋に移動すると、アニクが手招きして待っていた。

「ダーシャ、仲間のカビーアだ。こいつも料理が上手いんだぜ」紹介された青年はアニクよりも大きな体をしていて人相も険しかったが、穏やかな声色で挨拶を返した。そして「ようこそ」と握手を求め、彼女との出会いとなった出来事に対し労いの言葉をかけた。それらから彼女は彼の年齢がアニクらより上なことや、諸々の経験値が高いことを感じた。

 彼らが住み着くより前の家主が使っていたであろう、簡易的な釜戸を使って調理を開始する。彼らの中では年上のカビーアが普段料理をするようで火を起こした跡がついていた。

 カビーアとダーシャが釜戸の近くで作業する周りをアニクはうろうろと何か手伝いたそうにしていたが、「お前が手ェ出すと俺の仕事が増える」と冗談混じりにカビーアにあしらわられ部屋の隅に寝転んだ。

 サイはというとスリの後の逃走を手助けする道具作りに熱中していた。誰から教わったのか詮索はしないが、石の床の上に麻布を広げては何かを煎じたりしていて、鼻歌なんかもまじえている。

 そんな案外家庭的な彼らの様子にダーシャは安堵の笑みを隠さずにはいられなかった。

 手持ち無沙汰なアニクは眠るわけでもなく、頭上を覆う布の隙間から空を眺めるのを楽しんでいると思われた。しかし実のところ、カビーアとダーシャが会話をしながら料理をする後ろ姿をじっと見てしまうのであった。台所というにはあまりに粗末な空間であったけれど、いつもカビーア一人が立っているのとは全く違う、つかみようのない懐かしさみたいなさざめきがあった。

 その思いが作用して細めた目の分だけ狭くなる景色に、そっと腕を伸ばして抱きしめてみたかった。


 火にかけられた鍋の中からふつふつと漂ういい香り。

 クミン、コリアンダー、シナモンが含まれた北インドの調味料ガラムマサラをダーシャは購入しており、普段から食べる量の多くない皆の消化器官に負担をかけないスープ料理ができあがった。円い鍋の蓋を外すのを待ち構えていたアニクとサイの顔を膨れ上がった湯気が包み、含まれたスパイスの粒子が嗅覚をくすぐった。

 甘さと酸味が特徴のタマリンドを煮詰めて味付けたラッサムは、赤いトマトが鮮やかな南インドのスープだった。見慣れないそれはダーシャの地元の南インドでポピュラーなものである。肉類の代わりに大豆や葉物野菜をナッツのソースで煮込んだやさしい煮込み料理など、そこらの市でも目にする馴染みのものも手掛けた。

 カビーアは彼女の知識や味付けの幅の広さに好奇心を見せ、その場で教われることを必死に覚えようと奮闘したはずだ。

 胃の底に溜まっていく温かさに一同はダーシャのお礼を心から喜んだ。

 それから彼女は余った材料で保存用のジャムを作った。彼女の持参した砂糖や香辛料を刻んだ果物野菜と煮詰めることで万能の調味料が出来上がる。その様子が気になったアニクは側まで寄っていき彼女の動作を間近で見つめた。彼女のような人はその齢に育つまでほとんど関わったことのない珍しい存在だったのだ。

「ダーシャはここへ来る前、どう暮らしていたんだ?」と興味を示す。

「故人となったご主人に仕えて二十年ほど経つかしら。十六歳の時実家を出てから今日まで同じ家に仕えて、そこでずっと暮らしをともにしているわ」

「その人が死んだらこれからはどうするの?」

「その人の家族がいるから、今後はその人たちの暮らしのお手伝いをするのよ」

 そこには人がたくさんいるのか尋ねる。

「そう。別れは来るし悲しいことだけど、全てが失くなるわけではないわ。残された家族が天に上る旦那様の魂を見送って、その席は次の家長が継いでいくの」

 家の仕組みを理解するのは難しかったが、皆が同じ家に暮らしそれでいてともに生きていく様子は自分たちにも当てはまった。「家族ってこと?」と尋ねると、ええそうね、と返答した。「血がつながっていなくても家族になれるわ」

 実は彼女の本当の家族は、奉公に出ている間に村から姿を消してしまった。生活の困窮からダーシャは一人を口減らしして暮らす場所を変えたとも思われたが、彼女は家族を信じていた。仕えた先の暮らしの方が幸せだと考えて貧しい自分たちの元へ戻らないようそうしたのだろう。

 帰省の際にもぬけの殻となった生家を知った彼女を、仕え先の家族は受け入れ励ました。他の寄せ集められた使用人たちも含めた大家族に囲まれて、また彼女もその一員だったのだ。


「死んだらどこに行くの」青年が一人事のように呟く。

 彼の横顔と作業中の手元とに視点を揺らしながら、少し考えるようにして「命はずっと廻っていくのよ。この世の旅が終わったら、雲まで昇って行って雨になるの。そしてまた地上に戻って来て新しい命になるんだよ」ダーシャは彼の方を見て指先で円を描いた。

 この体がある内はその命の灯が消えるまで走り続ける。どんなに富を蓄えても持って行くことはできないけど、この体で見て経験した記憶はきっと持って行って、次の魂に宿すことができるかもしれない。

 それに、と続けて口を開く彼女。

「寂しいことばかりではなくてね、旦那さまが亡くなった数日後お嬢さんに子どもが産まれたのよ。命は廻ってつながれていくのだわ」

 家族を表す母・父・祖母・祖父・孫など、アニクたちは無縁で育ったがゆえにそれらに非常に魅力を感じた。また会話を続ける。


「そのダンナさまも、川で焼くのか?」

 唐突な青年の言葉に彼女は少々面食らってしまった。彼のつぶらな目にとらえられて一瞬言葉を失う。


 彼女ら一行は旦那さまが無事昇天できるように、シヴァ神が修行したこの聖地ベナレスで遺体を火葬し供養するためにやって来たのだ。

 アニクの言う「川で焼く」というのは、ガンジスの川辺で行う火葬のことだ。彼が日銭を稼ぐ仕事にありつけた日には船着き場から、多くの者たちが聖地での成仏を求めて遺体の供養を行う様子を目撃しているのだろう。街の市場の栄えはこうした供養を望む者たちがひっきりなしに訪れることによる。生活に死というものが近い彼らは、常にそれとあたりまえに接し、命について人一倍考えるだろう。

「どうして焼いた方がいいんだ?」ストレートな問いに、他宗教の考え方も知識をつけていた彼女は慎重に返答した。まず彼女自身や、その地域の大衆が信仰していたヒンドゥー教のことをかいつまんで説明した。

「人は最期、命の輪から離れて太陽まで昇っていくことが幸せとされているの。私はそう教えられたわ」

「でも輪から外れたら戻って来れないぞ」

 先ほどした説明とのかち合わせにダーシャはまた戸惑ってしまう。


「この世を生きるには辛いこともあるでしょう? 痛いことや悲しいこと、病気や飢餓とかね」アニクは黙って頷いていた。

「だから大好きな人が亡くなったら、『この世の旅を終えてお疲れ様、頑張ったね』って送り出してあげるの。そしたら太陽と一緒に私たちを見守って、いつでも一緒にいてくれるわ」話ながらダーシャ自身も家族のように扱ってくれたやさしい雇用主とその家庭を思い出した。

 神妙な面持ちで口をつぐんでしまったアニクを心配そうに見て

「アニク……、死が怖くなってしまった?」と声をかけた。「いいや」と彼はかぶりを振ると、先ほどふれた自分の仲間たちが幼くして亡くなっていったことを思い出したと淡白に話した。


「俺たちにとって死ってそんな遠いものじゃないんだ。サイだってあんな風に陽気な性格だけど、ひどい嘔吐や腹を下すのはわりと日常茶飯事だ。だから、まあ怖くはない」死を恐れない筈ないだろうに、彼らの命はそれだけ、裸のままさらされているということが考えられた。

 いのちの話を上手くしてやれない気まずさから彼女は調理場の片付けを始めた。アニクはどこか見つめたように立ったままだ。彼らが明日を生き抜くのも難しい環境でなければ、まだまだ人生は長いと励ましてやれるのだが、それは簡単には口にできなかった。

 出来上がった飴色の保存食をしまっておくようにとアニクに渡すと、彼は静かに笑い、「明日からの食事の足しにして」と付け加えるとゆっくり一度頷く。立ち話もなんだと、彼女がカビーアとサイのいる方へ寄ろうと促した直後、

「俺、毎日考えてた」と歩みを止めて言ったのだ。

「うん?」と振り返り尋ねると

「太陽が昇って沈んで、一日の時間も数えられず、仕事もなくただ過ごす日がある。痛いくらい腹が減って眠れない日もある。ぼんやり過ごすにはあまりに人生が長すぎるなって思ってる」聞いた後、どんな言葉をかけても安くなってしまいそうでダーシャはまたしても返答に困る。


「ぼうっと過ごして、市場とか空をずっと見てるんだ。今はサイやカビーアがいるからやっていけるけど、もしあいつらがいなくなって残されてしまうなら俺は先に死にたいな」


 アニクは手に抱えた瓶の腹を指で撫でながらつらつらと言った。アニク、と彼の名を呼びかけたかったが声が上手く出せなかった。成長したもののまだまだ心は未発達な青年は、その手にもつ瓶より脆い硝子のようであった。

 二人の重苦しい空気を感じ取ったのか食事を終えたサイが寄って来た。ダーシャの作り置きしたジャムの瓶をちらちらと眺めながら

「アニク明日はどうなるかわからないんだぜ。常に今ってのを楽しく過ごしておけって」と痩せた腕を上げて彼の背中を叩いた。

 続けて寄って来たカビーアも「俺らがいるし、生きていたら昔の仲間たちにだってまた会えるかもしれないぞ」ダーシャがアニクに教えた輪廻が回り続ける話を聞いていたようで、カビーアはちらりとダーシャの方を見て瞳を合わせた。

 アニクを囲う様子はまごうことなき家族の姿といえた。

 ダーシャが教えた輪廻の話をサイやカビーアも興味をもったようで、今度は四人で団欒して彼女の話に耳を傾けたのであった。



「……というと火葬する煙にのって天にのぼっていたのかあ」

「そうよ。そうさせてあげたいと強く望んだならば、皆このベナレスまで懸命に故人を運んでくるの。その人の幸せと、私たちの傍にいてくれることを願って」納得する様子の三人にダーシャは丁寧に向き合った。

「死んだみんなには幸せになってもらいたかったけど、薪を買う金もなくて水葬にしてしまったよ」申し訳なさそうにするアニクの膝を隣に座るサイが力強くはたいた。

「みんな満足だろうよ! この生活から逃れられてむしろ喜んでたかもな!」と今の生活の困窮を訴えつつも、この状況を生き抜く自分らがどんなにたくましいかひょうきんな発言で称賛した。「きっといい人生をやり直しているさ!」とも言った。

 若い彼らの生死の受け止め方にダーシャは感服せざるをえなかった。

 サイの性格につられ幾分かアニクの表情もすっきりした笑顔を戻しつつあった。

「俺の時はちゃんと燃やしてくれよ! そしたらお前らをずうっと見守っていてやるからな! ああ、薪を買う金は俺の盗品コレクションからいくつか見繕ってくれればいいからよ」サイが言い放つ文言の内、ダーシャはが盗品の言葉に動揺を見せたが、カビーアとアニクが何とか誤魔化した。

「俺は焼かないでほしいかな。もう一度やり直したい気もあるし、この世界嫌いじゃないからよ」拳を頬に当て、朗らかに言うカビーアの雰囲気は随分彼らの支えになっただろう。どうしても重たい死の話題は避けてしまいがちだが本当は向き合うことが求められるのだ。ダーシャは今までそれほど死生観について考えたことはなかったが今後の課題としなくてはと思えた機会になった。

 ふとサイが片付けられたサヤエンドウ形の果実タマリンドの殻を目にし、「おっ! これ貰っていいか?」と目を輝かせた。

「ええ、どうぞ」とダーシャが返す風景は母子おやこのようだと他の二人は思っただろう。貰った殻の中から形のいいものを懐にしまい、上機嫌に先ほどの自分の工作場に戻った。自由でいて爛漫なサイとは違う二人はダーシャの帰路を案じた。まだ辺りは明るかったが遠慮するダーシャを宿まで送ることにした。




 ダーシャと三人は住処を出た後市の人込みを早々に脱出した。ベナレスの街を少しだけ見せて回りたいアニクの希望に、年長のカビーアが承諾し賛同した時彼はなんとも嬉しそうな顔をした。退屈な毎日に訪れた珍しい人物への好機心というだけでなく、初めてふれる感情や経験への冒険があったのだ。

 正確な齢を知る者はいないが、十八、九歳くらいのアニクと大人の女性であるダーシャは人々の目にどう映っただろう。親子とも恋人にも見えぬ新鮮で不思議な組み合わせだったろう。人生という長い旅路の途中の出会いではいくつか重要なものがあるかもしれないが、アニクにとってこれは素敵な運命と言えるものの一つであった。


 人通りの多い道路の土産物屋を覗く二人を少し離れた後ろからカビーアが見守っていた。

 革細工や金属の工芸品がザクザクと並べられているのをダーシャは楽しそうに見ていたし、普段金もなく立ち寄ることのないアニクも口数少なくしきりに商品を見回した。一つ一つ丁寧に装飾品を見ていく彼女の時間がかかりそうなことを察した赤ら顔の店主は、「終わったら声かけろ小僧」と連れであるアニクに言って、掘っ立て小屋に構えた店の脇にて煙草をふかし始めた。

 日常の市場では追い払われることばかりであったのに、この時ばかりは彼女といたことで路地裏の少年がいつもと違って信用されているようだった。不思議なような感覚と複雑な気持ちが織り交ざったが、それでもダーシャと一緒に過ごせるこの状況への嬉しさが一際勝った。 

 乱雑に垂れ下がるペンダント類の中から金の象の飾りがついたものを手に取る。彼女の指先の中で目の部分にはめ込まれた緑色のビーズが光る。そのモチーフが何であるか、この街に伝わる神話のいくつかをダーシャは教えた。アニクがその全てを理解するのは容易でなかったけど、彼女が壁に貼られたペナントや、籠の中にごろごろと放られている石に描かれた神さまの絵を指さすのには興味深々であった。

 二人は連なる露店を移動しながら会話を重ねる。

「おい」と音量を抑えたカビーアが、露店商たちの裏方に回ろうとするサイを止めた。「騒ぎにして邪魔するんじゃない」と彼らを見やった。サイは色とりどりの装飾品の物色を諦めるとつまらなそうに川べりの方へふらりと行った。

 

 火葬に来た旅人向けに充実した店舗を通り過ぎる内、占い師に呼び止められる。二人は誕生月と年齢を聞かれたが、アニクがわからないと言ったのでダーシャも遠慮して断った。開けた通りに出た時すでに日が傾きはじめ、オレンジ色の輪郭がぼやけて水面を照らし出した。

「きれいだね」

 毎日見る同じ景色が昨日も今日も続いている。けれどアニク青年は昨日とも今までとも違う気分であった。昨日に戻ることができないように、この瞬間ももうやってこないような刹那的で特別なものだと感じていたのだ。胸に沁みるような明るい夕日だった。

 段々作りの地形の高台から大きな川の流れを見渡すと、その近くで供養の煙を上げる人々の姿がいくつもあった。燃える炎からのびる煙は夕日を浴びて不透明に空へ広がっていく。あれが命を運ぶ道。

 ガンジス川を行く舟をいくつか見送って一行は再び歩き出し、アニクはダーシャに語りかけた。

「俺は今までなんも知らなかったから、生きることの意味もわからなかった……。だけどそれを、ちょっとわかった気がする」口下手なアニクが何かを懸命に伝えようとしているのを見て、後ろをついていく仲間二人は意外そうに顔を見合わせる。彼は言葉をひねり出そうと渋顔をつくりこめかみを小突く。

 ダーシャがそちらを窺う度、彼女の耳飾りにあしらわれた金細工が彼らの間に光を反射させた。

 金の装飾に描かれた炎の輪のように彼の脳内は回転して

「こんなに明日が楽しみなのは初めてだ」

 とやっと明快な声で発した。まっとうに生きることに憧れた青年が抱いたささやかで正直な感想であったのだ。


「きっと君に会えたおかげだ」

「そんな。でもそれならよかったわ」マントで隠れていた口元が見え、穏やかに笑うと粒のそろった歯がのぞいた。


「今日は特別だった。君を送り届けたらそれも終わってしまう」と寂しさを帯びた瞳が彼女を見下ろした。

「今日が終わっても明日が来るわ」大きな黒い瞳が見つめ返す。

「けれどもう会えない」真剣な眼差しに少し迷ってから彼女はアニクを勇気づけるように言った。


「大丈夫よ。アニクがそう言ってくれるなら、私は明日もう一度会いに行く。その次の日にはここを出発するけれどまだ時間はあるわ」

「本当に? 約束だ」


「ええ、明日はもっとたくさん食べ物を持っていくわ」

「そんな物を欲しがったわけじゃないぜ。もっとたくさん話したい。一緒にいたい」首を横に振ったり伏し目がちになったりそれ以外にもアニクの表情は豊かであった。


「わかった。きっと行くわ。太陽が真上に来る前までに必ず」

「迎えに来ようか」

「いいえ、待っていていいわ。あなたたちのお家に似合う花も選んで行く。何の花かはお楽しみよ」明日への約束を交わす間に彼女ら一行が泊まる宿が見えてきた。


「楽しみだ。それから数の数え方や調理も覚えたい。君の家族の話も聞きたい。あと舟着き場での俺の仕事も見て欲しいな!」次々と思いつく提案を口にしては楽しそうで子どものように飛び跳ねんばかりだった。近づいて来た宿の入り口手前で彼女を送り帰るはずが、アニクが中々背を向けられない。カビーアに軽く襟を引かれるも「本当に会えるかい?」と心配そうにダーシャに寄ってしまう。

 路地裏育ちの家庭に飢えた仲間の中でアニクがとくにそれを求めていたことをサイは知っていた。それを求めることに蓋をして、輪郭のない幸せをなぞって育った。その姿を近くで見てきたサイだから野暮なことはするまいと兄貴分らしくその背を押すことにした。

「俺達には何もないから、今はこれだけ」と近づいて行くと川辺で摘んだのであろう野花を彼女に差し出した。

「弟がどうしてもあんたを気に入ってしまったようだ。できることなら約束を叶えてやって欲しい。約束の証として受け取ってくれるかい」

 そっぽ向いたままそのように述べる様子は昼間の陽気さとはまた違った面であった。

「勿論よ」花を受け取り、傍らのアニクに向き直って自身の腕飾りを外した。金属でできたそれは彼女の体温を残したまま手渡される。

「物々交換。持っていてくれたらきっと、君に会える気がするの」角度によって鈍い光沢を放つ美しい飾りを青年の両手が包んだ。

「……わかった。待っている」

 納得したようにアニク一行は来た道を戻っていった。

 

 ダーシャは宿に戻ると、他の部屋に泊まる給仕係や使用人仲間に帰宅を伝え割り振られた部屋に戻った。途中、花を入れておく瓶を探すと、同室であった妹分の使用人が食事を済ませたという小瓶をわけてくれた。汲み置かれた水を入れに外へ出ると、薄暗くなり始めた空に橙色と紫色の混ざったうすい雲がたなびいていた。



 薄暗い川べりの露店街にはいくつも灯りがつけられ昼間とは違った賑やかさを見せた。油ランプの他、パチパチと音をたてて揺れる炎が濃淡様々な素肌をもつ三人の青年らの顔を照らす。

「ねぐらに戻っても食べる物あるかな」サイが腕を頭の後ろに組んで呑気そうに言った。ダーシャの作り置きしたものを思い出したが、すぐに手を付けてしまうのは何だかもったいないような気がした。

「アニクが俺たち以外にあんなに話したがるの珍しいな」カビーアは隣を行く彼に声をかける。アニクは手の中に隠すように持つ腕飾りをのぞき込み「ずっと普通の生活に憧れてたんだ。でも何が普通かわからなかったからさ、いつもぼんやり過ごしてた」

 それを受け「普通ってなんだろうなあ」と考える様子のカビーア。背の高い彼を少し見上げるようにしてアニクは瞳を輝かせた。

「仕事をして、家を建てて、みんなで食事するんだ」それが夢なんだ、いや夢だったのだと心の中で反芻する。

 ガンジス川で沐浴する人々の群れやその傍で語らう人々の様子も無数の火葬の炎が穏やかに包み、その色は次第に濃くなる夜の気配に浮き上がってきた。

 通りをすれ違った親子三人連れの小さな子どもが親に挟まれ笑顔を向ける。両手を彼らがギュッと握り、時折持ち上げるようにしてあやしてやると雛鳥のような笑い声をあげた。気づけば夕飯時の市場には家族連れが溢れていた。

 カビーアが「手ェつないでやろうか」と言う。ある程度大人に近い体型の彼がサイと並ぶと親子のように見えなくもないのだが、案の定サイは「馬鹿にしてんのかい!」と差し出された掌を叩いた。ところが一番年少のアニクは二人の間に入りこみバチンと手をとった。どの手も乾燥し痩せた不揃いなものだった。

「家族みたいだ」とあっけらかんと言い放つ末っ子の彼に

「家族だよ」と二人がそれぞれ心の中で返すそれも束の間、照れくさくなったサイが手を振りほどいて何歩か前方に駆けだす。彼の青い腰巻がはためき見えるくるぶしを、人込みの中へ見失わないよう二人も後に続こうとした時、カビーアの視界からアニクが消えた。


「……どうした。どこ行った?」

 辺りを見渡す。ハッとしてサイも探すが姿が見えない。急なことに狼狽えカビーアは青ざめた。


「痛っ……!」


 と言うアニクの声が聞こえ名を叫ぶ。その声にサイが何事かとカビーアの傍らに戻って来て一瞬胸を撫でおろすも、異様な事態に見える景色はぐるぐると回る。


 左後方に顔を振ると、首に厚い布を巻いて顔がほとんど見えない人物がアニクの手首を掴んでいた。

 カビーアは人の群れを押し分けるがそう離れた位置でないそこまで中々進んで行けない。顔の見えない奴はアニクの腕に通したダーシャの腕飾りをすろうとしたようだ。そこまで目立った争いでないために周囲の者たちは気づいていないのか。

 治安のよくないここではよくあることかもしれないが、アニクらは金品を持つ事がほとんどないため今までこんな風に狙われることはなかった。


「痩せ犬が。よこせ」低く脅すような声。

「……渡すもんか! これだけはくれてやらない!」

 

 睨み合う二人の声は市場の賑わいに掻き消えた。


 その近くにもう一人布を頭に巻いた屈強そうな人物が接近していく。

 アニクの正面に立つ人物の後方からその仲間が加勢したのをカビーアは見た。人相は見えなくとも稀に見る狂気の雰囲気を肌で感じ取った。


 そいつがアニクの肩を掴んで引き寄せる。

 大人二人分の体重を受けて完璧に押され気味なのに加え、何が起こっているかわからぬ速さで後から来た奴が抵抗する彼の腕を切りつけた。思わずアニクは目をつむる。


「おい!」その光景にカビーアは反射的に声だけ飛ばす。


 その後も幾度か凶器を振り下ろす。皮膚の下から血がにじむのが遠目でもわかった。

 時間にしてそう長くはない強奪の場面が、すぐに駆け付けられないカビーアとサイにはスローモーションのようにゆっくりと見えた。

 


 時間にして、サイの脚が踏み出される四歩分ほど。

 ゾッとした思いで背を伝う汗を感じながらアニクの仲間二人はそちらへ向かう。カビーアは焦りと怒りで人々の背をどける力が増した。

 その間も静かな攻防が密かに繰り広げられる。

 ――アニク手を放せ……!

 そう念じこれ以上の怪我を負わないことを祈る。物を盗られても体が無事なことの方が重要だ。

 明日の約束を果たすならば無事に家に帰らねば。


 ドンッ


 突進するような重たい衝撃。アニクの懐に相手の肩が張り付いた。



 息がつまり、三人の目や口が一様に裂けんばかりに開かれる。声もあげず音もなく青年はよろめいた。力が抜けた様子にスリたちが一度離れると、膝から崩れ地面へ転がる。

 赤黒い溜まりが広がっていくのを見てようやく周りがどよめいた。


「……人がっ!」


 道の脇の灯りの火が風を受けて回った。


 音のない世界から途端に解放される。

 膝を抱えるように倒れこんでいるアニクの周りからわっと人の波が避ける。その隙にサイとカビーアは素早く飛んで来て、彼の具合をまず確認しようと試みる。彼を揺すろうとした時、アニクが掌に血の飛んだリングを掴んでいるのに気づいた。

 その執念と黒く染まる腹を交互に見て戸惑う二人。アニクの意識は朦朧として首の下に差し入れた手に圧し掛かる頭は重かった。


 とその時、先ほどのスリたちがアニクの腹の辺りに飛びついて来た。人払いに立っていたサイも蹴り飛ばされた。カビーアは転がって姿の消えた彼の行方にも、腕飾りを放さないアニクのいるこちらへ向かってきた敵二人にも留意しなくてはならなかった。

「くっ、やめろ!」

 追い払おうとするも奴らは雪崩れかかって金品を狙う。抱えかけたアニクの体が再び地面へずり落ちてその場から逃げることもままならず、重さに耐えかね膝をついた。


 為すすべなくアニクをかばうように覆いかぶさるカビーアの前に、飛び出してきた小さな影があった。

 頭から肘、膝までが砂まみれのサイだ。手に何かを握る。


 パキンッ

 懐から果実の殻を取り出して思い切り地面に叩きつけた。



 ボワッと粉塵と香辛料の香りが視界をふさぐ。

 取り巻く野次馬や襲った奴らを足止めして、騒ぎの現場からアニクを連れて逃げ帰った。

 夜の市場のざわめきが少し離れた宿街に伝わるのは少し後のことだった。ダーシャが鏡台に置いた小瓶の花は先ほどまでより色を失い、力なくしおれかけていた。

 眠りにつく時にもう一度彼女はそれを気にかけたが、どうすることもできずに月明かりのあたる窓辺にそっと移動させた。今まで野に咲いていた花が夜空を見られないのは悲しかろうと思ったのだ。

 ガラス窓越しに見える月はぼうっと明るく、そしてまんまるだった。




 翌日起きた彼女が最初に目にしたのは、昨夜の花が頭の部分からぽとりと落ちてしまっていた光景だ。水不足で枯れたわけでもなくまだ青い茎が不器用そうに小瓶の水を吸おうとしていた。

 どこか心に不穏な予感が生じ、いそいそと支度をした。


 まだ活気が溢れるには時刻が早く、市場では露店商たちが仕入れたものを並べたり地元の人間たちが洗濯籠を持って行き交ったりしていた。穏やかな朝だった。花屋は準備中だったのでひとまず先に顔を見に行くことにした。

 昨日の記憶を辿って彼らの住処付近の路地裏へ入り込んだ。まだ低い太陽の光を遮る高い石壁の間を抜けると、住処にしている廃屋の地上一階に肩幅の広い男が腕を組み寄りかかるように立っていた。警戒して近づいて行くと、目を伏せた表情からすぐにはピンとこなかったが凝視する内、確かにカビーアだとわかった。

「どうしたの、こんな所で……」そっと近づいて行くと彼は目を開き、ダーシャを待っていたのだと告げた。元々落ち着いた風格をもつ人物だが今朝はひどく疲れているように見えた。

「落ち着いて聞いてくれるか」その言葉に不安を抱きながら合わせてくれない瞳をじっと見つめて微かに頷く。

 少し躊躇い沈黙する。

 それから息を吸って彼は言葉を続けた。


 彼女は突然、大量の水を浴びせられたようにその場から動けなかった。息を吸うのも困難なのに、目の前を流れた水の色や雫の粒がわかる錯覚にも刈られる。無論、水など被っていないのにそう思わせるくらい異常な寒気が体を走った。


 信じられるだろうか。

 彼が暴動に巻き込まれて命を落としたと。

「上にいる。……サイが予想以上にショックを受けて、そっとしておいてやってくれ」カビーアに案内され、前日昇った階段を上がっていく。

 吹き抜けから空を見上げるサイが部屋の隅で小さく座っていた。こちらに気づいて向けた頬には涙の跡がある。それから彼の動かした目線の先に横たわる人型に被せられた綿の布。アニクだろう。


 うすい瞼がかたく閉じられた。

 指先でそっとめくった下に、昨日出会ったばかりの青年。ダーシャは一呼吸して自身も瞳を閉じる。溢れそうな思いを胸にとどめるも気持ちの整理は追いつかない。

 後ろから寄って来たサイがアニクを見下ろすのに気づき彼女は涙を堪えた。反対側にもカビーアが寄ってきて、彼女は躊躇いがちに彼らの背を撫でた。嫌がることなく、若者らは肩を震わせた。

 彼らがむせび、触れている背中が熱くなるのをダーシャは掌で感じていた。サイにそっと、アニクに触れてもいいか尋ねると彼はゆっくりと頷いた。

 ゾッとするほど冷たいのに、野花のようにいとおしい。

 ――どうして

 硬く冷たい頬から首を手で包む。彼はもう生きていないことを理解するのに受け入れることは叶わない。しかし失われた命に対して、この状況だからこそ彼女は冷静だった。

「太陽まで送ってあげようね」魂を供養してやることが残された者のできることだ。それを聞いて二人は顔を見合わせ首を縦に振りながらも何か言いたそうにしている。

「薪を買って、悲しいけどちゃんとお別れしよう」提案を受け入れてくれるか、この二人の心の傷を気にして彼女は言う。「そのことだけど……」カビーアが重く口を開き

「アニクから遺体は川に流してほしいって頼まれた」

 その言葉におずおずと彼女は

「それは火葬の費用を気にして?」と聞くが二人は首を振った。


 ダーシャはもう口を利かないアニクをもう一度見つめて、彼に教えた話を思い出す。この青年がどんな死後を望むのか。

 彼の体がまだある限りは魂がどこかへ彷徨って行ってしまわないよう絶対ここから離さない。その為には早い行動が求められるだろうと、決意をかためて動き出す。

 輪廻の輪を回り続けることを選んだ彼を、彼方へ送る準備を始めた。




 大きな布や添える花を夕方までに買い揃えると、決まりである白い布で彼を包んだ。

 辺りが薄暗くなるのを待って裏道からガンジス川へ降りて行く。昼間のごった返した火葬や沐浴の人の群れが落ち着いた川辺で、三人は再び別れを告げた。

 カビーアが運んでくれたアニクの亡骸はとても軽かったという。

 三人がアニクを思って選んだ三種の生花も敷き詰めた。ありったけの花の中で彼はひっそり眠っていた。


「仲間を何人もここへ運んで慣れてるつもりだったけど、やっぱり悲しいな」サイが布をほどいて彼の顔を見た。

 火葬でもなく、準備や形式も出来上がらないまま彼を送ることにダーシャは抵抗がないわけではなかった。それでもこの少年たちのために、可能な限り儀式らしい別れの場をつくってやりたかったのだ。

 ガンジス川の聖なる水を眠る彼の口に運ぶ。バラモン僧など呼べない彼らは小さく小さく囁くように、「ラーマ・ナーマ・サッチャ・ハイ」と合っているか自信のない送り文句を唱え終えた。

 これで本当に最期になる。

 遠慮していたダーシャだが二人が促して、からの体を包む布の中に眠る彼の額を撫でた。拭いてもとれなかった手についた血をなぞると、初めて触れるその感触が彼の本来持つものでないことを寂しく思った。

 これから若く、明日を希望した青年が天にのぼる。数の数え方や自分の齢も知らない彼が来世を望んだことを尊重し、君の冥福を祈る。

 ――惜しい、悔しい、寂しい。

 誰もが時の歯車の運びを知らない。

 沈めた彼の体を光の届かぬ黒い水が覆っていく。

「さよならアニク。きっとまた会えるわよね」岸から流れにのって暫くそれが見えていた辺りを見つめる。この世にある限りまた生命は廻ってくると信じることが、別れを経てなお生きる者の支えとなる。また残して逝く者の希望でもあるのだ。

 大いなる川にゆだねられた彼は聖地にて命の輪に還される。



 

 夜の市場を抜け、路地裏へと続く血の匂い。

 腹の中まで切られたアニクはみるみる衰弱していった。ねぐらに辿り着いた時は辛うじて浅い呼吸を続けていた。二人は彼を床に下ろし、止血に使える布をかき集めるもほとんど手遅れに近かった。

 それでもアニクは目を閉じず虚ろな瞳で救護にあたる二人の顔を探し続けた。どんなに夜が更けても二人は傍に居続けた。

「腕輪はどうした……?」不意に息も絶え絶えで聞いてくるアニクに、結果それは盗られてしまったことを伝えるのは酷なことだった。物はくれてやっても、命まで盗られてしまったら何にもならない。しかし彼らはアニクを叱ることもできなかった。

「しっかりな、アニク。ダーシャとの約束守らないと」


 返答の代わりに、ひゅう、ひゅうという音だけが響く。

 苦悶の表情で仰向けに横たわる。

 瀕死の彼のどくどく痙攣する腹を必死で抑え、冷えゆく手足の先をさすり続けた。見下ろすと唇が微かに動く。

「あ……会い、たい」

 見守る若い二人の心も、胃もきりきり痛んだ。

「……うん、うん」

 何度も頷いてそちらを見やると苦しそうな吐息を漏らす。


「……どうせ会えなくなるのにな。どうして明日だけでも……」

 弱気になった彼をどう励ませばよいかわからないまま、二人とも気持ちがいっぱいになってしまった。

 それ以外は皆言葉少なだった。アニクは静寂に包まれた吹きさらしの部屋で上を向いたまま涙をこぼした。それを見守り切なくなって、兄二人は眉根を寄せる。



 暫くしてついに、横になった彼が無理に笑顔をつくって自分をさするサイやカビーアの手を止めさせた。

 そしてもし俺が明日を迎えられなかったら、と話し出した。それが川の流れ還して欲しいという願いだ。彼女から教えられた話の通りならばと、彼は輪廻からの解脱を望まなかった。


 回り続ける。また命が紡がれる道を求めたのだ。


 彼は信仰というものはよくわからなかったが、あくまで自分にとっての幸せを問いかけた答えだった。

 この世の希望を捨てない。しかし叶わないものを抱きしめて届かぬ向こう側にある幸せに夢を描く、得難い境地であった。だんだんと穏やかな面持ちになっていくアニクはふと、腕を持ち上げた。

「戻って来る」

 空に浮かんでいる白く丸い月を指さす。肘から下をやっと顔の辺りまで持ち上げてそう言ったのだ。

 傍らの二人は意味を汲もうとアニクに続きを求める。朦朧とした瞳に光を映して消え入りそうに再度言う。

 俺はきっと戻って来る。

 くるくると指先を重たく回して月をなぞる。時をただ消費してきた青年が、意味の刻み方を知ったことで確かな生を求めた。けれどそれと引き換えに死を、別れを恐れることとなった。けれどもまた受け入れたのだ。命の大きな流れを生命皆がともにしていることを。

 彼女と出会って明日に胸をおどらせたのにも関わらず、彼の運命の歯車は皮肉にも閉幕へと向かった。生あるものの宿命が、選ぶことのできないその時の訪れを受け入れることの難儀さ。しかしてその青年の眠りの瞬間は、人生を悲観することないものだった。


 暗い夜に市場の灯りが溢れる頃。

 迷路のような市場の裏まで、賑やかな人々の声と足音の音楽とが闇の先から響いてくる。彼は夜風にさらされながら最後の景色を目に焼き付けた。失ってしまった彼女のくれた金の腕飾りを思い浮かべながら、ぼやける月の輪郭を拳の中に握ってこう思う。

 生まれ変わったらその時まで必死に駆け抜けてみせるさ。

 ――きっとまた、君に会える輪

                        〈終わり〉




 あとがき


 最後までお読みいただきありがとうございます。

 輪廻転生という舞台の上でいずれ終える現世を生きる意味や力強さ、家族による幸せ、また近年注目される葬儀・供養形態の変化を要素にしています。

「死」による別れを組み込みましたが、個人的に悲劇を美しいものとする形式に躊躇いがありました。それでも検討する中で、死は悲しいという認識を越え、時をともにした生命を思うまっすぐな気持ちに重きを置こうと決めました。若い青年が死ぬから、大好きな人々と別れてしまうから「何だか悲しい話」という印象にならないよう、生命の不思議で温かい部分にもたくさん目を向けました。

 登場人物らが家族や団欒を望む場面が度々ありましたが、筆者自身も幸せの形について悩んだ結果の色付けでした。幸せとは一つ決めることはできないものですから、それが全生命にとっての幸せかなど言及はしません。しかし彼らにとっては憧れという性格が強いのかもしれないと皮肉的に考えてしまった側面もあり、幸せの輪郭の朧げさ感じさせられました。

 輪廻になぞらえ作中に、小物や風景など円いものや輪状のものを意識的に書き加えました。アニクが最期に見ていた月もその一つですが、あの場面で彼が言った「その時」の意味を皆さんはどちらと捉えたでしょうか。少し前に記述された「死の時」、それか「ダーシャと巡り会えた時」としても「次の生を一生懸命に駆け抜ける」アニクの意思が伝わっていたなら、筆者にとってこれ以上嬉しいことはありません。

 最後までお付き合いいただき、改めてお礼申し上げます。

                   

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ベナレス 〜きっとまた君に会えるわ〜 坂本治 @skmt1215

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