彩色にあふれて
銀髪ウルフ
第一項 結末という名の呪縛
この世で最もつまらない事、それは事の結末がわかってしまうことだ。
それらは何でもいい。
試験の合否、試合の勝敗、推理小説に出てくる犯人、ゲームのラスボス、コース料理のメイン、宝くじの結果。
それらは日常のありとあらゆる場面に存在している。
いや、普通の人たちはあまり気にしていないかもしれないがそれらは非日常にも存在しているのだろう。
ただ気づいていないだけでそれらは確かにそこにある。
例を挙げて言えば、人の寿命もそのひとつかもしれない。
人は寿命がどれだけあるかを知らない。
他人のはもちろん、自分自身の寿命ですらも決して知ることはない。
だが、もしもその寿命を知ることができるとしたらどうだろう。
寿命、それはつまり私という個人が紡ぐ物語の結末を知るという事。
人は必ず死ぬ、だが皆自分だけは死なないのではないかと考える。
ほとんどの人にとって死という現象が身近にないから、死という存在はいつもどこか抽象的で現実離れしている。
だからこそ人は先のわからない未来に期待をはせ、自らの人生に彩を加える。
それがその結末を知ってしまったとしたら?
その途端に自分の人生がとてつもなくつまらないものになるはずだ。
なぜ?
期限を決められると人はできない、そう思い込む。
たとえば死ぬまでに色んな国に旅行に行きたいとそう思っている人がいるとしよう、その人は60歳で死ぬ。
そうするとその人は途端に永遠かと思っていた自分の人生に終わりがあるものだと痛感するだろう。
そうすると色々な国に行きたいと思ったが60歳で死んでしまうなら無理だな、などと考える。
実際は海外に行けなくなるわけではないのだから行こうと思えばいくらでも行けるはずだ。
それを無理だと決めつける、諦めたから。
その人は、結末を知った途端に旅行という彩を失った。
このように結果を知ってしまうと人は理由をつけて諦めようとする。
諦める、その行為をとった時、人は人生から彩を失う。
そして彩を失った人生は無機質でつまらないものへと成り下がる。
それは人生にばかり言えることではない。
すべての事に言えると私は思う。
結果よりも過程が大事、頑張るという行為に意味がある。
これはよく聞く言葉だ。
この言葉の言いたいことはよくわかる。
だがこの言葉も核心からずれているように思えてならない。
確かに過程は大切だ、結果がわからないからこそ自分の望む結果を手に入れようと努力する。
たとえその努力が報われずとも努力をしたという事実は自分の糧となる。
その糧はいつか身を結ぶ。
今ではない将来に。
素晴らしい、確かにそうだ、だけど本当にそうなのか?
確かに未来がわからないから今、努力をする、正論だと思う。
だが、なぜ結果が、結末がわからないのに努力をする?
その努力は何のための努力だ?
将来の為?
将来があるともわからないのに?
その行為は無駄ではないのか、そう思う。
どうなるかもわからない将来の為に今という時間を削る、その時点で私たちは結末、という呪縛に縛られているのではないかと思う。
結末を知れば未来を諦める。
結末を知らなければ先しか見えなくなる。
その時点で私たちは今という彩を失っているのではないか。
わたしは先の幸せ為の行動を模索するのではなく今の幸せを模索するべきだと思う。
確かに先の幸せを手に入れられたらどんなにいいだろう。
何十年後かに自分の画用紙が様々な彩で溢れている。
想像するだけで笑みがこぼれる。
だがそれがどんなにきれいでも小さく浅い。
美しいものであることに変わりはないが薄っぺらいものに見えてならない。
だが逆に今の幸せを第一に考えればその時点で自分の画用紙に彩が入れられる。
それらの彩は年数とともに塗り重なれ、単色では表せない深みを持つ。
そしてそれは人生の終点にたどり着いたとき初めて絵となり完成形となる。
人生全てをかけて完成させた絵は誰にも真似できない究極の美となり永遠に存在し続けるだろう。
だからこそ私は結末を意識しつつも今を第一に、様々な彩を重ねていきたい。
そこには幸せだけが描かれなくてもいい。
暗い感情、暗い彩があったっていい。
人生は幸せなことばかりではないから。
けれどその闇を乗り越え次に彩を重ねることができたのであればその絵はより素晴らしいものになるはずだ。
闇がなければ光は輝かないように不幸を知らなければ幸せのありがたみに気づけない。
相反するものがあるからこそ世界は成り立つ。
では結果の反対は何になるのか。
それはきっと、
“始まり”
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