学生異能連合 ~お悩み解決は異能で~
宵薙
#1 舞い込む依頼
薄霧がたちこめる洋館の中に、霊がいるから討伐してほしい――俺、和宮 雷が所属する「異能力特別調査隊」にそんな依頼が来たのは、つい先日の事だ。
洋館でホラーなんて一体何年前からどれだけの作家や脚本家が小説やドラマにしてきたかと飽き飽きするようなシチュエーションだが、どうもこの度の事件は違うらしい。
2055年――フィクションの中で何度も使われてきた「異能力」がついに現実になった。東京オリンピックが行われたという2020年から三十五年。日本は激動の時代を迎えており、先進国から転落した日本は、昔の明治時代と同じように欧米諸国に追いつく必要性が出てきたのだ。
三十五年で世界も変わった。無人ドローンなどの戦闘方法は各国で研究されたために使い物にならなくなり、その結果「異能」という新たな戦闘方法が編み出されたのだ。
今ではAIの勢力を再びテクノロジーの力で人間が押し戻すという、革命さえ起こっている状況だ。三十年前には《シンギュラリティ》といって2050年頃にはAIの知能が人間を上回り、人間を支配したり、仕事を奪ってしまうのではないかと危惧されていた。
しかし実際にはそんな事もなく、普通の暮らしを送ることが出来ている。昔の人が今の状況を見ると、きっと驚くだろう。
政府からのデータによれば、十五歳から二十三歳の高校生や大学生と、若い年齢層が異能に適応出来るという。
何故だかまだ解明は出来ていないが、それ以外の年頃の人々は異能力を使えないのだそうだ。
その異能力だが、使える人々の中でも特に優秀な集団には政府から特別なバッジが送られ、民間の企業などから依頼を委託することが可能になっている。
それでそこそこ小遣いを稼ぐことも可能であるため、全国の高校生の憧れのバイトとなっている状況だ。
高校二年生である俺は、大学受験を後一年後に控えているが、異能が使えるということである程度の試験はパスされるので、学校との両立もしっかりと出来ている。
異能力特別調査隊は、高校生五人と大学生二人の計七人で構成されているチームだ。企業からの委託を受けているといっても所詮は学生なので、案外フリーダムなスタイルを保っている。
学校がある日は、高校生ならば一日二限まで抜けることが可能。大学生はコマを自分で設定するので、空きコマや夜の依頼を受けることで対処している。
コーヒーに砂糖とミルクを入れ、マドラーでかき混ぜながら、俺は依頼書を見つめる。依頼してきたのは、警察だった。
どうも、ある場所で連続失踪事件が起こっており、飛ばされた後に帰ってきた人々が口々に「洋館の中に引きずり込まれた」と話しているのだそうだ。
帰ってきたならばいいではないか、と思うが中には何日も帰ってきていない人もいるらしく、警察が手を焼いているのだという。
「この依頼、優先度高いと思う?」
俺は横のデスクで黙々とペンを走らせる女子、天断 樹里に話しかける。
長い黒々とした前髪を赤いピンで留めており、ぱっちりとした焦げ茶色の瞳が印象的な同級生だ。人当たりがよく、身長は百六十センチほど。俺より少し低いぐらいだ。
スタイルがいいため学校内では人気者で、文化祭のビデオ係や演劇部からはよく出演依頼がくるほど。しかも彼女は、忙しいにもかかわらずその依頼を断らないため、好感度の上昇が止まらない状況なのである。
クラスは違うが、高校は同じ所に通っており、幼稚園からの幼馴染みでもある。いわゆる腐れ縁というやつだ。
「うーん、低いと思うな。金額もそこまで高くないし、時間も夜九時以降に限定されているもの。日中は他の依頼を消化して、その依頼を進めていくのはどうかな」
「だよなぁ……何か気になるところがあるかって言われたら、集団転移って書いてあるところかな」
「集団転移? どこに?」
「その洋館に。なんか、普通に歩いていただけだったはずなのに、いつの間にか洋館の前に辿り着いているんだとさ。気味が悪いし、変な霧も出るしで、引き返そうと思ったら扉が開いて――」
その瞬間、勢いよく彼女が椅子から立ち上がり、俺の口を塞ぐ。あまりの勢いに、俺はデスクに置いていたコーヒーをこぼしそうになった。もがく俺を、天断はにらみつける。
「待ってそれ以上は言わないで‼ 私が怖いものやおばけが苦手って知ってるでしょう⁉」
「わ、悪かったよ。でも重要な話だからさ……天断も多分いかなきゃいけない事になるだろうし。あと連れていけるとなったら……零さん暇かなぁ」
「あー……あの人ねぇ……でも忙しいんじゃないかな。転移異能使えるのって日本探しても零さんしかいないんでしょ?」
「零さん学生じゃないのに、異能使えるし。集団転移以外で件の館に行けるかどうかってのは気になるところなんだけどね」
零さんこと、羽谷 零は日本でも数人しかいない学生以外の異能使いだ。零さんの異能、《瞬間転移》は全国どこでも事件が起きればすぐに駆けつける事が出来る異能だ。
そのため、零さんに依頼する人はとても多い。本人は面倒な仕事は選んで断っているらしいが、それでも依頼する人の数は全然減っていないという。
フリーの日はだらだらとソファーに寝っ転がり、お菓子の袋やビールの栓を開けまくるおじさんとしか俺の目には見えないのだが、戦闘ではバリバリ活躍するらしい。
俺は、ちょうどいい温度になったコーヒーをすすりながら、今日の昼の依頼を選ぶことにする。
「うーん。どれにしよっかなぁ……夜は、まあさっきの依頼を片付けるとして……」
「そうね……あ、これがいい。《きつねのおつかい》」
「はぁ? なんだそのほのぼのした依頼名は……って可愛いな……」
依頼書に書かれていた狐の姿は、本当に絵本で描かれるような小さくて可愛らしい姿をしていた。
耳の部分には花のかんざしが刺されており、ファンタジーの世界にいそうな感じだ。おつかいするものも《あぶらあげ》と、どこまでが本当なのか嘘なのか分からないような内容である。
「でもさ……これ、絶対狐が異能必要な奴だぞ。だってそうでもなきゃ俺達に頼まないだろうし。この狐が怖いバケ……」
「はいストップー‼ そんなこと言わないで‼ 夢が壊れるから!」
「夢も何も、俺達にあったもんじゃないだろ……ほぼやってること、社畜と変わらないし……」
「いいから行くの!」
「はいはい、狐に騙されてどうなっても知りませんよーだ……」
天断のこういう所は面倒くさい。一度決めたことは変えない性格で、頑固者なのだ。俺は頭をかきながら、しぶしぶ表に出ていく彼女の後を追った。
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