第23話 旅行先選択の晩御飯。ちょっとだけ贅沢な味噌ラーメン 下

 その日の夜。自宅最寄り駅の改札で俺は待ち人していた。

 電車が到着したらしく、次々と人がやって来るが……いない。

 携帯でメッセージ。


『あーあー。先に行く。おーばー』

『待ってっ! 落ち着いてっ! 短気は損気っ!! 可愛い女の子と待ち合わせなら、何時間でも待つ価値がある筈っ!!』

『お前、自分から言い出しておいて、人を待たせるとは……あと可愛い? はて?』

『私は客観的に見ても可愛いですよ? 篠原雪継君。これを見よー。見よー』


 私服姿の写真が何枚か送られてくる。

 なお、撮影者の悉くは俺である。新鮮味は皆無。

 素直に回答。


『見飽きた』

『ひっどーいっ!!! 雪継、酷過ぎっ!!! 何? あられもない私の姿じゃないとダメなわけっ!? へんたいっ!!!』

『それはGW中に見せてくれるんだろ?』

『!?!!!! え、えっと…………』

『当然、冗談だが』

『し・ね・ば・い・い・の・にっ!!! あ、もう着くよー』

『ほいよ』


 そうこうしている内に次の電車が到着。

 早歩きでホームから四月一日幸がやって来るのが見えた。

 改札を通り抜け、敬礼の真似っ子をしてくる。


「お待たせしました! 隊長殿!!」

「遅れた理由を聞こうか。と言うか、何故、待ち合わせ??」

「え? 偶にはいいかな~って。今日、帰りの時間合いそうだったし。嬉しい?」

「いや、別に。普通」

「またまた~。でもさ……」

「ん?」

「――私はちょっとだけ、嬉しいよ?」


 四月一日がはにかむ。

 高校時代と変わらないわな、こういうところは。

 俺はそっぽを向き促す。


「ほら、行こうぜ」

「うん♪」


※※※


 俺達の住んでいる町は、とても生活しやすいと思う。

 安いスーパーはあるし、肉屋、八百屋、魚屋がある商店街も健在。

 なので、会社帰りにこうして、スーパーに寄って買い物も出来る。

 のだが……


「うぅぅ……」

「そろそろ、決めろよー。後は、それだけだぞー」

「待ってっ! やっぱり、ここは定番の味噌ラーメン。いやでも、やっぱり、塩。それとも、オーソドックスに醤油……」

「チキンラーメンでもいいぞ」

「駄目っ! 私は今、ちょっと贅沢なラーメンが食べたいのっ!! チキンラーメンは美味しいよ? 確かに美味しい。でも、違うのっ!! 乾麺じゃないのっ。生麺の少しだけお高いラーメンが食べたいのっ!!!」


 四月一日が力説する。子供か。

 こんな姿を会社の人達が見たら、どう思うんだか……新人さん達からの尊敬度も高いというのに。

 俺は棚に並ぶ各種ラーメンを見やる。

 普段買うのは乾麺。生麺はあまり買わない。

 というより、ラーメン自体をそこまで食べないかもしれない。何だかんだ、二人してご飯党なのだ。

 故に……いざ、食べようとすると、選択に迷う結果となる。『今晩はラーメンにしよう!』という提案を受けたのは間違いだったか。……腹、減ったなぁ。

 未だ悩み続けている四月一日を放置、俺は一番お高い味噌ラーメンを手に取る。


「あ!」

「今晩は味噌ラーメンとする! 生姜とネギを炒めて、ぽかぽかになるやつ」

「……コーン、たくさんがいい」

「許可する」

「わーい。あ、ハムは、ハムは??」

「親父の送ってきたやつ」

「厚切り?」

「厚切りで。では、コーンを確保せよ!」

「りょーかいっ!」


 四月一日が笑顔で缶詰コーナーへ。……やっぱり、子供か。

 籠の中には、キャベツ、人参、ピーマン、生姜。

 うん。野菜たっぷり味噌ラーメンでいいわな。


※※※


 帰宅し、早速調理を始める。

 白猫エプロンをつけ、早速、生姜とネギ、ニンニクを刻み、温め油を入れておいた中華鍋へ。

 隣で野菜を刻み終え、次はハムを分厚く何枚も切っている、黒猫エプロン姿の四月一日が話しかけてきた。


「そう言えばさー」

「うん? あ、辛くするか?」

「いいよー」

「豆板醤」

「はいはいー」


 冷蔵庫を開けた四月一日が豆板醤の瓶を渡してきた。

 多めに中華鍋に投入。辛い香り。


「で? 何だ??」

「GWのことっ! 何処行く??」


 アルミホイルを敷いたトースターへハムを入れ、猫が描かれた丼を取り出しながらの質問。

 ボウルに入っている野菜を中華鍋へ投入。炒めつつ回答。


「箱根、熱海、銚子なぁ……他でもいいぞ?」

「私は温泉があればそれでいいー。湯上り浴衣姿で、朴念仁を打倒しないといけないからっ! からっ!!」

「ははは。御冗談を」

「……そんなこと言いながら、ちょっとドキドキしてるくせにぃ★」

「……麺」

「あ、はーい」


 別で沸かしておいた鍋が沸騰。四月一日が二人前の麺を入れる。タイマーをセット。ここからはスピード勝負だ。

 野菜を炒め、中華鍋にお湯とスープの素を投入。一煮立ち。

 俺は丼へスープを配分。タイマーが鳴る、四月一日が鍋の火を止め、ざるに麺を上げ、湯切り。配分。

 俺はトースターからハムを取り出す。八枚。一人四枚とはなんつー贅沢。

 隣から小さな手が伸びて来て、スプーン山盛りのコーンがどさり。丼の周囲が紙で綺麗に拭われる。見るからに美味そう。

 テーブルへ運び、向かい合って着席。


「「いただきまーす」」


 まずはれんげでスープ。

 生姜とネギ、にんにく。それに豆板醤が聞いている。うまし。辛し。

 野菜と一緒に生麺をすする。これまたうまし。乾麺も美味いけど、やっぱりちょっと次元が違うと思う。

 ハムを齧りながら、先程の返答。


「――俺も温泉あって、ゴロゴロ出来れば何処でもいいよ。強いて言えば、美味しい料理付きで」

「温泉入って、午後のワイドショーとかをつけっぱなしにして、畳の上でゴロゴロしながら、アイスとかポテトチップス買って来て?」

「そういうこと」

「――うん♪ 私もそれでいいー♪」


 何となく、お互い笑いあう。

 とても二十代前半の男女がする会話じゃない。色気は何処へ行ったのやら。

 まぁ、今の俺達なんてこんなものだろう。

 ……こいつの浴衣姿を想像すると、若干、ドギマギするのは事実だが。


「あー! 雪継、今、いやらしい目してたー! やらしぃ★」

「……冤罪は良くない。俺は最後まで戦う」

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