【27】謎の焼鳥男

結局俺は自宅には戻らずに事務所の

ソファーで眠り朝を迎えた。


「匠君おはよー!帰ってこないと思ったら…

こんなところで寝てたのね?」


「あれ?翼、もう大丈夫なの?」


『匠君おはよー!誰が看病したと思っているのよ?熱も下がっているし今日は運転匠君でしょ?私がちゃんと見ておくから心配しないで大丈夫だからねー!』


本当、幸栄さんってお母さんみたいな人だなと思ったけれど、言ったら怒られそうなのでやめておこう。


『それより、昨日の夜なんかあったの?寿郎が戻ってきたと思ったら、すぐに電話かかってきて戻ってたでしょ?私も起きていたわけじゃないんだけど、何か一人でバタバタしてるわ~って思ってたのよね。』


「いやー、実はね……」


昨晩に起きた出来事を話すと、二人はサスペンスドラマを観ているかのように真剣に俺の顔を見つめ、話の続きを待っている。


『で、焼鳥男が帰った後はどうなったの?』


焼鳥男って…特撮ヒーロー物に出てきそうな名前を突然出され笑ってしまった。


「…その後、入れ違いでえりかさんが戻ってきてね、聡さんの近くでうとうとしていた渡辺さんがロビーに出てきて怖い顔してたから

"え?何この空気"みたいな感じになりまして…焼鳥男が来たことを伝えたの……」


『ふーん、なるほどね。で、

その焼鳥男の正体はなんだったの?』


「渡辺さんを落ち着かせてから、えりかさんに話を聞いたんだけど…その、聡さんは焼鳥男の交際相手に刺されて亡くなったらしいんだよね…」


「『はぁ?なに?聡さんは浮気してたってこと?ごめん、ちょっと意味わかんない!』」


興奮から大声を出した二人に向かって

"しー"っと指を立てて合図をすると我に返った二人は自分の口を押さえて何度も頷いていた。


「いや、浮気していたわけではないよ?俺も話聞いて混乱したんだけど…焼鳥男の交際相手は"男の人"らしいからね。聡さんがいつも焼鳥男の店にいるから、焼鳥男が聡さんと浮気してるって、交際相手が勘違いしちゃったらしいのそれで、犯行に及んだという…だから、焼鳥男は渡辺さんとえりかさんに謝りたかったんじゃないかと俺と寿郎は推測していたわけ。」


二人で顔を見合わせて"もう、訳がわからない!"という表情をしている翼と幸栄さん。

きっと、今日も聡さんが現れてくれるはずだし、その時にでも詳細を聞いてみよう。


「あ、幸栄さん?寿郎多分車で寝てるから起こしてきてくれるかな?俺がソファーで寝てたから多分、車に戻ってるはずだから!」


『あ、そういえばいないわね、了解!』


導師様が到着し、参列者二人だけの葬儀が

しめやかに営まれている。

幸栄さんと翼が場内に入り、俺と寿郎が霊柩車の出発の準備をしていると喪服をきた体格のいい男が歩いてこちらへと向かってきている。ま、まさか…あれは、やってきたのは

昨晩の焼鳥男だった。あれだけ渡辺さんに罵倒されたというのにまたしても現れるとは、中々の根性だ。それだけ罪の意識に苛まれ

自分を責めているのだろう。


『…昨晩は失礼しました。

あの…葬儀は始まっているでしょうか?』


「あ、えぇーっと…お名前

伺ってもいいですか?」


『あ、失礼しました、佐藤と申します。』


「佐藤さん?あなたは罪の意識でこちらにこられているとは思います…、しかしご家族が拒否されているあなたを中に入れるわけにはいかないんですよ…。えりかさんに事情は伺いましたので佐藤さんのお気持ちもわかるのですが、本当申し訳ありませんがお引き取り頂いてもいいですか?」


『わかりました、関係のないあなた方にまでお気遣いさせてしまい申し訳ありませんでした…』


肩を落として引き返していく佐藤さんに

突然、寿郎が声をかけた。


『あの、佐藤さん?霊柩車が出発したらあなたの店の前を通って、火葬場へと向かうようにします。だから店の前で待っててもらえませんか?見送りしたい気持ちもわかりますが、それで我慢してもらえますか?』


突然の提案に顔を上げて俺達に近寄ってくると、発案者である寿郎の手を握り何度も頭を下げてお礼をいい続ける佐藤さん。

會舘の前でタクシーに乗ると急いで店へと

戻って行ったようだ。


「なぁ、寿郎?翼、本調子じゃないし、今日はお前が一緒に霊柩車に乗ってくれるか?」


『任せろ、事件の真相は俺が暴いてやる』


葬儀が終わり、すっかり探偵気分の寿郎を

乗せた霊柩車は出発の準備を済ませて

"プァーーーーーーーーン"という別れの

クラクションを鳴らし會舘を後にした。

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